39.  クルイ


 「待たせたな。茨木童子」


 「随分と横暴な態度だね」


 「ふんッ、ぬかせ。だからなんだよ」


 「どっちが上かをはっきりさせるべきなんだね。天秤座ライブラ 真実の皿」


 「霧具羅。山羊座カプリコーン 悪魔のつるぎ



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




酒呑童子しゅてんどうじさまがお待ちです。大人しく捕まってもらえはしないでしょうか?」



 一体の別格の鬼が、女性の鬼が丁寧にお願いをしてきたので、そりゃ丁寧にお断りをいれる。



「まだ、初めて会ったばかりで、緊張もしているから大人しくって言われても――――」


「――――つまり何が言いたい」


「丁重にお断りします」


「あらそう、残念。お前たち、力ずくで拘束しろ」



 女性の鬼は、夜叉丸曰く廻淡姫えたんひめという鬼は周りの鬼に命令をし後ろに下がっていく。



「星の力双子座ジェミニ 削螺吹雪さくらふぶき



 周りの鬼を情けをかけずに殺していく。

 殺して殺して殺していく。


 十分くらい経過したのに一向に減る気配がない。

 何かがおかしい。

 けど何がおかしいのかわからない。


 流石に集中力がもたないし、星の力は体力を消耗する。

 後、使えて三十分くらい。



 早く解決策を、


『多分だけど廻淡姫の鬼能だと』


 やっぱりか。

 どういうやつか検討は?


『一切つかない。あいつも七鬼王の一人だけど情報がなかったんだ』


 でも七鬼王ってそんな近くにいないよね、普通。


『さっきの廻淡姫の言葉から察するに、僕を捕まえろって命令が出たと考えるべきだね』



「なら親玉を叩くまで。星の力双子座ジェミニ カストルの断罪」



 無数の刃からの霊力の矢で、廻淡姫までの道を切り開く。



「ほう。鬼を割ってここまで来るのかい」


「自分には今大事な任務がある。朱音の機嫌とりというな‼ だから先に片付けさせても――――」


「――――鳳凰座フェニックス 不死の羽」



 廻淡姫の体が薄い炎に包まれて神々しい光を放っている。



 嘘、だろ?

 相手も星の力が使えるのか。


『十中八九酒呑童子の仕業だろうな』


 戦力を揃えてきたって事か。



「何を驚いている。お前だけが特別ではないんだよ」


「星の力双子座ジェミニ 削螺華さくらはな



 攻撃を仕掛けようとしなかったので、こっちから仕掛ける。

 廻淡姫の体が華に触れた瞬間に、削られていく。

 が、少しするだけで廻淡姫の体は炎に包まれて傷が癒えていく。

 まるで何事もなかったかのように平然としている。



「星の力双子座ジェミニ 削螺吹雪」



 廻淡姫の体を絶え間なく削っていく。

 が、一向に殺せる気配がない。



 どうすればいいんだ。


『忌助、攻撃をせずに防御に徹しろ』


 なんでだ?


『多分それがいちばんいい』


 わ、わかった。



「星の力双子座ジェミニ 蜃気楼しんきろう



 夜叉丸に言われた通り防御に徹することにする。

 今の自分の体は半身半霊。

 無数の刃全てに体があると言っても過言ではない。

 だから本体に攻撃をされても大丈夫だろう。



「どうした? 攻めてこないのか」


「そっちこそ。さっきから攻撃をしてこないじゃないか」


「チッ。鳳凰座フェニックス 不死の翼」



 廻淡姫の体から神々しさが消えて、禍々しさが増す。

 そして、炎が腕や足だけに出現している。



『攻撃形態って事だろうね』


 なるほど、それがわかってたのか?


『いや、何となくだ。廻淡姫が一切攻撃をしてこないのが怪しいと思ってね』



「星の力鳳凰座フェニックス 火炎焔かえんほむら


「星の力双子座ジェミニ カストルの断罪」



 廻淡姫の拳に溜まった炎を正拳突きの要領で撃ってくる。

 炎の拳と霊力の矢がぶつかり、霊力の矢は数で押しきっていく。

 そして、



「グァァァァァッ」



 たくさんの霊力の矢に貫かれ廻淡姫は絶命した。

 それに合わせて周りの鬼たちも消えてなくなった。



「終わった、んだな」



 自分は星の力を解除してその場にへたり込む。

 疲労がどっと体を襲い、立つ気力が出てこない。


 朱音たちはまだ大丈夫だと思うからもう少し探さなくちゃ。

 でも鬼能を持ってない鬼が多すぎるから目的の物を見つけるのは大変だ。

 何かいい方法があれば、または鬼を作れればいいのに。



 夜叉丸、仮眠をとるから十分経ったら起こしてくれ。


『了解。敵が来ても起こすからな』


 ありがとう。



 夜叉丸に目覚ましをお願いして眠りにつく。



 ※



 何時間も寝たような、一分しか寝てないような。

 でも、目が覚めて頭が冴える。



『一旦もどったら?』


 それは出来ない。

 せめて、鬼を、鬼能のある鬼を連れて帰らないと。


『なら方法がないわけではないぞ?』


 それはどういう意味だ?


