叢雲の章
Data.139 弓おじさん、再び南へ
海に来るのは、かに座の巨蟹迷宮に挑んだ時以来だろうか。
確かあの戦いの後に特殊第3職『
ガー坊との出会いといい、海というのは俺にとって特別な出会いを生む場所だ……なんてシャレたことを言ってる暇があるならさっさと海に入ろう。
砂浜にいる段階ではガー坊に変化はないし、早く人目につかないところに行きたい。
なぜなら、今回の装備は見た目がちぐはぐだからだ。
頭部装備は羊の頭蓋骨をそのままヘルメットにしたような防具『ゴートスカルメット』。
白ヤギさんと黒ヤギさんのいた
邪教感がにじみ出ているが、そこそこ性能が良い。
◆ゴートスカルメット
種類:頭部<ヘルム> HP:55 MP:30
武器スキル:なし
両腕装備は『指ぬき』ならぬ『手ぬき』の金属製籠手『フィンガースコルピオ』。
武器スキルは指先から毒の仕込まれた針を伸ばして攻撃する。
つまり、俺の戦闘スタイルとの相性は最悪だが、素のスペックが高いので装備している。
◆フィンガースコルピオ
種類:両腕<ガントレット> 攻撃:60 防御:25
武器スキル:【
脚部装備はすだれのように細かい骨が連なった『ボーンスカート』。
ゴーストフロートのボーンデッドマンションで手に入れたスケスケならぬスカスカスカートだ。
◆ボーンスカート
種類:脚部<スカート> 防御:40 魔防:45
武器スキル:なし
NSOに男女間の装備格差はない。どの装備も性別関係なく装備できる。
もし最強装備が女性向けっぽいデザインだとしたら、次のイベントは女装した男で溢れることだろう。
まあ、NSOにはこれという最強装備はないし、あったところで全員が入手できるような状態にはしてこないという信頼がある。
「この姿のスクショをとられて拡散されないうちに行くとしようか」
海に入って海底を歩く。
今日は蒼海竜は……いない。
ポセイドンクラーケン戦では味方になってくれた竜も、一度は出会い頭に俺をキルしているからな。
非常時以外はなるべく出会いたくないものだ。
さて、ガー坊への命令を『おまかせ』に切り替える。
これで進化に必要なアイテムを勝手に探してくれるという話だが……。
「……ガー!」
反応があった……!
ガー坊は海岸線に沿って海を泳ぐ。
てっきり出会った深海に行くと思っていたから意外だ。
泳ぐスピードはかなりセーブしてくれてるので置いていかれることはない。
ガー坊に水中の移動速度で勝てるわけないから嬉しい配慮だ。
しばらく海岸線に沿って進んでいると、ふいに陸地側へと海が食い込んでいる場所にたどり着いた。
どこかの湾だろうか?
ガー坊は沖に向かうことはなく、その湾のような場所に入り込んだ。
さらに進むとどんどん景色が変わってくる。
足元は砂というより細かな砂利で、潮も常に前方から流れてきて変化がない。
海藻の種類もまるで違うし、出てくるモンスターも……。
「まさかここ……川か!?」
間違いない……!
ガー坊は川を
サケのごとく!
これは予想外だった。
まさか深海どころか陸地の中を流れる川を探索することになるとは……。
そういえば海底を歩く冒険なんてよくある話だが、川底を歩いて冒険という話はあまり聞かないな。
リアル視点で考えると水の透明度とか流れの強さが問題なんだろうけど、ファンタジー目線だとやはり海に比べてロマンが足りないからだろうか。
海に眠るお宝と聞くと冒険の匂いがするが、川に眠るお宝と聞くと専門の業者さんにお願いしたくなる。
まあ、リアルだとどっちも専門の方にお願いして素人が手を出すべきではない。
水って美しいけど恐ろしいからな。
でも、NSOの水は呼吸ができるし、体の動きが鈍くなって武器やスキルが弱体化する以外は特に問題がない。
川底散歩なんて珍しい体験も気軽にできる。
水の透明度は上々で、海ほど深くないので差し込む日差しが綺麗だ。
しかし、ガー坊は一体どこまで行くつもりだろうか?
というか、ガー坊は淡水も大丈夫なのだろうか?
流石に海水と淡水の差でどうこうするシステムがあるとは思わないが、元ネタの魚は海に住む『ダツ』や『ガーフィッシュ』だから少し気になる。
あ、でもガー坊の体は結構大きくて肉厚なので、見た目的には一時外来種としても問題になった『アリゲーターガー』の方に近い。
あちらは川に住む淡水魚なので、何も問題はない。
そう考えると、ガー坊が進化を求めて川を
「それにしても、やたらデカい魚が増えてきたな……」
アロワナ、ナマズ、ピラルク、淡水エイや淡水ザメがのんびりと泳いでいる。
とにかく川に棲む巨大魚を全部ぶち込んでみましたみたいな光景だ。
中にはまったく見たことないような魚もいる。未確認生物UMAの類か?
アンヌに聞けばわかりそうだが、あいにく今回は1人だ。
謎生物含め、特に襲い掛かってくる様子はないのでスルーする。
いつもはモンスターに敏感に反応するガー坊も今回は鳴きもしない。
やはり、何かを目指して移動を優先しているようだ。
「ガー! ガー!」
ガー坊が鳴いた……!
これは威嚇の鳴き声、敵だ!
他の魚たちが何かを察したようにみんな逃げ出す。
俺も海弓術のグロウカードを装備していることを再確認してから身構える。
これを装備していないと水中の俺はエサでしかない。
ガアアァァァーーーッ! ガアアァァァーーーッ!
ガー坊の鳴き声を低くしたような鳴き声……。
おそらくこれも威嚇を意味している。
声を聞いたガー坊が少しひるんだ。
まさか、敵というのは同じガー系統の……。
「いや、あの形状は……!」
現れた敵は確かにガー坊と同じく細長く尖った口を持っているが、同時に4本の立派な脚が生えている!
そして、ガー坊よりも圧倒的に巨体で、群れを成している……。
アリゲーターガーじゃなくて、本物のアリゲーター……ワニの群れだ!
淡水域における生態系最強生物に水の中で囲まれた……。
魚類と大型爬虫類では到底勝負にならない。
ここは哺乳類である俺がガー坊のために頑張らないとな!
ワニは大型の哺乳類のヌーも食べるとか、人間は水の中では獰猛な魚類に劣るとかいう冷静なツッコミも今回はナシだ!
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