何故、巻き込まれるのか
ルディアがこの自然災害である吹雪を止めると言って、出かけてから二時間後。
「なー」
「クゥン?」
「暇だな、ルル」
「ワン!」
リルは暇を持て余していた。
最初は昼食を食べていないことに気付き、キッチンの食材を使って簡単な料理を作って食べていたのだが、そこから何をやることでもなくなってしまった。
「ルディア、早く帰ってこないかなー」
「ワン!」
そうしているうちに彼は、この家に飼われていた犬、ルルをもふもふするだけの機械になってしまっていた。
ルルとは白とグレーの毛並みを持ち合わせている狼に似た雄犬だ。ルディアに非常に懐いており、リルにも心を許している。
しかも、毛がもふもふでリルがクセになってしまうほど柔らかく、手がずっとルルから離れなくなってしまった。しかし、その時間はあともう二秒で終わってしまう事を彼は知らない。なぜなら、
「ルディア! 今日こそ勝ってみせるぞ!」
戦士の風貌をした少女ソフィが突撃訪問してきたからである。
「うん? なんだリル……と、ルルか!
よーしよし、元気か?」
「ワン!」
ルルの頭をガシガシと撫でるソフィであったが、彼は嬉しそうに吠える。
ただ、リルの方はもふもふタイムを邪魔されたことに不満で、彼女を親の仇のように睨んでいた。しかし、彼女は気にする素振りもなく、話を続ける。
「で、ルディアはどこだ?」
「ルディアはこの吹雪を止めるってどっか行った」
「はぁ? こんなドラゴンが出しているかのような、激しい吹雪の中へか?」
「ドラゴン……?」
今日二回目の彼にとって馴染みのない単語が出てきた。しかし、それよりもだ。
「それって、人が出られないほどなのか?」
外の天気は、ソフィによれば荒れているらしい。それがどの程度なのか。
「こんな天気なら、普通の人間だったらお陀仏だろうな」
それを聞いたリルはすぐさま窓から顔を覗き込み、外の様子を確認する。そこに広がっていたのは白銀の世界、と言えば聞こえは良いが、実際には雪が地面とほぼ平行に走る強烈な吹雪の光景が広がっていた。
「そんな焦らなくても、この家は閉め切ってれば外の影響を受けない仕組みになってるぜ」
それはリルにも分かっていた。ルディアから聞いている。問題は彼女自身だ。
「あいつは……ルディアは……」
「ん? ああ、あいつの事を心配してたのか。ルディアなら平気だ、へーき。どうせ何もなかったように帰ってくる」
「……本当か?」
確かに彼女は、何ともないような顔で出かけた。緊張しているとは言ったが、それでも彼も大丈夫だろうと確信している。
だが、それ以上に不安が勝っていた。彼女が帰ってこなければ、また取り残されてしまえばと。
「……そんなに不安なら、一緒に来るか?」
彼の内心を読み取ったかのごとく、彼女は誘いを持ちかける。
「ルディアがどこへ行ったのか分かるのか?」
「ああ、ここへ来る途中に不審な所があった。私もちょっとばかりあいつに用があるしな」
「けど、外が……」
「大丈夫、大丈夫だって! この家からすこーしばかりコートとか拝借すれば良い。もしもの時は私がいるし、な? な?
