第18話『始まりの魔女』


1.カーボ・カヌバレ戦争

542年、アルフェスラン王国はツーラルク皇国と5年ほどにわたり土地をかけた戦争を行っていた。アルフェスラン王国カーボ領およびツーラルク皇国カヌバレ領において繰り返し衝突するも、長く決着がつくことはなかった。長く戦争を行ってこなかったアルフェスラン王国では長引く戦いに、国民も騎士団も疲弊していった。死傷者が出る日々、食べるものも減っていくなか、降伏も検討案に入ってくるほどだった。

 この戦争において、ツーラルク皇国大将軍として名を上げたのはラルヘという一人の隻眼の男だった。圧倒的な剣の強さで何度もカーボ領を攻めるも、一般民を襲うことはなかったかの人は人々の目には奇妙に映ったという。奪うことも奪われることも、赦すことも恨むことも、疲れ切った王国民にはその行いが正しく響くことはなかったようだが、のちの世でカーボ辺境伯を含めた騎士たちは敵ながらあこがれを持たざるをえない人物であったと語る。


2.ルベーナという名の少女

 そんな大将軍の死は、突如としてカーボ領に現れたルベーナという名の少女によって伝えられた。両目で異なる色の輝く瞳を持つその少女はラルヘの妹を名乗っていたという。当初ツーラルク皇国の密偵を疑われたその少女は、突き付けられた刃にも臆せずただ兄の敵を取らせてくれ、という話をしていた。どのみち、このままでは負けることしかできないのだ、というどこかあきらめの感情を持っていた辺境伯はこの申し出を受けることにした。

 すると、その少女は何もないところから炎を出し、氷を出し、それらを見事に操ることで次々と皇国兵をなぎ倒していった。それはのちに『魔法』と呼ばれることとなる。

 目をきらめかせながら、そうして多くの敵を倒していった少女は最後、ついに皇帝ベルタクトラに刃を届かせた。その時に何があったのか、少女も皇帝も語ることはなかったが、強い光に包まれたかと思うと二人とも戦いを放棄したという。

 そのまま、皇国と王国は休戦協定を結ぶこととなり、現在まで続いている。


3.始まりの魔女

 休戦後、どこかへと消えていこうとするルベーナを止めたのは王国の王太子だった。少女が持つ特異な力を王国にもたらしてほしい、そういうとルベーナはそれに従った。王太子との結婚後、彼女はその間に4人の子をもうけた。そのうち1人である第一王女は休戦の証に、とツーラルク皇国へと嫁ぎ、第一王子はアルフェスラン王国の王位を継いだ。そしてルベーナの4人の子はすべて色の異なる輝く瞳を持っていた。そしてルベーナと同様、『魔法』使うための力、『魔力』を受け継ぎ、さらに魔法を磨かせた。

 代を重ねるごとに王国中に広がっていったルベーナの血と魔力は、その濃さを保つことはできなく、現在では輝く瞳を持つものも、異なる色の瞳を持つものも減少の一途をたどっている。異なる色の瞳を持つもの、つまりオッドアイの子は例外なくルベーナのような強力な魔力を持ち、輝く瞳、つまり宝石眼を持つ子は一般よりも強い魔力を持つ。

 

 こうして王国、並びに皇国に新たな力をもたらし、戦争を終わらせたルベーナのことを経緯を込めて『始まりの魔女』と呼ぶこととなった。


4.魔力

 一説によると、人類はみな魔力を所持しているという。だが、それを魔法として放出できる人がとても限られている。この力はスラント大陸、ミドレリュ大陸において神より与えられた特別な力ととらえており、それを無遠慮に広めたビッケア大陸の国に対してあまり良い印象を持っていない。また、彼らは現在においても青と赤の宝石眼を持つものを探しているというが、その理由は不明である。

 基本的には魔法を扱うことができるものは、その才能により扱えるレベルは異なるが使える種類については差がないと考えられる。


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