『鬼を蘇らせる。そういう鬼能の鬼がいても不思議じゃない』


 それを複製すればいいって事か?

 無理だよ、それは。

 複製だって確実な訳ではないし、それに運良くそんな鬼能のやつがいるとは限らない。


『それはわかってる。でもいたんだよ、さっきまで戦っていた鬼、廻淡姫がそういう系の鬼能だ』


 えっ、なんでわかるんだ?


『まず、倒したはずの廻淡姫の反応があった事。それから確実に死んでいて消滅した七鬼王の二人、壱千手いつせんじゅ猿琥えんこの反応があって、京の方に行ったからだ』


 て、ことは今から急げば壱千手に追いつくって事か。


『そういう事だ。だが相手は七鬼王が二人。そう簡単じゃないからね』


 わかってる。


 でも夜叉丸がいればどうにかなるでしょ?


『期待するな。特に何もできんから』


 チッ。

 おだてて手伝ってもらおうと思ったのに。


『忌助の心は聞こえてるからな』


 ........手伝ってくれない?


『残念だけど手伝えない。そもそも体がないから』


 それもそうだけど....。



 気持ちを切り替えて、身体強化霊術を使って京の方に走り出す。



 どのくらい走っただろうか、見つけた鬼は片っ端から無視してきたから鬼の大軍を連れているみたいになってしまった。

 後ろから怒号が飛び交い一種の地獄となっている。



「まて、お前を捕まえれば俺は出世できるんだー」


おでには可愛い娘がいるだ。その為に出世するだー」


「お前を捕らえてあの娘に、あの娘に告白するんだ」



 鬼にも色々な事情があるのだろうが、煩く後ろからついてくるのがそろそろ鬱陶しい。



「こい、夜叉丸。紅蓮流剣術 覇掟はじょう



 霊力に干渉して刀を振るった所の霊力を乱す。

 そして、ここを通った鬼たちは、



「グゲェ」


「ゴォ」


「ジャッ」


「ブベァェ」



 首や体が斬れて地面に転がる。

 後ろかる来る鬼に押されるようにして、覇静の中に飛び込み、命を落としていく。

 これで半数以上減らせればいいのだがな。


 そんな事を気に止めず、壱千手と猿琥の追跡を再開する。



 少しして、壱千手と猿琥が急いでいるのを見つけた。

 まだ距離があるけど、攻撃は届くだろうか?



「こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 極星の軌跡」



 自分の周りに無数の刃が宙を舞っている。



「星の力双子座ジェミニ カストルの矢」



 無数にある刃の一つから霊力の矢が飛びだし猿琥の足に突き刺さる。

 そして減速していった壱千手と猿琥に、



「追いついたぞ」



 無数にある刃のいくつかが壱千手と猿琥を囲んでいる。

 これでいつでも攻撃できるという脅しにもなるだろう。



「さて、壱千手。自分と来てほしいんだ。来てくれたらじゅうは保証しよう」


「おい、勝手に話を進めんな。わちしを無視すんな」



 猿琥がその場で食って掛かる。

 煩いし、目障りで、鬱陶しい。



「黙れ、下賎の分際で喚くな。星の力双子座ジェミニ 百鬼操炎」



 猿琥を囲んでいた刃に青い炎がつき、猿琥を貫いていく。



「精神を浄化してやる。星の力双子座ジェミニ 地獄の業火」



 無数の刃の一つが青い炎に変わり、猿琥の体を骨まで焼き付くす。

 もちろん灰すら残さない。



「さて、もう一度言うよ。自分と来てほしいんだ? 住はぜっっっっっったいに保証するから」


「こ、断ると言っ――――」


「――――ッ」



 変な事を言おうとしてたので、片腕を斬り飛ばす。

 もちろん跡形も無くなるように地獄の業火で消し炭にしてあげる。



「ごめん、続きをどうぞ?」


「い、一緒に、行かせて、もらいま....せん」



 そう言って壱千手は心臓がある部分を手で貫き自殺をはかる。



「そう死に急ぐな。星の力双子座ジェミニ 聖域の炎」



 さっきと同じく無数の刃の一つが青い炎に変わり壱千手の体を燃やしていく。

 ただ一つ違うところ。

 それはこの炎が優しい光を放っているところだろう。

 燃え盛る壱千手の傷口はみるみるうちに治り、



「さて、最後にもう一度だけ聞くよ。自分と一緒に来てほしいんだ? 答えは『はい』か『わかった』かの二択」


「いや、どっちも了承の意味じゃん」

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