第6話「防御力MAX───!!」
「あの野郎ッ───!!」
ま、街が滅ぶぞ!
いや、それ以上の被害が出る───!
「くそ、それも狙いか……。自分の醜聞と失態を隠すためにってとこか! なんて野郎だ───」
「うぅ……」
走り去るジェイスを憎々し気に睨むアルガスの耳に、ミィナの呻き声が届く。
ジェイスに遠慮なしに投げられて、何処か負傷したのだろう。
「た、助け……」
だけど、
助けようにもこれ以上は俺も────!!
「痛いよぉ……。死にたく──────」
ッッッ!
くっそぉぉおお!!
子供を前にして、放っておけるかよぉお!
テメェら───、
「……どけぇぇぇぇえええッッッ!!」
群がる魔物を振りほどき、もがくアルガス。
だが身動きできない!!
群がる魔物が邪魔だ!!
装備がなんて重いんだ!
あぁ、くそ!!
ミィナ、今行くッッッ!!
「───うがぁぁぁああ!!!」
今、行くッ!!
すぐ行くッ!!
早く行くッ!!
───盾が邪魔だ!!
───兜が邪魔だ!!
───具足が邪魔だ!
俺の剣に、群がるなッッ!!
「───ぐおぉぉぉおおおおおお!!!」
ズシン! ズシン!
魔物が縋りつく装備を少しずつ遺棄して、アルガスは拘束から逃れると、鈍足のままミィナに近づく。
その肩に魔物が噛みつく。
その背中を魔物が蹴り抜く。
その腰を魔物の剣が貫かんと撫ぜる。
だが、それがどうした!?
俺の防御力は「8800」じゃぁぁああ!
彼女を襲わんとしているグレーターゴブリンを殴り飛ばし、
彼女を解体しようとしていたオーガを叩き伏せ、
彼女を組み敷かんとしていたクリムゾンオークを投げ飛ばすと───!
アルガスは、ついにミィナにたどり着く!
「ミィナ!!」
「あ……あぅぅ!!」
恐怖で濁った目をアルガスに向けるミィナ。
ボロボロの姿。
先日死んだ少女の物に重なり、二度とあんな目にあわせないと誓った……。
誓わざるを得なかった。
今度こそ、必ず君を助けると──────あの日、死んだ少女に語り掛ける!!
「俺は『
防いでやる!
凌いでやる!
耐えて見せる!!!
───俺の防御力は伊達じゃないッ!!!
「掛かってこいやぁぁぁぁああああ!!!」
そうとも、
重戦士の防御力は伊達じゃないッ!!
「ミィナ! 目を閉じて、耳を覆っていろッ」
あぁ、そうだ!!
───君のような女の子が、こんな場面を見なくていい!!
ミィナを抱きしめ、その身を完全に覆って見せると、アルガスは身を固くして地面に伏せる。
鎧の防御と、自身の防御力に依存して、ミィナだけは守って見せると!!
「あおあおあおああああああ!!」
がんがんがん!!
ザクザクザクザクッッ!!
何度も何度も魔物殴られ蹴られ、剣で突かれる!
「ぐぅぅう!!」
だけど、耐える!!
耐えて見せる!!!
「げぎゃぁぁぁああ!!」
「ごぎゃごぎゃ!!」
魔物の容赦ない一撃一撃が、アルガスを滅多打ちにする!
くそ───!
防御力がこれほどあっても、まだダメージが通る!
例え8800でも、ダメージが蓄積されていく……!
足りない……。
足りない……!
足りないッッ!!
───防御力が足りないんだよぉぉおお!
「───もっと、もっと、もっと! もっと防御力をよこせぇぇぇぇええええ!!」
うがーーーーーーーーーーーーー!!!
アルガスはステータス画面を呼び出し、貯め込んでいたステータスポイントを、防御力にガンガン叩き込んでいく。
『残ステータスポイント +2200』
それをぉぉおおお!!!
全部だ!
全部だ!!
全部に決まってるッッ!!
───全部、叩き込んでやるぁあッッ!!
がががががががががががが!!
物凄い勢いでステータス画面を連打し、ステータスを割り振っていく───。
当然、防御に極振りだ!!
8800が、8955に!!
8955が9300に!!
まだだ!!
まだだ!!
まだ、足りない!!
余裕のあったステータスポイントがガンガン減り続けるも、アルガスは気にしない。
あれ程嫌がっていた
だって、まだダメージが通る!!
まだ、魔物の攻撃を防げない!!
また、守れないぃぃぃいい!!!
