Data.142 弓おじさん、ユニゾンエボルブ

 その姿……ワニ!

 『レイヴンガー』から『レイヴンアリゲイト』へと進化したガー坊には4本の脚が生え、どっしりと大地を踏みしめている!

 種族の名前から『ガー』要素が消えたが、まあモンスターの進化なんてそんなもんだ。

 思っていたのと違う姿になることが多い中で、ガー坊は進化前の面影を残している方……というか、前の姿に脚を生やしただけでは……。


「ガァー! ガァー!」


 鳴き声は少し低く、勇ましくなったような気がする。

 ここは『ガー』のままで助かった。

 『ワニワニー!』とか言われたら俺も頭を抱えただろう。


「ガー坊! もう一度俺の脚を噛んで体を支えてくれ!」


 川にはワニの群れの生き残り、地上側には猛獣が待ち構えている。

 動きの鈍い俺が地上にいてはエサでしかない。

 一度シャキッと立ち上がり、【浮雲の群れ】で空に足場を作り、【ワープアロー】でその上に乗る。

 ここなら地上の猛獣たちの牙も届くまい。


 俺がいなくなった分、ガー坊が狙われることになるが……問題はない。

 まだ細かくステータスを見ていないが、とりあえず奥義が2つ、スキルが1つ追加されている。

 さらには既存の奥義が2つも進化している……!

 今のガー坊は以前の何倍も強い!


「ガー坊! まずは川の敵を攻撃だ!」


 ワニたちは一度戦って数や能力を把握しているし、川の敵を排除しておけば最悪ガー坊と一緒に水中を逃げることが出来る。

 サバンナの猛獣たちが川に入って海まで追ってくるとは思えないしな。


「奥義……黒子クロコガイル!」


「ガァー! ガァー!」


 クロコダイル、黒子ダイル、黒子ガイル、黒子がいる……。

 ダジャレはさておき、ガー坊の影から5体の分身が生み出された。

 漆黒の体に赤い目を持つ分身は、風雲の隠れ里で戦ったトカゲや蛇蝎だかつトンネルのヘビに似ている。

 影のようにモヤモヤしていて冷静に見ると偽物とわかるが、本物のガー坊も黒い装甲なので動き回っていると案外わからない。


 この分身たちには当たり判定が存在し、一定のダメージを受けると消滅する。

 性能は本体の5分の1程度で、奥義が使用できないという制限があるが、それ以外は本物のガー坊となんら変わりはない。

 手数を増やして畳みかけるというソロではなかなか出来ない戦法もこの奥義があれば出来る!


 5分の1になってもガー坊の攻撃ステータスはバカにならない。

 敵を複数でとり囲んで攻撃を加え、どんどん撃破していく!


「俺も出来る限り援護しないと……おっ?」


 ここで俺は重要なことに気づいた。

 脚が生えたおかげでガー坊が地上でも素早く動けるようになっている!

 泳いでいる時ほど速くはないが、少なくとも今までのように敵の的になるようなことはない。


 それでいて、今までのように空中浮遊も可能だ。

 浮遊して敵の攻撃を回避し、解除後に落下するスピードを乗せた尻尾による攻撃で敵の体を打ち砕く。

 すでに新スキル【フレイルテイル】も使いこなしているようだ。

 古代ワニがガー坊の装甲を砕いた攻撃と似たシンプルなスキルではあるが、使い方を見るとAIもかなり賢くなっているような気がする……!


「ガァー! ガァー!」


 新奥義はまだ1つ残っている。

 おそらく威力ではこれが最強……。

 その名も【紅い死喰回転クリムゾンデスロール】!


 口を大きく開けて高速回転しながら突進。

 むき出しの牙はミキサーの刃のように敵を粉々に切り刻む……!

 これもまた古代ワニの攻撃に似ている。

 つまり、俺に食らわせたあの攻撃も可能だ……!


「ガアアァァァーーーッ!!」


 ガー坊がひと際ウロコの硬いワニを咥えると、その体を一瞬でねじ切った。

 そう、口で挟みこめば回転の力がそのまま対象に伝わり、肉をねじ切るほどのパワーを生むのだ。

 リアルのワニも使う必殺技デスロール……第3進化を終えたレアモンスターであるガー坊が行えば、これほどの威力を発揮する……!


 川のワニたちはこれで片付いた。

 後は分身たちが抑え込んでいた地上の猛獣だけだ。

 ライオン、トラ、チーターなどカッコよくて恐ろしい獣ばかりだが、今のガー坊の敵ではない。


 ガー坊はふわりと空中に浮き、強化された【オーシャンスフィア】である【ブルーオーシャンスフィア】を発動する。

 気持ち蒼さを増したような水の球体の性能は……正直さほど上がっていない。

 重要なのはクールタイムの短縮だ。

 前は10分だったクールタイムが、5分になっている!

 これは中途半端な性能強化よりもずっとすごいことだ。

 なんてったって奥義の回転効率が一気に2倍だからな……!


 さらに強化されたのは【オーシャンスフィア】だけではない。

 ずっと俺とガー坊を支えてくれた代名詞たる奥義【赤い流星】も【赤い流星ツー】へと進化している。

 こちらも威力や速さなどの基本性能は微強化にとどまるが、クールタイムが10分から5分へと短縮されている。

 より強い奥義が手に入った後に、前の奥義が気軽に使えるように変更されるってのはありがたい。

 使いやすくなれば劣化版と言われることもないからな。


 さて、ガー坊が近くの敵をあらかた片付けてしまったから、俺は空から周辺を索敵しよう。

 戦いの匂いに誘われて新手のモンスターが来ている可能性もあるから……な……。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン……


 何かサバンナという世界観にそぐわない足音が遠くから聞こえてきた。

 スキル【狙撃の眼力】を発動し、その足音がする方をよーく見てみる。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン……


「……メカライオン?」


 足音はサバンナに合わないが、見た目はサバンナに合わせてきたか……。

 照り付ける太陽を反射する金属のボディを揺らして、メカアニマル軍団がこちらに迫って来ていた。

 どうしてこんなゲテモノが……いや、そういえばガー坊も機械のお魚だしメカアニマルに近い存在だ。

 まさか、何か関係あるのか……?

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