8月1日 木曜日 PM6時

 霧雨の中、アパートの階段をカツカツとヒールの音が、響く。

 俺は目の前に揺れるフリルのスカートを眺めながら、階段を上がる。

 家についてきちゃったよ、こんな可愛い子が!

 契約の話をするのに、カフェに誘ったら、ラティは、家に行きたいといったのだ。

 「ちょっと汚いけど」

 3階の自分の部屋の鍵を開ける。

 部屋は1DKで、築10年くらいだ。大学生の住処としては、良いほうだと思う。

 女の子を連れ込めるようにと、上京したときに、ちょっと無理して、良いアパートを借りたのだ。

 ただ、今までは、女の子が、家に来る事は無く、ただ高い家賃を払っていただけだったが。

 ラティは部屋にはいると、ものめずらしそうに、室内を眺めていた。

 あー部屋が汚い。

 あたりまえだ、まさか今日、女が来るとは思っていなかった。

 俺は部屋の中のペットボトルや、雑誌を、押入れに放り込み、座布団を手で払ってほこりを落としてから敷いた。

「ここに座って。紅茶でも入れるよ」

 ラティは黙ったまま座布団にちょこんと座り、待っていた。

 俺は紅茶を居れ、丸テーブルの上にコトリと置くと、ラティは飲みもせずに話を始めた。

「契約は1か月間よ」

 俺は、洗面所の収納から、綺麗そうなタオルを探して、ラティに渡した。

 ラティはタオルで髪を拭きつつ、話を続けた。

「その間、私はあなたに、女の子との縁を授けるわ」

「女の子とやり放題って言ってたよね」

 俺は興奮していた。初めてのセックスが、もしかしたら、今日なんじゃないのか、と言う気がしてきた。俺は童貞なのだ。

「そうそう、やり放題」

 その答えを聞くと同時くらいに、俺は興奮して、ラティに抱きついていた。

 一瞬、柔らかくていい匂いに触れた後、俺の腕は空をつかんで、床に転がった。

「あれ?」

 ガシャン、とテーブルに足をぶつけて、紅茶がこぼれた。

「私とはやれないわ」

 ラティが上から覗き込むように見る。俺は腕を伸ばして、ラティの顔に触れようとしたが、またしても空を切った。ラティは実体がなかった。触れられないのだ。

「私は実体を消せるから、抱けないわ」ラティは表情を変えず、当然のように言った。

 10分後、俺は紅茶を入れなおし、テーブルを挟んで、ラティと向かい合っていた。少しだけ、このコの言う事を信じ始めていた。同時に、少しイラついていた。なんだか期待させておいて、お預けをくった気分だったのだ。

「どうやったらやれるんだよ!」

 少し声を荒げてしまった。

 ラティは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「なら、まず、ひとり女の子とセックスしてみれば良いじゃない?」

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