閑話 井岡正之という男
人気アイドルランキング1位……宵川みやび
なりたい顔ランキング1位……宵川みやび
雑誌掲載ランキングも堂々の一位を獲得し、CM出演数本も先月獲得することが出来た。
すっかり「宵川みやび」は日本を代表するタレントだ……。
「事務所に入ってきたときは芋くせぇ女だと思ったけどなぁ……磨けば光るとはまさにこのことだな」
この俺、
右も左もわからない田舎から出てきた女の子のマネージャーに任命されたときは、「やべぇ、俺のマネージャー人生積んだ」とまで思ったものだが、人生何が起こるかわかったもんじゃねぇな。
Prrrrrrrr……
「おっと、天才美少女様からのご連絡だ……はい、もしもし」
『あ、お疲れ様です。井岡さん』
「お疲れ様です。どうしました?」
『あの、この間の雑誌の打ち合わせの件なんですけど、水着っていうのは聞いていなくて……』
あー……やっぱり突っ込んできやがったか。
まぁ事前に言っちまったら絶対断られると思ったからな。
雑誌編集者も混ぜて打ち合わせに呼べば断り切れないと考えたからまでの算段よ。
「あーあれですか。事前にお伝えしなくて申し訳ございませんね」
『あの……申し訳ないんですけど、やっぱりお断r……』
「でも、言いましたよね? あの時、『わかりました、やります』って。もう撮影の準備は進んでいますし、出演料の交渉も既に済んでいるんですよ。今更断ったりしませんよね?」
『あ……う……』
「安心してください、そんな際どいやつじゃないんで!」
ったく、このガキは。
服の一、二枚脱ぐくらいのことで躊躇いやがって。芸能界舐めてんのか。
『……はい、わかりました』
「問題なかったのでしたらよかったですーまた何かありましたらご連絡ください~」
『はい……失礼します……』
多分だが、こいつは俺のことを嫌っている。多分ていうか絶対な。
極力俺と二人でいないようにしやがるし、最近は俺の車に乗らないでタクシー使って帰るしな。
「全く……誰が売れるようにマネジメントしてやったと思ってんだよ……まぁ、人気が出たのはプロデューサーの大舘さんのおかげだと思うがな……」
人気が出ちまえば、後は俺がファンをブヒらせるための政策を考えるだけ。
ちょろいもんだぜ……。
Prrrrrrrrr……
「なんだなんだ? また文句があんのかあの売れっ子様は……」
「はい、もしも……」
『あのー……週刊秋分の者なんですけれども』
「……は?」
***
週刊秋分。
芸能人のスキャンダルに精通している業界きっての出版社だ。
そんな週刊秋分からまさか、宵川と一般人の男が楽しそうにデートしている写真が送り付けられてくるとは……な。
記事にするのはやめてくれと頼みこみ、それなりの交渉料金を事務所から出すつもりだ。
なんとか事態はまるく収まりそうだが……こんなことを繰り返されちゃたまらん。
早速俺は宵川を事務所に呼び出した。
「……これはどういうことですか? 宵川さん。いや、椎名さん?」
……ったく、偉そうにグラサンなんてかけてきやがって。
普段はかけてねえくせによ。
新品のニットを着てるあたり、どこか出かけるとこだったみたいだな。
またあの男のところに行くつもりだったんかねぇ……こりゃ説教だな。
「……」
「この隣の男は兄弟とかではないですか?」
「……違います」
「……はぁ。マネージャーの僕に連絡もなしに男と逢瀬を重ねられても困るんですが。あなたはうちの事務所きっての人材なんですよ? 事務所にバツがついたら他のタレントにも迷惑がかかるんです。わかってます? ましてや、恋愛禁止をヨイハナは謳っているんですから、エースであるあなたがその理を破ってしまったら示しがつかないでしょう?」
「おっしゃる通りです……ごめんなさい」
「……当分、外出は控えてもらいます。もちろん、<<彼>>に会うのは絶対に禁止です」
「……!!!」
「どんな関係なのかは知りませんが……見たところ彼は大学生のようですね。このままあなたと関わり続けていたら、彼の生活にも支障がでますよ? もしかしたら就職とかにも影響が出るかもしれない……」
「……ッ!わかりました……自宅謹慎します」
「はい、そうしてください」
「それでは、失礼します……」
あからさまに落ち込んでたな。ありゃあの男に本気で惚れてやがるな……。
どこの馬の骨かもわからん野郎のせいで稼ぎ頭のタレントが傷物にされちゃたまらん。
そもそもイケメン芸能人とか周りにたくさんいるだろうがよ。
なんでまたあんな冴えない男かねぇ……よっぽど俺の方が色男じゃねぇか。
だがしかし、これにて一件落着ーーーーと思いたいところだが、出る杭は打っておきたいのがこの俺だ。
「あの男にも釘差しとくか……」
青嵐学院大学の学生、尾崎傑くんねぇ……。
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