冒険記録31 戦闘終了、そして幽霊船

 先程の愛馬の蹴りを喰らった骸骨は、再度舟に上がってくることはなかった。そのことに気付いたヨシュアは斬って壊し続けるよりも、海に蹴落とす作戦にかえる。ヘルニーもそれにならって同じことをしていた。

 2人が1頭を守りつつ、邪魔にならないように蹴り落としていく。そのおかげかどんどん数が減っていった。


「これで終わり!」


 最後の1体をヘルニーが飛び蹴りをして落とし、ヨシュアは残党がいないか周りを確認する。

 すべての骸骨を対処し終わったヨシュアは豪快に後ろに倒れた。息切れをしつつもその顔は、満足そうに笑っていた。


「これだけはっちゃけたのは久しぶりだなぁ」

「幸せそうだね」


 甲板に寝転がりながら空を見るヨシュアを見下ろして、目尻と眉尻を下げるヘルニー。


「悪い知らせが1つ。とてつもなく大きい船が近づいてくるよ」


 まったりした顔で言うべきではない言葉を続けて出され、いい空気が漂う甲板の上に緊張が一気に走る。重い体を上げながらヘルニーを睨み、座って遠くを見据えたが近くに何もいなかった。


「どこにもいないぞ」


 目視だとどうしても限界がある。甲板を這いずりながら遠くに投げ捨てられていた望遠鏡をヨシュアは手に取り、筒を伸ばしたりして覗いていたが、どこにも大きい船は見当たらない。


「まだ霧の中にいるから離れるなら今の内だよ」


 軋む音が聞こえてきそうな体をゆっくりと持ち上げながら立ち上がるヨシュアを、愛馬が後ろから鼻で支えている。


「私1人では限界がある。手伝え」

「りょーかいっ」


 船の側面から海にオールを下ろし、2人協力して漕ぐ。手や体に力が入らないのか、ヨシュアの動きは緩慢かんまんだったが、それでも舟は進む。そこに声をかけてきたのは、避難していた怪我をしていない漁師達だった。


「何か手伝えることあるか?」

「また舟を漕いでくれねぇか? それと手が空いてるやつで怪我人の治療をしてやってくれ」


 漁師の1人がヨシュアに近づき、ヨシュアがオールを渡して受け取ったのを見たのち、舟の側面に背を委ね、肺に溜まった空気を吐き出した


「それはさっき終わらせた」

「なら、舟を頼む」


 残りの者達も甲板に転がってるオールを取ると、黒霧から離れようと漕いでいく。


「マズイな、血が足りん……」


 頭を押さえ、フラフラする体を縁で支えているが、舟の側面から崩れ落ちるように甲板に寝転がる。


「指示を頼んでいいか、ヘル二ー」

「うん、任せて」


 名前を呼ばれたことで信頼されたと感じたのか、目を輝かせている。甲板に寝転がるヨシュアは、眠そうに瞼を開けたり閉じたりしながら、ヘル二ーが指示する様子を見ていた。寝転がる彼の近くにアルヴァーノが近づいてきて、頭上近くに座る。一緒に寝たいのだろう。首をヨシュアの頭に近づけて目を瞑った。頭上に微かに当たる愛馬の鼻息を感じ、ヨシュアは首を少しだけ上に動かした。重そうにゆっくりと自分の腕を上げ、愛馬の首元を撫でているが、途中で止まった。


「眠ったみたいだから、静かにね。あ、彼の治療誰か頼める?」

「ああ」


 グースカ寝ているヨシュアの治療を始めている。ただ、漁師は治療の専門士ではない。時々寝ているヨシュアから苦痛の声が漏れている。



 黒霧から遠く離れていても、姿が見えるほど大きい船が霧と一緒に動いている。彼らは存在を知らないが、ヨシュアが知ったらヘルニーたちに文句をいうほどの船だった。

 帆と船体は焼かれてしまったのか、所々煤汚れていて穴も開いている。その船のマストは5本。それでも風をうけて動いていた。船の中にいる者は船長だた1人。

 ガレオン船と呼ばれる種類の、薄汚れてこけにまみれた船の名前は

 

 『フライングダッチマン』


 近代イギリスで噂されている幽霊船だ。この世界で漂っているわけは幽霊船の船長しか知らない。

 港の漁師たちが行方不明になっていると港で噂されるようになってから現れたのか、それともヨシュアがこの世界に来てから現れるようになったのか、その要因は誰にも分からない。


 攻撃してくる様子もない船に見つからないよう少しずつ離れ、ようやく霧から抜けることに成功した漁師たちとヘルニーは息を吐いて、甲板に座り込んだ。


「なにあれ……」


 なんとか声を絞り出したヘルニー。それ以外の者は今まで息をするのを忘れていたのか、短く呼吸をしている。


「後で聞いてみようかな。もしかしたら知ってるかも」


 治療が終わった漁師がヨシュアから離れていく。当の本人は全てをさらけ出すように手や足を広げ、ぐっすりと眠っている。その様子を見ながらヘルニーは、漁師たちが向かう港がある方を見つめていた。

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