第41話

  王都からシーモア公爵領に戻るまで二ケ月もかかってしまいました。

 徒歩が一人もいない、馬車と騎馬だけの行軍ですから、本来は一ケ月程度です。

 ですが魔犬と銀狼達のために、途中の魔境や森で狩りをしていたので、倍の日数が掛かってしまいました。


 それ以外にも、途中の貴族領で晩餐会の御誘いを受けた事も原因です。

 御受けする家は、リリアンが厳選してくれました。

 王太子殿下との婚約は御辞退しましたので、以前よりは危険度は低下しています。

 ですが、シーモア公爵家の令嬢というだけで、十分命を狙われるのです。

 代官が管理している王家直轄領でも同じです。


 王家直轄領とはいえ、代官も大貴族の派閥の影響を受けます。

 いえ、領主が自分の領地で私を殺せば、領主が疑われます。

 王家直轄領で私を殺した方が、疑われずにすみます。

 そのような色々な危険を計算して、私の宿泊地は決定されます。

 だからこその旅程二ケ月でした。


 何とかシーモア公爵領の端にあるビルバイン城に辿り着いた時には、戦闘侍女達は疲労困憊でした。

 私の命を護りながらの行軍二ケ月は、心身への負担が激しかったのでしょう。

 先駆けが城代や重臣達に全てを知らせてくれていたので、領界の城には多くの侍女が待機してくれていました。


 ビルバイン城は他領との境を護るための軍城です。

 関所としての役目もあり、疑わしい者を取り締まり、領を出入りする者から税を徴収する役目もあります。

 高位貴族であろうと、ビルバイン城に留めて調べるため、高位貴族用の宿泊施設も、その護衛や召使が宿泊する設備も整っています。


 色々な機能が備わっているビルバイン城ですが、私は領主が駐屯する場合に使う部屋に宿泊することになりました。

 他領の貴族や他国、最悪王国と戦う事になった場合に、シーモア公爵が在城して指揮を執る場合に宿泊するための部屋です。

 当然護衛や召使のための設備も隣接しています。


「姫様、よくぞ無事にお帰り下さいました。

 家臣一同お喜び申し上げます」


「長年心配かけましたね。

 ようやく領地に戻る事ができました。

 これからも宜しく頼みますね」


 領都の居城を護る城代や重臣、他の領境を護る軍城の城代や重臣を除いた主だった家臣達が、わざわざビルバイン城まで来て挨拶してくれます。

 長年王都で正妃教育を受けていたので、領地に戻るのは七年ぶりです。

 懐かしい顔もあれば、全く見た事のない顔もあります。

 代変わりしたのでしょう。


 リリアンの予定では、ビルバイン城で英気を養い、次の課題に取り組まなければなりません。

 旅の途中で知りえた、魔獣使いと魔獣の関係を確かめないといけません。

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