大人になったから

「昔……さ、あんたに酷いことしてごめんね」


 無理矢理来てみた成人式。目の前の女性はそう言う。僕は俯き、何も答えない。


「あんたの大事なモノを否定すれば、私は優位な位置にいれると思ってたんだ」


 僕は煙草に火をつける。まともな状態じゃ話は聴けない。


「煙草吸うようになったんだ。意外だね。そう、私たちは大人になったんだよ。だからさ、大人になって気づいたんだ。あんたにしたことは人として最低だって、だから、謝らせて欲しい」


 僕は煙草を捨て、走って逃げた。タクシーを捕まえ、家まで送ってもらう。

 見慣れたアパートに着いた。煙草を一本取り出し、フィルターをちぎってから火をつける。部屋に入り、安いウイスキーを瓶のまま飲む。


「謝られたら、誰を憎めば良いかわからないじゃないか。今も夢に出るのに」


 酩酊状態になるまで、ウイスキーと煙草を交互に吸い、意識を飛ばした。何か昔の辛い夢を見させてくれ。と意識が消える前に願った。

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