SS13 ひとときの平穏すらも
今日も、敏雄は出撃する。
そして帰ってきたらデータ取り、そして戦闘訓練。
「お疲れ様。」
「…ふう。」
それらが終わると敏雄は、真っ先に幸香がいる場所に行き、幸香の太ももの上に倒れ込む。最近コレが日課だ。
敏雄からしたら、ベッドに倒れ込む感覚なのだが、敏雄に恋愛感情を抱いている幸香からしたら、赤面ものだ。正直な話、やられるたびにドキドキしている。
膝枕は今に始まったことじゃない。
小さい頃、敏雄が両親を失ったときのショックから不眠に悩まされていたとき、幸香がお母さんのつもりでしてあげたのがきっかけだった。子守歌付きで。
新型ジルコンになってからというもの、人間に必要な食欲や、睡眠欲が無くなってしまった。あと、ほとんど疲れ知らずで動くことが出来るようになってしまい……。
すると、アンバー出現の警報音が鳴り響く。途端、もはや条件反射で敏雄が飛び起きる。
「…行ってくる。」
「いってらっしゃい…。」
二人のひとときの平穏すらも許してくれないのだ。
「サチカ。」
「あれ? ユイリンさん。」
敏雄が出て行ったあと、数分ほどしてユイリンが来た。
「出撃しないんですか?」
「私、今日は実験最優先だって。」
「そうですか…。」
ユイリンがサチカの隣に座った。
「ねえ、サチカ。」
「なんです?」
「トシオのこと好き?」
「ブッ!」
いきなり言われ幸香は吹き出した。
「わ、私は…その…。」
顔を真っ赤にしてワタワタとする幸香の様子に、ユイリンはニコニコと笑った。
「ンフフフ、サチカ分かりやすい。」
「あわわわ…。」
「秘密にしとくね。トシオ知らないでしょ?」
「……すみません。」
なんか気を遣わせてしまったらしいので、幸香は萎縮した。
ニコニコしていたユイリンだが、不意に笑顔を消して、悲しげな表情をした。
「どうしました?」
それに気づいた幸香が聞くと、ユイリンは自分の手を見つめだした。
「……私…、長くないかもしれない。」
「えっ?」
「実験にいっぱい参加してるって言ったよね? そのせいか知らないけれど、だんだん自分の色んなモノが消えていくような気がして…。」
「それって…、そんな…。」
「トシオには、黙っててね。」
「でも!」
「あのね、サチカ。私にも好きな人がいたの。」
急にユイリンが話題を変えてきた。
「でもね…、アンバーに襲われて家族は、先に逃げれたけど私だけ逃げ遅れて下半身が……。病院で目を覚ましたらその人がいたの。泣いてた。」
ユイリンは、中空を見上げて懐かしむように話す。
「そしたら、『ずっと好きだったんだ』って言われてビックリしちゃった。」
「わあ!」
まるでドラマみたいな告白劇の話に幸香はたまらず声をあげた。
「本当に…ビックリしちゃった。でね…、家族がお見舞いにも来ないけど、その人だけは毎日来てくれてね、プロポーズまでされちゃった。」
「おめでたいじゃないですか。それで…、でも…。」
「……私が断ったの。」
「どうして?」
「その人の人生を最良なモノにできないって思ったから。私じゃ幸せになれないって思ったから。……そう伝えて、納得して貰って、それっきり。」
「ユイリンさん…。」
「その後で知ったの。家族は私を捨てたんだって。聞いた話だと、治療費と介護費がかかるからだって。悲しかったな…、辛かったな…。プロポーズを断るんじゃんかったって後悔もいっぱいした。でも、国が保護施設を作ってくれてたけど、ただただ生かされているだけで、何も無かった。だからジルコンと合体すれば、また自分の足で歩けるって聞いて、それに縋っちゃった。身体から色、無くなっちゃったけど、また自分の足で歩けたことが嬉しかった。ねえ、サチカ。できたら、私、トシオとサチカが幸せになって欲しい。私みたいに、いっぱい後悔しながら死んでいくような生き方だけはしないでほしい。」
「……ユイリンさんは、死にません。」
「私だって、死にたくないよ。でも、自分で分かるんだよ?」
「死にません!」
幸香がそう叫んだ。
「……ありがとう。」
幸香の声に一瞬固まったユイリンだったが、すぐに今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべてそう言った。
「私…、ジルコンになってよかった。こうやってお友達ができて、こうして話をしに自分の足で動けたことが最高に嬉しい。」
「これからもずっと友達です! これで最後みたいに言わないで!」
幸香が、ユイリンの肩を掴んでそう怒った。
「うん…。そうだね。ずっと、ずっと友達。トシオも!」
「俺が何?」
そこへ敏雄が帰ってきた。
「おかえりー。」
「ちっくしょー、またディアブロの奴に突っかかられた。」
「なんかしたの?」
「分からねぇよ。俺がプロトタイプ・ジルコンとの融合機だってことが気に入らないらしいみたいだ。」
「それは仕方ないよ。酷いね。」
「ああ、まったくだぜ。」
そう愚痴った敏雄は、自然な形で、幸香の太ももの上に頭を乗せた。
「と、敏雄…。」
「んだよ?」
「……あのね…。」
「私、邪魔だった?」
「ハッ!?」
敏雄は、やっと状況に気づいて慌てて起き上がったのだった。
いつものことだったのに、他人がいるだけで一気に気まずくなり、敏雄も幸香も赤面したのだった。
ユイリンは、そんな二人を見て、ヤレヤレと肩をすくめたのだった。
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