第87話

 リリアンは王太子に含む所があるようです。

 私を最優先にしてくれるリリアンですから、今回の王太子による王都への招集に、内心激怒しているのでしょう。

 私も同じですから、その気持ちはよく分かります。

 デビルイン城を離れた当初よりも、デビルイン城か遠く離れるほど、王太子に対する不平不満が高まりました。

 精霊と魔虎が絆を結んでくれてからは、怒りすら感じています。


「御嬢様。

 今日襲ってきた刺客のために傷を負われたので、二三日臥せって頂きます」


「負傷したことにして、今日襲ってきた刺客の黒幕を殺すのですか?」


「はい、キッチリと思い知らせてください」


「分かりました」


 私が魔法使いを含む強力な刺客に襲われ、生死を彷徨うような重傷を負った事にして、襲撃を受けた近くの村に一カ月間滞在しました。

 私自身はそれほどの傷を受けた訳ではありませんが、戦闘侍女達が受けた傷と、破壊された盾と鎧の修理補充する時間が必要だったからです。


 ここで魔虎の存在を明らかにしなければいけないと覚悟していたのですが、ダムエルの土魔法が隠蔽を手助けしてくれました。

 基本元々住んでいた魔境にいてもらったのですが、毎日一度は甘えに来るのです。

 いえ、眠る時は側にいてくれるのです。

 魔虎が側で寝てくれているというのは、絶大な安心感があります。


 もっとも精霊達に言わせれば、自分達の方が圧倒的に強いので、魔虎など子猫同然の弱さだと言います。

 その通りかもしれませんが、ほとんど人間の姿と変わりない精霊を寝室に入れるのは躊躇ってしまいます。

 いえ、姿が見えなくても、直ぐ側に精霊達がいてくれるのは気配で分かります。

 でも、まあ、人と生きてきた長年の感覚が、姿を現すとなんとなく気恥ずかしく感じさせるのです。


 でも魔虎や魔犬達なら、一緒のベットで寝ても恥ずかしくありません。

 抱きしめた時の毛並みの手触りのよさは、何とも言えない快感です。

 同じベットの上で眠るのを、魔虎と魔犬達が奪い合っているのがとても微笑ましいです。


  戦闘侍女達が回復し、領地から取り寄せた新しい鎧を装備し盾を持った訓練を繰り返し、十分身体になじんだのを確認してから出発しました。

 その間も何度も刺客に襲われましたが、もう魔法使いが同行するようなこともなく、普通の人間による奇襲など、精霊達によって村に入る前に捕縛されました。

 そして精霊達による尋問というか、記憶の探索は容赦在りません。

 今までの人生を全て覗き見されるのです。

 全ての秘密が明らかにされ、刺客を送った黒幕は私が魔犬を使って殺しました。

 刺客達は、精霊達に無理矢理思いださせられた過去の苦しみや恥辱によって、精神が崩壊して廃人となりました。

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