早く! 早く、早ーーーく!
───もっと早く、上昇しろッ!!
『残ステータスポイント +1100』
がががががががががががががが!!
9300が、9788に───!!
それでも、ゴブリンの一撃が!!
オークの一撃が!
オーガの一撃が!!!
まだだ!!
まだ、足りない!!
「もっとだぁぁぁぁああああああ!!!」
がががががががががががががが!!
9788が9998に!!
まだだ!!
まだだ!!
まだ足りない!!
9998が9999!!
「足りない、足りない、足りない!!!」
全然たりない!!
この子を守るためには、全く足りない!!
ミィナを守るためにはまだまだ足りない!
9999!!
9999!!
9999!!!
どうした!!
上昇しろ!!
俺の防御力──────!!
俺は、重戦士だろう!!
全ての攻撃を跳ね返す重戦士だろうがぁぁぁあ!!
あがれ、あがれ!!
あがれ!!!!!!
防御力よ、もっと上がれ!!!
9999がどうした!!
その先へ、刹那の先を越え、一ミリ、一シュトリッヒ先でもいいから、9999を越えろ!
俺を本当に鉄壁に!
肉壁に!!!
全てを守る『タンク』にしろぉぉぉおおおおおおお!!!!
ステータス画面の防御力「+」を叩き続け、9999をさらに上書きするも、動かない!!
動かない!!
動かない!!!!!!!
動けっっっっつてんだよぉぉおお!!!
「───がぁぁああああああああああ!!」
連打し続け、魔物の攻撃を耐え続けるアルガス。
ただ、限界は来る。
いくら防御力を9999にしても、人は鋼鉄にはなれない。
筋肉も骨も剣を弾き返すことはできない!
人は──────「重戦士」は、ただの人なのだ!!!
「───あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
この腕の中の小さな温もりを守りたいッッッ!!
この子だけは救ってくれ!!
ミィナを救ってくれッッ!!
だから!!!!!!!!
「防御力9999」─────!!!!!
そんなじゃ、足りないぃぃいいいいいいいいいいい!!!!!
俺を
俺を
俺を
ノロマでもなんでもいいから、俺を無敵のタンクにして見せろぉォぉおおお!!!
動かないはずがないと、確信と妄信に似た思いでスタータス画面を叩き続けるアルガス。
9999の先へと、残るステータスポイントを割り振り、その先に至れと───!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ががががががががががががががががががががががが!!
がががががががががががががががががががががッッ!!
カッ────────────!!!
全力で防御力を上昇させようとしていたアルガス。
その瞬間のこと、ステータス画面がグルリと回転した。
こ、これは───……!!
これはかつて、「戦士」から「重戦士」に進化したときに見た覚えがある。
そ、それが、今?!
なんで?!
いや、
そんなことよりも──────!
「げぎゃああ!!」
「ぐ……────────────ッ」
ガッツン!!
オーガナイトのクリティカルヒットが後頭部に命中し、意識の帳を手放しかけるアルガス。
頭が割れそうな衝撃と脳を揺さぶられる打撃に、鼻から血がドロリと零れ落ちた。
これは──────手痛い一撃だ……。
「う、ぐ……」
跳ね上がった頭に無理やり視界が開ける。
視野に飛び込んだのは、手痛い一撃をくれたオーガナイトと、その背後に立つ巨大な化け物──────オーガキング……。
そいつが、アルガスと目を合わせると、まるでトドメの一撃をくれてやるとばかりに、その足を思いっきり振り上げた。
いっそ、せめて楽に殺してやるとばかりに───……!
あ、
(あれは……一撃で死ぬな───)
ぼう、と冷静にその光景を眺めるアルガス。
そして、クルクル回るステータス画面。
防御力を無理矢理急上昇させ、さらに連打したせいで狂ったのかもしれない。
ここまで来て、結局……。
何も、誰も、彼女も守れずに俺は───死ぬ。
せめて……どうか、一瞬で殺してくれ。
そして、どうか、どうか…………どうか、ミィナだけは助けてやってくれ───。
オーガナイトにクリティカルヒットを食らった頭部から流れる血に、アルガスの視界が濁る。
そして意識も───……。
(すまん……リズ。ミィナ───)
俺は………………。
アルガスの意識が遠退く、最後の一瞬のこと───。
カッッ─────────!!
なんと、光るステータス画面ッッ!
「
──────がくッ……。
そこでアルガスの意識は落ち、
そして───オーガキングのトドメが無情に降り注ぐ………………………。
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