エイリアンズ - キリンジ


 はい、来ました。いきなり往年の名曲「エイリアンズ」ですね。


 いきなりエイリアンズです。売れない芸人ではありません。


 この曲が発表された当時、僕はまだ小学校低学年。雪が降っても何故か半袖半ズボンで鼻水を垂らして校庭を駆け回っていました。もちろんキリンジを聞いている訳がありません。僕がキリンジを知ったのは大学生になってからでした。秦基博さんのカバーを聞いて、こんな素晴らしい曲があったのだと照れを隠しながらそっと反省したのを覚えています。


 お前、鼻水垂らして校庭を駆け回っている場合じゃないよ。

 ちゃんと聞け。聞いて素敵な告白に耳を傾けろ。

 そしたら、後々メールで思いを伝えるなんて無粋なことしなかっただろうに。


 ……さて、気を取り直して曲に戻りましょう。

 

 この曲はもうイントロから引きずり込まれます。

 ギターの柔らかい音に吸い寄せられるように、深夜の情景が浮かびます。


 ――――――――――

 

 遥か空に旅客機ボーイング 音もなく

 公団の屋根の上 どこへ行く


 ――――――――――


 冒頭から歌詞がたまりませんね。

 旅客機と書いてボーイング。公団という言葉選び。それらがこの短い2行で味を出し、しっかりと情景を描き出します。

 

 画一的で無機質な風景。

 その上で赤いライトを点滅させている小さな物体。


 音楽を聴いているはずなのに、静まり返った路地に立っているような。人の気配もなく、まるでどこかに誰もが消えてしまったような夜の世界が現れます。


 そこで投げられるのは愛の告白。


 ――――――――――


 キミが好きだよ エイリアン


 ――――――――――

 

 はて、エイリアンが好き、とはどういうことか。

 と、最初は戸惑ったのですが、勝手に解釈して勝手に納得しました。 


 この歌は「日の当たる世界では生きられなくなった二人」を歌っているように思えるのです。


 ――――――――――


 まるで僕らはエイリアンズ

 禁断の実 ほおばっては

 月の裏を夢みて

 キミが好きだよ エイリアン

 この星のこの僻地で

 魔法をかけてみせるさ

 いいかい


 ――――――――――


 バイパスに近い集合住宅。

 しんと静まり返った辺りは、時々走る車の音しか聞こえない。


 どうして、こんな時間にいるのでしょうか。

 寝付けない二人が夜風に当たっているのです。


「僕」は何かをしたのでしょう。

 そして「キミ」を巻き込んだのでしょう。


 僕はキミのために何かをしてしまった。

 取り返しのつかない何かを。

 

 もう、あの眩しい世界には戻れないことは分かっていた。

 でも、夜の街灯に沿って歩けば、見慣れた景色も違う世界のようにみえた。


 だからね、ラストダンスを踊ろう、と。

 まだ、少し時間があるこの静かな夜に。

 

 もう僕らはまともじゃいられない。

 まるでエイリアンのような異質なものになってしまった。


 でも、僕はキミが好きなんだ。

 だから、今この瞬間、この場所だけ。

 エイリアンでも生きていられるように魔法をかけるよ――。




 ……なんて背景がつらつらと浮かんでくるんですよね。全く持って抽象的かつ自分勝手な解釈ですね。こんなこと言っていますが、自分でも「僕ら」が何をしたのか分かりませんし、悲劇的な物語でもないのかもしれません。


 でも、多義解釈が出来るのが音楽の良いところだと思っています。楽曲そのものが素晴らしいことは言わずもがな。それに加えて、僕の頭の中で歌詞から派生した独自の物語が萌えていくのです。


 是非、聞いてみて下さい。

 皆さんには、エイリアンがどういう風に聞こえましたか?





 

 エイリアンズ / キリンジ

 https://www.youtube.com/watch?v=w05Q_aZKkFw

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