ⅩⅩⅠ

「いえ、そんな、あの…。小野井さん」

「な、何…?」


 佐竹君は何かを言いたげに、けど言えないと堪えているようでソワソワしている。再度俺を見て首を左右に振る。



「ごめんなさい。気にしないでください」


 頭を掻きながらへへっと笑って謝る。もやもやは晴れていないんだろうけど、相手に言いづらい事なんて山ほどある。その山を少しでも切り崩して軽くしてあげたい。何かを悩んでいるなら、俺が助けになれれば、解決して軽くなった手助けに俺の顔を浮かばせてくれれば、それで幸せだ。


 相手が笑える人生になるなら、離れるしそばに居る。



「何かあったら、何時でも連絡して。話くらいなら聞くし。俺で無くても頼れる奴に頼って。な」

「はい。ホント、小野井さんは優しいですね。ありがとうございます」


 珈琲を最後まで飲み干して、腕時計に目を写す。

 時間を確認すると7時を回ろうとしていた。


「もうこんな時間。長居しちゃったな…」

「です…ね」


 自分のコップを持って立ち上がり、空になった佐竹君のコップを手に取る。


「よし、帰るか」

「はい」


 佐竹君も立ち上がり、休憩室まで付いて来る。

 洗い物を済まして帰る支度をすると、社内の最終チェックを行いロビーまで下りた。


「桜…。咲きましたね」

「うん、咲いたな」


「少しだけ…」


 コツコツと奏でていた2つの足音の内1つが鳴り止む。

 すぐにもう1つの足音、つまり俺の音も鳴る事を止めて、少し後に立ち止まった佐竹君に振り向く。


「ん?」


 俺と佐竹君の距離が少しある分、身長差が無くなり目線が同じになり、お互いに真っ直ぐその眼を見つめる。



「少しだけ、桜を一緒に見ませんか?」

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