第20話


 うー、なんだか緊張する……。今日ははじめて屋敷、どころかカーボ辺境伯領を出る日なのだ。無月に入ったことで、兄上を迎えに行くことになったため、こうして馬車に乗っているわけなんだけれど。実は馬車はほとんど乗ったことがない。前は移動は徒歩か馬。馬車なんて優雅に移動しているのも惜しいくらいだったからね。

 王都へ行くという話を聞いて、真っ先に馬で行きたいという話をしたんだけれど、速攻で断られてしましました。なぜ、といいたいところだけれど理由はわかっている。まあ、この体で数日馬で移動したら、熱出して終わるよね。ということで、おとなしく馬車に乗っております。


 なんと王都までは5日の道のりらしく、途中では他領に屋敷を借りて泊まるらしい。これが父上とか騎士だけならば馬での移動、そして野営のために泊まる場所を考えなくていいことから、2,3日で着くっていうから結構違うよね。

 馬車はごつごつと固い座席やガタガタと揺れるのを覚悟していたんだけれど、そんなにひどくなかったので助かりました……。座席はなんだかふかふかだし、もふもふなクッションもたくさん入れられていて結構快適かも。広いから(僕が小さいわけではない)、体を伸ばすこともできるしね。

 

 馬車数台で移動しているんだけれど、前から2番目の馬車に母上と父上が、3番目の馬車に僕とイシュン兄上が乗っている。そう、イシュン兄上もついてきているのだ。なんでも従伯父の代理らしい。ほかの馬車には叔父上や叔母上も来ているらしく、結構な大人数だよね。ちなみに姉上は留守番です。


「それにしても、どうして姉上は留守番なのに僕は王都へ行くの?」


 別に僕も留守番でよかったのでは? と口にすると、そうしたかったんだけれどね、と少し不機嫌そうに言う。つまり何か事情があるということですね。


「一番大事な用事はほかにあるんだけれどね、君に会わせたい人がいるんだそうだ」


「会わせたい人、ですか」


 一番大事な用事というのも気になるが、その会わせたいという人。なんだかあまりいい予感はしない。イシュン兄上も今にもため息つきそうだもの。いや、どうしてそこまで嫌がるのかは全く分からないけれど、いったいどんな人なんだろう……。


「マナーとか、詰め込んでもらったけれど大丈夫かな……」


 そもそも屋敷から出たことがないから、親族とか父上の部下とかしかあったことがない。つまり何か無礼をしてしまっても許してくれる相手。でも王都に行くともっと上の貴族もいるんだよね……。それこそ王族も。


「アランなら大丈夫さ。

 今からそんなに緊張していたら、王都まで持たないよ?」


 そう、それはそうなんだよね。やっぱりいったん考えないようにするのがいいかな。


「そういえば、アランは辺境伯家のタウンハウスも初めて行くのか」


「タウンハウス?」


「そう。

 領都にあるものとは別で、王都には辺境伯家所有の屋敷がある。 

 当主たちが王都に滞在するときや、子供が学園に通うときに使っているものだね」


 もしかして、今兄上が暮らしているところかな。行ったことがないから興味はあったんだよね。領都の屋敷は有事の際は立てこもることもできるように堅牢に作られている。でも、王都のお屋敷はスタンドグラスが使われていたり、一部には木が使われていたりと装飾にも気を使っているとのこと。いつか遊びに行きたいとは思っていたんだよ。


「それに、もしかしてアークレッフェ公爵家の方々に会うのも初めて、かな?」


 アークレッフェ公爵家。名前はもちろん聞いたことがある。この国で公爵を名乗ることが許されているのはたった三家だけだしね。確かに会ったことはないけれど、どうして今その名前がピンポイントで出てくるんだろう?

 思わずきょとんとしてると、そうだよね、と言われてしまいました。いや、今一体何を納得したの?


「アークレッフェ家はフェルシア様のご実家だよ。

 つまり、アランの外戚ということだね。

 皆さん君に会えるのをとても楽しみにしているそうだ」


 そうだったの⁉ 母上がもともと公爵家の人だったなんて知らなかった……。なんとなく、お貴族様って高位になればなるほど自分では動かないで、指示ばかりしているイメージがあったけれど、ここは全然違うんですね……。


「マリーが初めて王都に行った時もなかなかにぎやかだったけれど、今回はそれ以上になりそうだな」


「どうして?」


 姉上も王都にいたことがあったのか、と今更かもしれないことを驚きながらもそう口にすると、またもやイシュン兄上は嫌そうな顔をする。


「マリーの代と比べて、アランの代の前後は主要な家の子供が多いからね。

 第二王子であるシフォベント殿下、それにアークレッフェ家、クルミレート家の長男、シベフェルラ家の長女。

 まさか王家と三大公爵家の子がそろうとはって当時は相当に騒がれたんだよ」


 なんだか本当に大集合、って感じなんですね。しかも長男ってことはよっぽどのことがなければ、そのまま家を継ぐことになる。つまり未来の宰相とか騎士団総帥ってことか。え、もしかして僕に会わせたい人って……。うん、考えないことにしよう!


 そうして泊まる先々で手厚い歓待を受けつつも無事に王都へ到着しました!まあ、さっさと寝た僕には歓待とか関係のない話だったけれどね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る