SS8  量産型のジルコンによる新型ジルコン


 ユイリン。21歳。

 半年前にアンバーの攻撃を受け、下半身を失う大怪我を負ってしまった女性。

 その怪我の重度のため、家族から見放されてしまったという過去を持つ。

 すべてに絶望し、空っぽの日々を生きているだけだったが、新型ジルコンの実験のため、同じような被害者の中から体質調査で選出されて、本人の了解を得て量産型のジルコンと合体・融合の実験を行った。

 結果、失った下半身を取り戻し健康な身体を取り戻すが、その代償か全身から色が抜けたようになってしまった。これは、敏雄が五体満足だったのに対し、ユイリンは、下半身を失うほど人体を損失していたからではないかと研究者達は見ている。



「んふふふ。」

「な…なんですか?」

 研究所内の長椅子で、敏雄がユイリンと並んで座っていると、ユイリンは嬉しそうに笑っていた。

「えへ、だって、仲間ができて嬉しいんだもん。」

「そうですか?」

「君は…、嬉しくなかった? そうだよね…、私、色ないし…。気持ち悪いよね…。」

「そうじゃないですよ。ただ…、まだ戸惑ってるっていうか。」

「そっか、君…優しいんだね。」

「そうですか? 俺、周りから馬鹿正直だって笑われてるんですよ?」

「でも、私のこと気持ち悪がらないじゃん。」

「なんで、気持ち悪がる必要があるんですか? 確かに最初はビックリはしましたけど。」

「敬語じゃなくて…、普通に喋ってくれて良いんだよ? 仲間でしょ?」

「…分かった。」

「ん、それでいいよ。」

 ユイリンは、また嬉しそうに笑った。

 ずいぶんと人懐っこいというか…、可愛い人…だな…っと敏雄は、ついそう思った。

 全身真っ白だが、顔の造形は、可愛い分類で、背も低いため歳を聞くまで同い年ぐらいの少女かと思ったぐらいだ。

「…あの…さ…。」

「なあに?」

「志願したんですか?」

「えっ?」

「…新型ジルコンになるのに。」

「……うーん。どっちかっていうと…、拾ってもらったって言う方が正しいかな。」

「拾ってもらった?」

「私ね……。腰から下が無くなってたの。だから、家族に捨てられちゃった。」

「なっ…。」

「周りに誰もいなくって…、ただただ保護施設で生きているだけだったけど、最近になって体質を調べられて、……してみないかって言われた。役に立って欲しいって頼まれたの。」

「それで…、了承したのかよ!」

「誰かに、頼られたかった…。なんでもいいから…。私にとって、例え人間じゃなくなることでも構わなかったんだよ。誰かの助けも無しに生きられない、独りぼっちじゃなくなるなら…。」

 ユイリンは、泣きそうな顔で笑う。

 その顔を見て敏雄は、何も言えなくなった。

 まるであの科学者達が、ユイリンのそんな心情を利用したようにも思えるが、ユイリンにしてみれば、希望以外の何者でもなかったのだ。それにとやかく言える権利なんて、自分にはない。

 押し黙ってしまった敏雄に気づいたユイリンは、ハッとして慌てた。

「ご、ごめんね。こんな話しちゃって…。」

「いや…、いいっす。」

「やっぱり…、君は優しいね。」

「そうかな?」


「ユイリンさん、ここにいたんですか?」


「あっ。はい。」

 そこへ、看護師らしき人物がやってきた。

「準備が出来ましたので、第三ラボへ。ついて来てください。」

「はい! じゃあね、トシオ君! また今度。」

 ユイリンは、笑顔で敏雄にそう言い残し、手を振りながら看護師と共に去って行った。

 残された敏雄は、嵐が去っていたような気分でぼんやり、ユイリンを見送っていた。


「よお。」


「はい?」

 厳つい感じの男の声が聞こえて見ると、緑色の髪の毛と、緑の瞳と、褐色の肌の迷彩服の軍人らしき男が立っていた。

 どうにも不自然な色合いの身体に、敏雄が唖然としていると。

「変か?」

「えっ? あ、すみません。」

「まあ、俺も変だと思ってるぜ。」

「はあ…。」

「俺は、元々は、白人だ。」

「へ?」

 男は、そう言った。

「アメリカ軍、対アンバー防衛部隊員、ディアブロだ。まさか…、お前みたいなガキがプロトタイプとの合体・融合機だとはな…。」

「なんなんすか!」

「馬鹿にしてんだよ。分からないか?」

 フンッと、ディアブロは、嘲笑する。

「なんだよ! 俺は、好き好んでプロトタイプと…。」

「それは聞いてるぜ。ほとんど事故みたいなものだったんだってな。」

「…あんた、まさか…。」

「そう。俺も新型ジルコンって奴の志願者だ。もう融合したがな。そしたら、こんな肌と髪になってててな。」

「俺も…、最初は黒髪黒目だった…。」

「ジルコンと融合した人間は、必ずそういう風に外見が変わるらしい。さっきお前が話をしていた小娘も同じだ。ま、不本意だが、よ・ろ・し・くな、ガキちょ君。精々、足手纏いにならないよう鍛えて貰えよ?」

 一々癪に障る口調に、敏雄が怒りを堪えていると、ディアブロという男は、最後にそう言い残して背中を向け手を振りながら去って行った。

 残された敏雄は、友好的なユイリンと、逆に癪に障るディアブロとの対比に、気分が悪くなった。

「俺……、どうなっちまうんだ?」

 敏雄は、自分がこれから《GAEA》に燃料(アンバーの核)を入手するだけの戦いを、ユイリンやディアブロらと共に死ぬまで続けなければならないという現実に、頭痛を感じたのだった。


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