パンケーキ
咲姫
本編
「これどうしよう…多分食えないよな…」
俺の目の前にあるのは、お皿に乗った黒焦げの物体。このまっ黒に焦げた物体は元々パンケーキだったものである。
…事の顛末は1時間前に遡る。
[遡ること1時間前]
「ただいまー」
家には誰もいないのかリビングの電気がついていない。普段であれば既に妹が帰ってきてるはずなのだが。
「珍しいな、あいつが帰り遅いなんて」
あいつ今日なんか予定があったっけと、アプリのカレンダーを開いた。そのままカレンダーの今日の日付をみた時に一瞬思考が止まった。とても見覚えのある日付、しかもとても大切な日付。それは妹の誕生日である。
「しまった、あいつの誕生日すっかり忘れてたな……。今から用意するとしたらスイーツとかがいいか」
そうだ、妹は前にパンケーキが好きと言っていたからそれにしよう。プレゼントで俺が作れば喜ばれるかもしれないし。それにパンケーキなら料理がちょっと苦手な俺でも作れるかもしれない。材料はホットケーキミックスだけ買ってくればいいか、牛乳も卵も冷蔵庫あるし大丈夫だろう。
ということで急いでホットケーキミックスを近所のスーパーで買って家に戻り、袋に書いてあるレシピ通りに作ったのだが………、結果は黒焦げの物体が完成しただけに終わった。なんでレシピ通りに作ったのに黒焦げの物体が出来るんだ…。黒焦げな上に凄く焦げ臭い、こんな物体を食べたらお腹を壊しかねない。とにかく妹が帰ってくる前にこれをなんとか処理を……、
「ただいまー、って兄さん何してるの?」
と思っていたら妹が帰ってきてしまった。絶対に見つかるなこりゃ…。
「…おかえり、あの、これはその…」
しどろもどろになる俺の後ろにある黒焦げの物体に近づいてこっちを見た。
「この黒焦げの物体、兄さんが作ったの?」
見つかってしまったものは隠せないし正直に言うしかない。
「本当はパンケーキ作ろうとしたけど失敗して黒焦げになったんだ………」
「…ねえ兄さん、ちゃんと中火くらいで焼いた?強火にしてないわよね?」
袋には中火くらいで焼いてくださいと書いてあった。でも俺は強火で焼いて、パンケーキを焦がしたのである。
「…強火で焼いてました」
「そりゃ焦げるに決まってるじゃない……、全くもう………」
「すいません………」
妹の誕生日にパンケーキを作ったはいいものの失敗して妹本人に呆れ気味にダメ出しをされる兄。なんとも言えない状況である。
「でも、私の誕生日ちゃんと覚えててくれたんだね」
「…まぁな」
今年は当日になるまですっかり忘れてたとか口が裂けても言えない……。
「だから気持ちだけでも嬉しい。ありがとう」
「…どういたしまして」
お祝いする気持ちは伝わったようで何よりです。
「あ、そうだ。ホットケーキミックスまだある?」
「あるけどどうかした?」
「今から兄さんにパンケーキの作り方をみっちり指導してあげる」
「……マジで?」
「ええ、だって兄さんの作る美味しいパンケーキ食べたいもの」
指導してもらったらちゃんと美味しいパンケーキ作れそうだな、妹、料理上手いからすごく参考になるだろうし。
「わかった、二人でパンケーキ作ろうか」
「やったぁ!じゃあちょっと準備するから待ってて」
そう言って妹はリビングを出ていった。
数分後、身支度を整えて戻ってきた。白地に小さい花が散りばめられたエプロン姿がすごく可愛らしい。
「似合う?これ私が自分で縫ったんだよ」
「すごく似合ってるよ」
「やった!嬉しい!」
会話しながらも、テキパキとボウルに材料を入れてかき混ぜていく。
「はい、交代。ダマがなくなるまで混ぜてね」
「わかった」
あぁ、そういえば過去に妹に誕生日プレゼントでエプロンあげたな。貰って早々にエプロンを着けて作ってくれたおにぎりは塩と砂糖を間違えてたっけ。
「兄さん?手が止まってるよ」
「あぁ、ごめんごめん、昔、お前にエプロンあげたなって思って」
「それ、何年前だっけ?かなり昔だよね」
「いつかは忘れた、でもその時より確実に料理上手くなったね」
嘘偽りのない本心の言葉、塩と砂糖を間違えてた子がこんなに料理上手くなるなんて思いもよらなかったから。
「えへへ…毎日練習したかいあったなぁ」
褒められてすごく嬉しそうな笑顔になる。妹のそういう表情を見ているとすごく幸せな気持ちになる。のんびりと喋りつつも調理は進んでいく。そして…
「出来た〜!」
「今回は美味しそうだな」
焼きあがったパンケーキはすごく綺麗に出来上がっていてとても美味しそうだ。
「早速食べてみよう」
こくりと頷いてナイフで切った一切れを口に運んだ。
「ん、美味しい〜!」
「うん、うまい!」
初めて兄妹で作ったパンケーキは大成功。
「兄さん、今日はありがとう。作ってくれたの本当に嬉しかったよ」
…全く、2回目のやつを焼いたりしたのはお前なのにな。大した妹だよ。
「どういたしまして、次は美味しいパンケーキ作ってお前を見返すからな?」
「おっ、その日を楽しみにしてるね」
「というわけで改めて誕生日おめでとう、また1年よろしく」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
END
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