ⅩⅨ
「そう。それは…上司としてとても嬉しいよ。ありがと」
きっと俺の顔を横からちゃんと見て伝えているんだろうけど、俺は見なかった。
というより見れなかった。
嬉しくて恥ずかしくて、言われなくても顔が高揚しているから。
「小野井さん、珈琲…どうですか?」
佐竹君の淹れる珈琲…。
「淹れて…欲しいな」
そう返事すると直ぐに立ち上がった佐竹君は、俺に向かって優しく言葉を降らす。
「分かりました。少し待っててくださいね」
「うん…」
それ位さ、待つに決まってるじゃん。
さっきは俺の事をここで待っててくれてたのに。
「まぁ、仕事の上司として、だけど…」
椅子の背に体重を預けて、腕をぐーんと伸ばす。
窓の外はすっかり暗くなって、こんな時間まで研修中の新人と会社で仕事してるのバレたらやばいなぁと思いつつも、今日は許してくれと自分に甘く祈念する。
「はい、お待たせしました」
会社に置いている俺のマグカップに入った淹れたての珈琲を机に置いてくれた。もちろんブラックで…。
「ありがとう。…あ…れ?」
彼の顔をふと見ると、見慣れない佐竹君の姿があった。
「眼鏡…。外したんだ」
「あ…、少し疲れちゃって」
実は普段は眼鏡して無いんですよ。と鞄から目薬を取り出し上を向いて両目にポト、ポトと点す。
「仕事の時だけって事?」
「そうですね。後、家でパソコンとか読書する時は眼鏡を掛ける程度で、軽い近視なので文字になるとどうしても見えなくて」
と、表情を崩して笑う。
心臓が…。うるさい。
ドキドキドクドクと脈が打っている。
たかが、眼鏡を外しただけだろう。俺に笑ってくれただけだろう。けど、その行動や表情一つ一つが好きで身体全身で堪らなくなる…。
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