第10話
どうして、こうなったんだ……。
「アラン、つまらないのだったら今日はわたくしのところに来ない?」
姉さまに急に誘われたのは、とある朝のこと。どうやらパーティーまでの目途が立ったらしく、僕が行ってももう大丈夫らしい。でもな……。
「アラン?」
「そうだね、こちらにいるよりもその方が退屈しないかもしれない」
兄さままで! そうしたら選択肢なんてないじゃないか。
「そのまま一緒にマナーの授業を受けましょう!」
あああ、どんどん決まっていく。これはもう逃げられなさそう。あきらめて姉さまについていくことにしました。もちろんちゃんと眼帯もつけて。
「まああ!
お可愛らしい!
こちらの方は?」
キラキラ、いやギラギラ? とした目をしたご婦人に乗り出され、早くもギブアップしそうです。しかも一人じゃない。ほら、と背中を押されて恐る恐る前へ出ていった。
「あ、アラミレーテ・カーボです」
「アラミレーテ様?
ああ、こちらが例のマリアンナ様の弟ですか!」
て、テンションが高い! かろうじてこくりとうなずいた。
「まあまあ!
マリアンナ様のご試着が終わりましたら、アラミレーテ様にも何か着ていただいてもよろしいですか⁉」
「ええ、もちろん。
でも手加減はお願いね」
母さま、勝手に了承しないでください……。早速姉さまが奥に行き、ドレスの試着が始まったみたいだ。その近くでは何人かが猛スピードで何かをしていた。
「ねえ、アラン。
どうかしら?」
そういって奥から出てきた姉さまはたっぷりとレースがあしらわれたふわふわのドレスに身を包んでいた。髪の色のような淡いピンクのドレスはとても可愛らしい。
「とてもかわいいです」
「ありがとう」
「こちらがヘキューリア様の衣装になるのですよ」
兄さまの衣装もあるのか。こちらはすっきりとしたデザインのブルーの衣装だ。姉さまのドレスよりも少ないけれどレースがあしらわれている。それに同じ装飾もあって、きっとこれを着た姉さまと兄さまが並ぶとペアルックみたいになりそう。
「アラミレーテ様もこちらを着てみてください!」
パーティーに参加する予定のない自分の衣装はないものだと思っていたけれど、そういって差し出されたのはイエローの衣装。これもどことなくほかの二つと似た衣装だ。
「さあ、こちらへ」
戸惑っているうちにさあさあと奥へと連れていかれる。いつの間にか着替えが始まっていた。
「あら、この眼帯はどうしましょう……」
「この服には似合わないわね」
「とってしまっても大丈夫かしら……」
「ダメ!」
ぼんやりとしていたら、いつの間にか恐ろしい会話が繰り広げられていた。家族とかの前以外で眼帯を取らないってイシュン兄さまに約束したんだもの。眼帯を抑えると、着替えをしてくれていた人があわてて謝ってきた。これならもう取ろうとしないよね?
そしてそのあとは何もしなくてもいつの間にか着替えが終わっていた。いつもはゆったりとした服ばかりだからなんだか違和感。
「どうぞ、ご覧ください」
そういって示された方を見てみれば、そこにはブルーの瞳に眼帯をつけた一人の少年、少女? が立っていた。なんだか見覚えのある服を着たその人は僕が体を動かせば一緒に動く。これは何⁉
「もしかして、鏡をご存じなかったのですか?」
鏡? 聞いたことはある気がする。えっと、自分の姿をそっくり映すもの、だっけ。
……え⁉ アランってこういう見た目だったの⁉ 目は真ん丸だし、金月を溶かしたみたいな髪はサラサラだ。いや、本当に男?
「アラミレーテ様?
マリアンナ様やフェルシア様にお見せにならないのですか?」
さあ、とせかされて二人のもとへ行くと、すぐに歓声が上がった。び、びっくりした!
「とっても似合っているわ、アラン」
「本当にかわいい!
アランがパーティーに参加しないことが残念過ぎるわ。
きっと皆アランのことかわいがるのに」
いや、むしろ参加しなくてよかったかもしれない。まさかあんな見た目だとは思わなかった……。
「アラミレーテ様は鏡を見たことはないのですか?
先ほどお見せしたらとても驚いていられましたが」
「そういえば、アランの部屋に鏡を置いていなかったわね。
今度置きましょうか」
あっ、置いてくれるんですね。少しでも見慣れておくか……。
「フェルシア様、もし御不快でなければなのですか……。
アラミレーテ様に眼帯をおつくりしてもよろしいでしょうか?
こんなおかわいらしいお顔に、そのような眼帯はとても耐えられません!」
急に何を、と戸惑ったのは僕だけだったみたいで、姉さまも母さまもぜひ! とのりのりだ。そうですか。
これでようやく終われると思ったのに、なぜか次はこちらを! とまた奥へ連れ込まれる。そしていろいろとあきらめてぼーっとしていたのがいけなかったのだろう。
できました、と言われてまた鏡を見ると、そこにはドレスを着た、少女が……。いや、ドレス⁉
「僕、男だよ⁉」
「とても、とてもお似合いです!」
いやいや、似合うとか似合わないとかじゃなくて! まさかドレスを着せられるとは思っていなかった。というか、なぜここに僕が着れるサイズのドレスがあるんだ……。
そのまま、また姉さまや母さまの前に連れていかれる。ああ、うれしそうですね、はい。本当にどうしてこうなったんだ……。
結局始めに着たイエローの衣装にもう一度着替えました。そして、そのままマナーの授業を受けることになりました。マナーの先生はなんと母さま!
「今日はアランもいるし、パーティーも近いから基礎の復習から始めましょうか」
そういうと、礼の仕方やあいさつの順番、言葉。歩き方やエスコートの仕方。お茶の飲み方まで指導が入った。そのままお昼の時間になったこともあり、食事のマナーも一緒に教えてもらう。今まで気にしたことがなかったから、それだけでもとても大変だった。
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