「おはようございまーす」


 朝の8時30分。

 出社時間で定められている30分前に俺は毎日会社に到着する。


 社内には、数名しか来ておらずチラホラと挨拶を返してくれる中、自分のデスクに向かってイスに着席する。


 俺は小野井 律(おのい りつ)。

 今年で29歳になる。

 年齢的に、まだまだ社内では若造だけれど も、営業成績はここ数年常に一位。上からは会社にとって有望だと、これからを期待されている。

 身長が低くて、顔も幼いため営業へ出向く度に年相応に見られないのがここ最近の悩み。もうアラサーなんだから、明らかな子供扱いはいい加減やめて欲しいと思っている…。


 カバンを置いて、パソコンを立ち上げる。

 すぐに離席して休憩室へ移動し、会社に置いている自分専用のマグカップを用意してドリップメーカーの電源を入れる。

少し経って珈琲を一杯落とす。


 熱々のマグカップを片手に再びデスクへと戻り、イスに着席した。


 メールのチェックと淹れたての珈琲を飲みながら、今日のスケジュールを確認するのが、出勤してからのルーティーン。


(あっ、今日からいよいよ新人研修か…)


 4月になろうとしているまだ肌寒いこの時期は毎年、入社式の前に行う新人研修期間がある。俺は入社して2年目から部署内では研修担当の立ち位置になっていて、今年もまた任されていた。


 前もって簡単な資料を作っていたのでデータを開いて、早速印刷を開始し出来上がった紙を纏めて束にして新人が使うであろうデスクの上に置く。



「今年はどんな子かなぁ…」



 自分の隣の空いているデスクの上を手で軽く撫でて、ぼんやり呟いた後、仕事のタスクをこなす為に業務を再開する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る