第1話1部 動き始めた希望
愛知県襲撃事件から四年。
日本軍本庁舎では新たな大佐の任命式が行われていた。
「
盛大なファンファーレと共に、大佐の象徴である勲章が手渡された。私は一礼をし、後ろにいる隊士たちに向き直り再び一礼をしてから席に戻る。
『続きまして、新しい大佐である神代由依奈大佐からお言葉を頂きます』
アナウンスが流れ、返事をして壇上に上がる。
「この度は、私が能力部隊大佐に就任するにあたってこのような式を開いていただきありがとうございます」
当たり障りのない言葉を選び、感謝を述べる。
「私は今から四年前にある事件に巻き込まれました。愛知県支部襲撃事件です。そこで私は絶望というものを知りました。目の前で二人の上官を失い、数百もの害虫に囲われました。しかし、私は生きています。いえ、生かされたということの方が正しいのかもしれません。私を庇った上官が死に、そして、友人までも重傷を負ってしまった。幸い、友人はまだ生きていますが、それでも一度生死を彷徨ったことには変わりありません。私はもう、そんな悲劇を繰り返したくない。私は四年前とは変わった。約束します。私がいる限り日本に負けはないと!」
そう言い切って壇上を降りる。
少しの間静寂がその場を包んでいたが、だんだんと歓声と拍手が湧き上がった。
席に座ると隣に座っていた同期で先に中佐の位に就いた「
「由依奈、ついにここまで来たね」
耳打ちするように放たれたその声は私にしか聞こえていないだろう。
「誓ったからね」
それに返すように耳打ちで言う。その後に二人してふふっと笑う。
『続きまして、日本軍総督、
そう言われて壇上に上がったのは前任の加賀谷総督が殉職したことによりその位に就いた「岩谷尚之」だった。
「諸君らの前でこうして話すのは半年ぶりか。いつも諸君らの働きには感謝している。先に新任の神代大佐が述べた愛知県支部襲撃事件で、不幸にも死を遂げた加賀谷総督の代わりに着任してからもう四年が経った。私はその間に軍の確変を行ってきたつもりだ。諸君らにはその一端でも伝わっていればと思う」
自慢げにそう話すのには理由があった。
岩谷総督は着任してからの四年間で軍を大きく変えた。部隊間の情報秘匿制度は撤廃され、合同演習や新しい軍事機関の増設、そして何より領地奪還作戦時における戦死者数が大幅に減少した。
これは害虫との戦争が始まって以来、類を見ない功績だと言う。他にもいろいろあるが代表してあげるとこんな感じだろう。
そして、それに並んで凄いのが、壇上を挟んで私と対するように座っている「
市ヶ谷参謀長は部隊の編成と配置能力に優れ、数多くの作戦においてスムーズに、また被害を最小限に抑えてきた。
この二人は今や日本軍にはなくてはならない存在となっている。
今までのことを振り返っていると、総督の話は終わり壇上から降りていった。上官の話を聞かないとかバレたらやばいだろ、私!
『岩谷総督、ありがとうございました。では、これにて新大佐就任式を閉式いたしまーー』
アナウンスが終わりを告げようとしたその時、場内には警報が響き渡った。
『特別警戒!特別警戒!半径三キロ圏内に害虫と思しき生体反応あり。数はおよそ百、内八体はステージ三以上と推測される。総員第二種戦闘配置につき、経過を観察せよ』
場内がざわつき始める。
「諸君、聞いての通りだ。直ちに戦闘配置についてくれ。ここを失うわけにはいかない」
いつの間にかマイクと手に取っていた市ヶ谷参謀長が指示を始めた。
「現時点をもって、東京都本部防衛作戦を開始する。諸君らの武運を祈る」
参謀長が言い終わると同時にその場にいた隊士全員が返事をした。
「神代大佐、就任直後で申し訳ないが、やってくれるかね」
壇上の上から直々に言われる。
「お任せください。迅速に対処してまいります」
そう言って場内に整列していた能力部隊に向き直る。
「総員第二種戦闘配置だ! 第一第二小隊は私とともに前線に、第三、四、五小隊は補給班の援護第六、七小隊はここの防衛。別命あるまで待機。恵莉は六、七班と一緒に基地の防衛に回って、森の中じゃあなたの能力は使えない。本作戦において第二小隊のリーダーは
隣にいた恵莉は頷き、第六、七小隊の元に向かった。
マニュアル通りの指示を出し、後の指示を司令部に一任する。次は開発局に行って戦闘用の薬剤をもらってから軍用機に乗って待機すればいい。大丈夫だ。問題はない。全て上手くいく。
「一班二班は先に発着場にて待機、五分で全ての準備を整えて戦闘に備えろ。私は開発局で物資をもらってくる」
指示を出し終わり、基地に併設されている開発局に走って向かう。先日できた新薬とやらを試させてもらおう。
――五分後
開発局で新薬を貰い発着場に行くと、指示した通りに準備が終わっていた。
『作戦司令部より伝達。現在、害虫の群れは東京都居住エリア方面に進行中。現時点をもって第二種から第一種戦闘配置に変更。直ちにこれを殲滅せよ』
タイミングよく流れてきたアナウンスは作戦を待機から実行に移せと言うものだった。
「就任早々大変ですね。神代大佐」
ため息をついたタイミングで話しかけてきたのは同隊所属の
「仕方ないよ。害虫はいつだって突然やってくるんだから」
微笑しながら返す。
「じゃあ、そろそろ行くとしますか。」
整列を終えた舞台の前に立ち、来ていた羽織を翻す。
「能力部隊の諸君、これは練習ではない。戦争だ。諸君らの中には害虫と相対するのが初めての者も少ないくないと
思う。だからこそ言う! 恐れるな! 私といる限り、我が軍に敗北の二文字はない‼︎」
拳を高く突き上げ、隊士たちを鼓舞する。それに呼応するようにその場全員が雄叫びをあげた。
「さあ、始めよう。世にはびこる害虫どもを、皆殺しだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます