冒険記録24 酒場兼宿屋
「ここの酒場はどう? 宿も兼ねているみたいだよ」
二人と一頭が港をある程度散策した時、ヘルニーが一軒の建物の前に立って指を差した。ヨシュアの目的である酒場だ。塩害を防ぐために、港があるすべての建物は木製で出来ていた。この酒場も例外ではない。酒場に一緒に入ろうとする彼を目線で制止し、アルヴァ―ノを見守る様に頼むと、さっさと中へ入っていく。その後ろでは、不満そうに鼻を鳴らす愛馬がいた。
「いらっしゃい」
開き戸も木製で出来ているが、丁番が鉄のせいか潮風に当てられて
「店主、ここは宿屋も兼ねていると聞いた。料金はどれくらいになる」
「ああ、泊まるなら一泊で銅貨五十枚だ」
「なら一人分を頼む。後、馬小屋はどこにある?」
「それならこの宿の後ろにあるよ。追加料金は銅貨五枚になるが」
「それでいい。後すまんが、酒とつまみを準備しておいてくれ」
簡潔に話し、交渉し終わったのか外へと出ていく。すぐに戻ってきたヨシュアを見たアルヴァ―ノは小走りで近づき甘えだした。
「よしよし。さて、裏に移動するぞ」
服を甘噛みする愛馬の背を撫で、流れるように宿の裏へ連れて行く。その後を悲しそうな顔をしながらついてくるヘルニーがいた。
「僕が悪かったよ……。だから許してほしいんだ」
「……謝罪は好きにするがいい。だが、それを受け入れるかどうかは私が決める。それに、自己紹介だけして近づき、何がしたいか分からない者を近くにいさせる気はないからな」
落ち込んでいる雰囲気を出すヘルニーに冷たく言い放ち、馬宿に付いた途端、離れたくないと暴れかけたアルヴァ―ノをなんとか落ち着かせながら中に入れ、酒場へと向かった。
「理由は、君達と一緒に旅が出来たら楽しそうだなって思って近づいたんだ」
「……お前は何が出来る」
酒場の中に入った後、主人がいる前の席に座り、準備されていたお酒を一口飲んだ。一緒について来たヘルニーが隣に座りながら理由を言うのに対し、一瞬だけ考えたヨシュアが変な質問をする。突然言われた事で呆気に取られた彼だったが、質問の意味を組み取り、しばらく考えた後、自分の力を教え始めた。
「一応、斥候としての能力ならなんでも」
「一応ってのがあいまいだな。もっと詳しくだ」
「気配遮断に罠解除、それから探索範囲・中かな」
ヘルニーが指を降りながら伝えていく。「これぐらいかな」と言った彼の最後の言葉に、聞きなれないものがあり、ヨシュアは詳しく説明するよう足す。
「最後のは何だ」
「探索範囲・中ていうのは、草原なら音や匂いで進む先に何があるか、洞窟内なら音の反響を聞いて、そこがどれくらいの広さがあるかわかる範囲の事だよ」
先程から視線を合わせず、少しずつお酒を飲みながら彼の説明を聞くヨシュアは、静かにジョッキを置いた。手に顎をのせながらしばらく考え込み、つまみとしては少しだけ豪華に飾り付けされて、塩漬けされた魚を木のフォークを使い、解しながら少しずつ食べていく。
「どうかな? これだったら君の役に立てると思うよ」
「……確かに斥候としての役割は果たせそうだな」
「それじゃあ!」
「信用できるかどうかは別だがな」
酒のお代わりを待つヨシュアの肯定的な言葉に胸を躍らし、期待した目でヘルニーが見つめる。それをヨシュアは無慈悲な言葉で切り捨てた。
「上げて落とすなんて、ひどいよ」
「どこがだ? こちらは自分の命と愛馬の命が
「それは……そうだね」
少し怒気の混じった声で、ごく当たり前のことをいうヨシュアに反論しようとするが、それ以外の言葉が思いつかないのか、ゆっくりと机にうつ伏せて肯定した。その
「
「……すまん。少々苛立ちすぎた」
目を瞑り、軽く息をはきながら不服そうな顔をしつつも、素直に反省するヨシュアに気分がよくなったのか、「それはおごりだ」と店主がにこやかに笑いながらジョッキを持ってきて、二人の前に置いた。これ飲んで落ち着きなと言わんばかりの顔をしている。それを見たヨシュアはもう一度軽く溜息を付き、渡されたものを一気に飲み干し、肺に溜まった重苦しい気持ちを苛立ちと一緒に吐き出した。
「……試用期間は一週間だ。その間に私からの信用を取ってみせろ。それから旅に同行させるかどうかを判断する。それなら文句ないな?」
「え、いいの? うん、全然文句なし!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます