第8章:再起動
第1話:弔い
――ポメラニア帝国歴259年6月24日 ガダール平原:名も無き寒村にて――
朝食を終えたナナ=ビュランたちは、昨日の戦闘で亡くなった警護隊たちの埋葬を手伝うこととなる。ネーコ=オッスゥは姉たちの救出を急がなくていいのか? と問うが、ナナ=ビュランは自分を護るために死んでしまったひとたちを弔わないようなことをすればお姉ちゃんから叱られると言い、ネーコ=オッスゥは納得するのであった。
遺体は縦に長い大きな木製の桶に入れ、地面に穴を掘り、そこに埋める予定であった。そして、墓標代わりの横10センチュミャートル、高さ1ミャートルほどの木の板を地面に差すという流れである。だが、ここで問題があった。棺とするための木製の桶の数が足りないことである。
マスク・ド・タイラーとネーコ=オッスゥは土を掘る役目を担い、ナナ=ビュランとシャトゥ=ツナーは村民たちと手分けをして、突貫で木製の桶を作ることになる。必要な木製の桶は14個だ。村には5個あったが、残り9個を自分たちの手で作る他なかったのである。
ナナ=ビュランとシャトゥ=ツナーは聖堂騎士を目指していることもあり、訓練時に簡素な棺を作らされた経験がある。今は平和時ではあるが、もし国同士の
「えっと、ここをこう支えてっと……。あれ? シャトゥ、こうであってたっけ?」
「うーん、どうだったッスかね? まあ、そんなにしっかりと作らなきゃならないわけでもないし、適当で良いんじゃないッスか?」
木製の桶に入れて、戦地から本国へと遺体を運ぶ場合は、しっかりとした棺桶を作らねばならないが、寒村の墓地にすぐに埋めてしまうため、今回はそれほど耐久性は気にする必要が無い。ナナ=ビュランたちはおぼつかない手つきで、桶の作成をしている。どうも力の入れ処が悪いのか、桶の形がいびつになってしまう。
村民たちの作る棺桶と比べると、彼女らが作るモノは明らかに不格好であった。いっそのこと、全ての棺桶を村民たちに任せてしまえば良かったかもしれない。しかしながら、ナナ=ビュランは警護隊の面々を弔いたいのだ。だからこそ、不慣れでありながらも、遺体を入れる桶の作成を買って出たのだ。
穴も掘り終わり、その穴の中に棺桶を入れる。その棺桶の中に遺体を体育座りにさせて、入れる。遺体を入れ終わった棺桶を木製の蓋で閉めて、さらにその上からシャベルを使って、土をかぶせる。
土をかぶせ終わった後、そこに遺体の名前と所属先が書かれた木の板を地面に差し込む。
「ナンマイダー、ナンマイダー。あたしを護ってくれて、ありがとう……」
ナナ=ビュランが両の手のひらを合わせて、警護隊の面々があの世に迷わず行けるように祈りを捧げる。いくら仕事のためとはいえども、自分なんかを護るために命を落とした人々に対して、申し訳ない気持ちが次々と心に溢れてくる。そんなやるせない気持ちになっていると、右隣に立つシャトゥ=ツナーがとんでもないことを言い出したので、ナナ=ビュランは、ギョッとした顔つきで彼を見ることになる。
「ナンマイダー、ナンマイダー。ナナを護ってくれて、ありがとうッス。直に俺もそっち側に行くッスから、ゴクラクで待っていてほしいッス」
ナナ=ビュランは不謹慎なことを言うシャトゥ=ツナーの後頭部を勢いよく、右手でパーンとはたく。
「あんた! 何を言っているのよ! いつ、あたしがあんたに死んでほしいって言った!?」
「ちょっと待つッスよ! こんなの同じ釜のメシを喰った戦士同士の決まり文句ッス! 頭をはたかれるほうがおかしいってもんッス!」
「あれ? そうなの?」
逆にシャトゥ=ツナーに抗議される形となったナナ=ビュランはきょとんとした顔つきになってしまう。彼女としてはそんな決まり文句、見たことも聞いたこともないのだ。もしかしたら、あたしだけ知らないのかとさえ思ってしまい、答えを知るためにも顔をキョロキョロと左右に振ってしまう。その挙動不審なナナ=ビュランを見て、ネーコ=オッスゥが助け船を出すことになる。
「『蒼星伝』っていう英雄譚で主人公が大切な仲間を失った時に言う台詞だみゃー。男なら誰しもが一度は眼を通す書物だけど、女性は多分、読まないと思うんだみゃー」
「ハーハハッ! わたしは『蒼星伝』は未だに愛読している……。あれには男の浪漫が詰まっているな。わたしもあの書物に書かれているような、ああいう英雄を目指していた時期があったものだ……」
「そう、それッス。『蒼星伝』ではかなり知られた台詞ッスよね。いやあ、やっぱり男だったら、皆、アレは一度は読んでいるッスよね!」
男連中が自分が読んだこともない書物について、話に華を咲かせていることに納得できないナナ=ビュランであった。なんだか自分だけ仲間外れにされた気分である。ナナ=ビュランが不満気にプクゥとほっぺたを可愛らしく膨らませていると、シャトゥ=ツナーがやれやれと両腕を軽く広げるものだから、余計に癪に障る彼女であった。
「シャトゥくん。
「え? なんで同じ本を3冊も持っているわけ?」
「それは簡単だ。保存用と自分の読書用で2冊。そして、布教用に1冊だっ! どれ、さっそく、布教用の1冊を受け取ってくれっ!」
マスク・ド・タイラーはそう言うと、両手を黒いパンツの中に突っ込み、ごそごそと何かを探り出す。そして、茶色の薄い皮のカバーが施された書物をその中から取り出すのであった。それを手渡されたナナ=ビュランが少し嫌そうな顔をする。それもそうだろう。その書物がヒト肌で温まっていたからだ。妙に生々しい本の感触にナナ=ビュランはこれは新手のセクシャルハラスメントなのでは? と思ってしまう。
「旅の道中、荷馬車の中では何かと手持ちぶたさになるだろう。そんな時は今渡した蒼星伝を読んで、時間を潰すと良いかもなっ!」
マスク・ド・タイラーが腰の両側に手を当てて、直立不動している。その姿から、今、手渡してきた書物はそれほどまでにお勧めなのだろうことはナナ=ビュランに察することができる。
「うーーーん。男性が喜ぶ手の本って、エログロなことが多いじゃない? あたし、あんまりエログロは好きじゃないんだけど……」
「ふむっ……。エロは無いが、グロは多少あるな……。どうも著者のコッスロー=ネヅは、ことあるごとに、敵将の
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