よーし決定だ! ルディア捜索隊、ここに結成!」
優柔不断なリルを、強制的にパーティに加え、腕を引っ張り早速準備をしだすソフィ。
「お、おい! まだ行くなんて……!」
「えーと、防寒着は確かここら辺に……」
客室のタンスから防寒着を引っ張りだしてリルに着せたか否や、すぐにルディアを探すため、外へと出発する。
「ルル! 留守番頼んだ!」
「ワン!」
彼女の無理やりとも言える行動に、リルはストップの言葉すらもかけられない。ルディアがいれば止めたのだろうが、ここにはいない。つまり、ソフィを止める者は誰もいないのだ。
「は、早い! 早いって! ほとんど引きずってる!」
先導するソフィに対して、引っ張られるリルは足がついていかずに、何度もこけそうになる。
最後はバランスを崩してしまい胴体が引きずられる……ことはなく、走るスピードが速すぎて、もはや飛んでいた。
「よし、ここだ!」
それが十分くらい続いたころだろうか。目的の場所についたと同時にソフィは急ブレーキをかけ、その反動でリルは吹っ飛び、地面を転がりながらも最後には近くの木にぶつかってしまう。
彼は体をさするも、特に怪我はないようだ。
「いっ……てぇ!!お前、もうちょっとマシな運び方はなかったのか!?」
「良いじゃん。怪我はないしめちゃくちゃ早くついたし。そもそもチンタラしてたら、寒さにやられちまうからな」
親指を立てて良い笑顔で言うが、彼からしてみれば迷惑でしかない。
「だとしてもだな……」
普通に歩くとか、負ぶってもらうとか、そういうのはないのかと言いたいところではあったが、その前にソフィが話を打ち切る。
「それよりもさ、ほらここ。多分ここにルディアがいるぜ」
彼女が指差した場所、そこは木々が生い茂るなかでポツンと不自然に開いた場所の中央。
誰が、どうやって、一体何のために。理由は一切理解できないが、地下への入り口らしき階段が掘られていた。しかも、その周りは氷のかまくらができており、いかにも今の気候に適している生物が中にいます、と言わんばかりの作りだ。
「確かに元凶がいそうな気配だな。けど、毎日ここを通ってるんだろ? 作りかけとか見て怪しいとか思わなかったのか?」
「いいや、そもそも私は別にここは通ったことないぜ」
「はあ? だったらなんで分かるんだ?」
「魔物がここに集まってるからさ」
魔物、また彼にとって摩訶不思議な単語が出てくる。しかし、ここらの人はそう言うものが一般常識としてあると、追求することはせず話を聞き続けた。
「森の中を歩いてると、あいつらいつもは私を襲ってくるくせに、今日は逃げていきやがるんだ。そいつらの方向から予測するに、おそらくここら辺だな、と思ったら見事に当たりだったってわけだ」
「魔物が集まってるって……そんな半分賭けみたいな考えで、ルディアの場所を知ってるって言ったのか?」
リルは呆れ顔をするが、彼女は『いやいや、それだけじゃない』と理由を付け加える。
「そいつら、普段は見ない奴らだったんだよ。しかも、青かったり白かったり、毛が異様にフサフサだったりと、雪が降る地方にいるような魔物ばっかりだったんだ。なら、そいつらとこの異常な天気が関係あると思うだろ?」
「へ、へぇ〜……」
案外頭を使った予想であることに、リルは少し驚く。
見た目からして脳筋と言わんばかりの戦士タイプだと、彼は勝手に偏見で決めつけていたから、余計に意外であった。だがしかし、ならばもう少しだけこっちの身も考えて欲しいとも思った。
「んじゃ、俺は帰る」
用は済んだ。だからもうこの場に意味はないと、立ち去ろうとするが、
「待てよ」
襟を掴まれ、止められる。
「なんだよ! 帰らせてくれよ! 無理やり連れてこられても、俺には何もできないんだよ!」
「じゃあ、この吹雪の中を帰るのか?」
ソフィに指摘され、周りを見るとそこは一寸先は闇ならぬ雪という、視界が極限に悪い光景だった。
「この中を森を抜けて、なんていうのは自殺行為だぜ。さっきは私が連れてきたから良いものの、帰り道が分かってないなら家に着くのはほとんど不可能だ」
彼女の言う通り、土地勘のない彼が家に帰る事は無理だ。さらには吹雪や疲れた体の影響で、このまま外を歩けば凍死すること間違いなしだろう。
ならばソフィと一緒に階段を降り、洞窟の中に行くしか選択肢はない。
「……しゃあねぇ。中に入るしかないみたいだな。
けど、それまでだからな! あとは知らないからな!」
「そう言ってられるのも今のうちだぜ」
ソフィの不穏な言葉を気にしながらも、リルは階段を降りていく。
彼らの待ち受けるのはいかに。
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