第2巻発売記念SS 聖女様はコミカライズに思います

 聖女は興奮した様子で大判の本を振り回し、お付きの修道女に話しかけた。

「おいナッツ、聞いたか⁉」

「聞きましたよ、二巻が発売ですよね!」

「そんなことはどうでも良い」

「良くないです」

「それどころじゃないんだ。この帯を見ろ! なんとコミカライズが始まるぞ!」

「あ、そっちです? それもおめでたいですよね!」

「うん!」

 ココはニンマリ笑いながら、届いた二巻の見本誌に頬ずりをする。

「コミカライズ……なんて素敵な響きなんだろう! ……集金先が増えた」

「みんな逃げてええええ!」


   ◆


「コミックも末永く続いて欲しいですね」

 ナタリアの言葉に、難しい顔でココが考え込む。

「その為にはやはりアレかな。コンセプトの見直しが必要かな」

「そういうものですか?」

「絵が中心になるから、ノベルとはアプローチの仕方も違うと思うんだ」

「はあ」

「いまいちピンと来てないみたいだな」

 ココはナタリアに、身振り手振りを入れながら自分の考えるところを説明した。

「いいか、ナッツ。文章だけだと頭に浮かぶすべては、読者が自分で膨らませた自分なりのイメージだ」

「はあ」

「だから私にしてもセシルにしても、百人が百通りのイメージを持っている」

「それはそうですね」

「書籍化すると主要な部分は統一イメージが出来るわけだけど、でも全部のキャラは挿絵に出し切れないからなあ……どうしても読者が己の頭で補完することになるんだ」

「あー、たしかに」

「だけどコミックだと読者は、読むんじゃなくて、眺める! だから読者が推測する余地はなくて、キャラから景色から全部作者がイメージを提供するんだ」

「そう言われますと、そうですね」

「だから作者は読者に自分で世界を作らせず、公式の妄想にどっぷり浸かるように最良の絵で魅せなくちゃならないと思うんだ」

「妄想言わないで下さい」


 横のソファでココの持論を面白そうに聞いていたセシルが口を挟んだ。

「それじゃココ、具体的にどうやれば読者に受けると思うんだ?」

「うむ、それだ」

 またグルグル歩き回っていたココは立ち止まり、重々しく頷いた。

「まず、顔を見るだけでムカつく教皇ジジイ修道院長ババアを」

「消すとか言うなよ?」

「ダンディなイケオジと色気MAXなお姉さまに変える」

「いいね!」

「やけに力強い相槌だなぁ? セシル」

「いや、別にぃ?」

「……それから、セシルとナバロが揃って登場するシーンは」

「俺のキャラデザは完璧だろう。ナバロはともかく」

「殿下、ヒドイ……」

「見ようによってはイチャイチャしているように見える、やたらと距離が近い感じにする」

「なんでだよ」

「『この二人、もしや……!?』て見えるカットが多いと、別にそっちの路線でもないのに妄想がはかどるコアなファン層がいると聞いた覚えがある」

「それ、この話のファン層なのか……?」

「読者に自分でイメージさせないんじゃなかったんですか?」

「深く食いつかせるためなら矛盾もやむなし!」

「始める前から手のひら返すんじゃない」


「それからナッツ!」

「私⁉」

「ナッツはアレだな。一話に一回はスカートがギリギリまでめくれ上がるシーンを入れよう。これこそ全編を絵で表現するコミックの特権だな!」

「なんでですか⁉」

「そういうシーンが必ず入ると、ピュアな瞳の青少年や心のキレイな大きなお友達が『きっと次回も……!』と期待して毎号購読してくれると聞いた」

「その人たち、全然心がきれいじゃないです! 絶対に下着は見せませんからね!」

「当たり前じゃないか」

 ドン引きしているお付きの肩を、悪魔の微笑みを浮かべた聖女様がガシッと掴む。

「そこまで見せるのは、単行本の加筆修正でな。熱心な信者への特別な計らいってヤツだ」

「ココ様、いつからブレマートン派に宗旨替えしたんですか」


「しかしですね、聖女様」

「なんだウォーレス」

「毎回サービスが同じだと、すぐに飽きられませんか?」

 敏腕司祭の指摘に、聖女も渋い顔になる。

「うーん、結構なウリだと思うんだけどなあ……それでも足りないって言うなら、仕方ない。本当はもしアニメ化したら円盤の販売促進に使おうと思っていた必殺技を、このさい使おうか」

「ろくでもない感触が今すでに感じられるんですが、一応窺ってもよろしいですか?」

「聞きもしないうちから、ろくでもないとはなんだ」

 ちょっとムスッとしたココは、またもやナタリアを指さした。

「三回に一回はナッツの着替えシーンを入れる」

「もう勘弁して下さい……」

「六回に一回はナッツの入浴シーンを入れる」

「なんで私だけ狙い撃ちなんですか!?」

「あと三カ月に一回は、修道院総出で温泉か海に行く」

「聖女様、手法がなんで少年漫画に偏ってるんですか」

「あとはセシル×ナバロとかジジイ×ウォーレスとかをチラ見セするとか」

「聖女様、どっちつかずになると全方面から見切られますよ」


「うーん、ほ・か・に・は……」

「おいおいココ。まだアレが出てないぞ」

「なんだ、アイデアがあるのかセシル」

「扉絵を毎回、“聖女様”のあられもない姿のピンナップにするというのはどうだ?」

 ニヤニヤしながら反応を見てくる王子様に、拡販策で頭がいっぱいな聖女様は素で返した。

「でもトレイシーのヤツは、実際には出て来ないのがウリでもあるしなあ」

「おまえの肩書は何だったかな? 聖女様」


「しかしまあ、色々小手先の策を弄したところで、やはり本体である中身を押し出していくしかあるまい。二巻が売れてくれるのを祈るばかりじゃな」

 教皇のまとめに、聖女は眉間にしわを寄せた。

「中身だけで勝負できるほど、世の中甘くないぞジジイ。まず手に取ってもらうのが大変なんだから」

「いやいや、本当に良いものは過剰にあれこれラッピングしなくても十分良さが伝わるものよ」

「だったらテメエがまずゴテゴテした法衣を脱いでから説法して見せろ、ジジイ」

「ひどい言われようじゃ!?」

「でもココ様、猊下の仰ることももっともだと思いますよ? 小説はこう、開いた時のワクワクとか、そういうのを大事にしていきませんと」

「そうか……」

 お付きの諫める言葉に、聖女もフッと笑みを浮かべた。

「確かにそうだ」

「でしょう?」

「万札を挟んでおくのが一番だな」

「違います」











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 メタというか、キャラの楽屋話みたいになってしまいましたが……ついに今日、第2巻が発売です。

 そして来月にはコミカライズも……私も出来上がりは見ていないので、楽しみでしかたないです。


 できれば本編だけでも最後まで刊行したいところですが、これはもう売れ行き次第としか言えないので……まずは目指せ3巻ですね。

 またこんなSSを書けることを祈りまして、それでは、次の機会に!

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