Data.171 弓おじさん、混迷の戦場

「サトミ! ゴチュウと合流できたんだな!」


「そもそもユニゾントレーナー……いや、今はユニゾンマスターでしたね。どちらにしろ職業の特権で持ち込んだユニゾンとは同じ場所にワープするようになってるんです」


 なるほど、それはそうか。

 物扱いするみたいで言い方は良くないけど、ユニゾン系の職業にとっての武器はユニゾンだ。

 それをルールで引き剥がすなんて、俺から弓を奪って別の場所へワープさせるようなもの。

 あまりにも不利な状態になってしまう。


「おいおいおいおいサトミちゃ~ん! 降りてきて戦いなぁ? 俺の蛇腹剣は伸びるが、本来は中距離戦を想定した武器だ。遠距離戦をするのは向いてねぇ!」


「だから初戦から空を飛べるという情報を明かしてまで上をとったんです!」


 やはり兄との戦いとなるとサトミは熱くなる!

 年頃の男同士の兄弟喧嘩は苛烈を極めるぞ……!


「ふぅぅぅ……! やっと消火出来た……! さあ、熱々の関係に水を差すのが私の得意技! 撃ち落としちゃうよ弟くん!」


 レインコートの少女ゼラちんの武器は水鉄砲!

 おもちゃみたいだが、侮ってはいけない。

 水というのはリアルでも高圧で噴射すれば金属すら両断する力がある。

 ファンタジーが基礎となっているゲームともなれば、水が鉛玉より強いなんてことは往々おうおうにしてありえる!


「させるか……! 風神裂空!」


 ゼラちんの頭を狙った高速の矢はレインコートの側頭部でつるんっとすべり、貫通することはなかった。

 あのレインコートの表面……摩擦を極限まで減らすコーティングでもしてあるのか!?


「おー怖い! 私を狙ってくることなんかわかってるんだから! くらえっ、噴水式誘導弾ファウンテンミサイル!」


 ゼラチンの背中に出現したランドセルから、水の勢いで飛ぶペットボトルロケットが次々と発射される!

 それらは一度天高く昇った後、方向を変えて地上へと降り注ぎ始める……!


「退魔防壁!」


 発射される量が多くなるほど、1発1発の威力が下がるのが基本だ。

 実際、何発かペットボトルロケットが当たったところでバリアはびくともしない。

 ゼラちんへの攻撃は続行可能だ。


「あのレインコートに炎が効くのは実証済み! ガトリング・インフェルノ……」


 パリィィィィィィンッ!!


 弓を構えた瞬間、蛇腹剣がバリアを突き破って中に侵入してきた!

 ガー坊が間に割って入り【エナジーシールドⅢ】を発動する。

 かつてNSOメダル50枚で獲得した【エナジーシールド】の強化版で、ガー坊を追尾するエネルギーの盾を発生させるスキル。


 【太陽の守護サンパワーガード】と役割が似ていると思いきや、実はかなり違う。

 あの『万弓マンボウ』は先代の武器『コバンザメシューター』と違い、ピッタリとガー坊に追従してくれない。

 ガー坊から遠く離れていくことはないが、意思があるかのように周囲を自由に泳ぐ。

 そのため、いざシールドを発動しようとした時、見当違いの場所にいることがよくある。

 さっきは呼びかけに応えて俺の元に来たけど、たまに無視されるなんてことも……。

 そこまで不思議な魚マンボウを再現する必要はないと思うが、再現されているのだからこちらで対応するしかない。

 優秀な武器スキルと奥義、高いステータスがあるだけで十分だと思わないとな……!


「ボーっとしてんじゃねぇ! 主役はこの俺! コアだ!」


 伸ばされた蛇腹がのたうち回る!

 本物の蛇が暴れているようだ……!

 バリアの中に逃げ場はない。外に出なければ……!


調和の指揮者ユニゾンマエストロ……火火散華ひひさんげ!」


「うぉぉぉ!? またまた、あっちぃーーーッ!!」


 空から降ってくる物がペットボトルロケットから炎の花びらに変わる!

 サトミの新技か……!?


「ちぃっ! 水が降ったり火が降ったり……ここは戦場かぁ!? あっ、戦場だ!」


 コアは蛇腹剣を引っ込め、自分の身を守るために使う。

 意外と慎重派だな……。

 てっきり俺に接近するため、バリアの中に入ってくると思っていた。

 そうすれば、ついでに空から降ってくる攻撃も防げる。一石二鳥だ。

 こちらもそれを想定して接近戦の最強技【スターダストアロー】やガー坊の【紅い死喰回転クリムゾンデスロール】を発動する覚悟をしていたのだが……。


 ピシッ、ピシ……ピシピシ……ッ!


「あ」


 バリアが崩壊しかけてる!

 ペットボトルミサイルに耐え、蛇腹剣の一撃でも部分的にしか破壊されなかったバリアも、流石にもう耐え切れないか……!

 コアはそれをわかっていて退却したんだ!

 だが、気づいてしまえばこちらのもの。

 スキルは再発動すればいいだけ……!


「キュージィさん! お互い1人ずつ相手をしましょう! その方が僕たちには動きやすい!」


「サトミ……!」


 確かにそうかもしれない……。

 さっきから戦闘を続けているが、俺がコアとゼラちんに挟まれているという位置関係は変わっていない。

 彼らはコミカルに戦いながらも、この挟み撃ちから俺を逃がさないつもりだ。

 正面のコア、背後のゼラちん……両方を気にしつつ戦うよりは、仲間に背中を任せて1つのことに集中する方が絶対に向いている。

 俺はマルチタスクなんてクソくらえのシングルタスク野郎だからな……!


「それでいこう!」


「では、僕がコアを倒します!」


「……了解した!」


 いつもの彼のテンションではない。

 心配といえば心配だが、ここは信じるべきだ。

 せめて兄弟喧嘩に水を差させないために、俺はゼラちんを倒す!


「結局コアくんの望む展開になっちゃったかぁ……。しゃーない! 兄の威厳を示す戦いを私も手伝おう! かかって来なさい弓おじさん!」


「望むところだ……!」

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