第97話
「大丈夫です。
奴隷から救ってくださった御嬢様のためなら、どこであろうと行きます」
皆が悲壮な顔で決意を口にしてくれます。
そんなに危険な事ではないのですが、彼らには怖いのでしょう。
いえ、彼らだけではなく、長年シーモア公爵家に仕える家臣達も怖がっています。
表情を変えないように努力はしていますが、明らかな恐怖を感じます。
家臣達が怖がっているからこそ、元奴隷達も怖がるのです。
「そんなに心配する事はありませんよ。
皆にだけ行かせはしません。
私が先頭に立って入りますから、大丈夫なのですよ」
もっとも本当に先頭に立つわけではありません。
言葉のあやです。
王都屋敷に務める家臣や元奴隷よりは前をいきますが、私が実際に先頭を切ることは、リリアンはもちろん精霊達もタマもムク達も許してくれません。
一番の先頭は私にしか姿を見せない中級精霊四柱であり、次を行くのは魔犬達の中から選ばれた斬り込み隊長です。
家臣や元奴隷が躊躇い怖がるのも当然と言えば当然です。
昨日まで存在していなかった、地下迷宮に入りたい者などいません。
いえ、冗談です。
地下迷宮ではなく、地下畑です。
複合精霊魔術を駆使して、シーモア公爵家王都屋敷の敷地全体の地下に、作物を育てる空間を創り出したのです。
創るだけでしたら、一度創ればその後に魔力は不要です。
ですが畑として活用するには、作物を育てるために光魔法が必要になります。
作物が一番成長する気温を保つには、火魔法が必要になります。
人が耕作しようとおもえば、息が詰まらないように、風魔法で空気の流れを作らないといけません。
私の負担にならないように。
いざという時に戦えるように。
色々と考えた結果、三千アールの地下畑を五階層創ることになりました。
普通は大人一人が耕作できる小麦畑は二十アール程度です。
しかし精霊達が教えてくれた知識を駆使すれば、もっと多くの畑を管理できるようになります。
二十キログラムの種を蒔いて六十キログラムの収穫しかな小麦畑が、二十キログラムの種を蒔いて百四十キログラム収穫できるようになるはずです。
従来の二倍以上の収穫が可能になれば、同じ領民の数で二倍の騎士や兵士を養えるという事になります。
いえ、同じ畑の広さで、倍以上の民を養えるという事です!
今までのように、子供や老人を餓死させないですむのです!
魔量を使わないで耕作物の増産が可能な事を証明するには、一年かけて検証しなければいけません。
ですが、これはシーモア公爵家の秘事です。
本当は全ての国に公表したいことですが、そんな事をすれば一番早く国力を増した国が、戦争を始めてしまいます。
私が権力を握るまでは、秘密にしなければいけないのです。
だから秘密にできる地下畑で実験することになったのです。
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