東雲高校スクールバス

小森

11月のロストチルド

 一七時五十分頃、俺はスクールバスを待っていた。学校は山の麓にある。それもとっても田舎の。だから、スクールバスがある。

 コートにマフラー、手袋、カイロ。十一月でこの寒さだ。今は雪が降っていないから良いが、一月になったらここら一帯は真っ白。いや、ちがうな。杉の緑がある。

 バス停は小さな小学校の前にあり、「東雲高校スクールバス停留所」と書かれた標識柱と小学校のフェンスだけ。

 続々と人が並ぶ。俺は一番目。スマートフォンをいじるのも飽きたから、小学校をフェンス越しに見た。俺の母校はそこまでボロっちくなかった。これよりかは立派だと言う自信はある。ふっと風が吹いた。風の来た方を見るとそこには二つの星があった。


「……」


 中学三年の理科で習ったことが正しいのなら、西の空、夕方にある星。だから、一つは金星だろう。もう一つは――わからない。

 俺はコートのポケットからスマートフォンを取り出し調べた。「十一月二四日、金星と木星は近づく」。四日早いが、その記事からしてあの星は木星なのだろう。


 ぷぅぁー


 バスが来た。諏訪橋駅前だ。俺は乗らない。俺は松賀駅前だ。これに乗ってしまったら俺は三十分も家に帰る時間が遅くなるだろう。

 諏訪橋駅前の生徒達は次々とバスに乗り込んでいく。動きが止まった。バスに乗る人はもういないのだろう。だが一つ、いつもと違うことがあった。松賀駅前行きに乗るであろう生徒が俺の方に詰めて来ない。つまり、俺が順番を抜かしたと思われている。

 ただ、脳がくるりと回って、喉をゆるく締められた感覚。何を言っているんだ、と思うが本当に。

 仕方なく俺は一番前から一番後に並んだ。慰めてほしくて、俺は後ろにいる二つの星を見た。どちらがそれかなんてわからない。フェンスの額縁の中、二つは輝いていた。背景は夜の学校のグラウンドだ。その先は沈んだ太陽。


「今日は星が綺麗だな。あと四日間は見れるだろ」


 俺は誰にも聞こえないように小さい声で呟いた。

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