Data.25 弓おじさん、孤軍奮闘
「くっ……! このままじゃどんどん戦力を削られるだけだぞっ!」
「とにかくゴーレムの数を減らさないと始まらない!」
「あの弓使いもチクチクうっとうしい……。誰か潰してくれ!」
「戦力の一部を突撃させるべきだ!」
「バックラーさんすいません! 俺たちは前に出ます!」
その時はすぐに訪れた。
敵軍は砦からの砲撃を恐れてバックラーの近くに密集していた。
しかし、もう彼だけでは味方を守りきれないと判断すると、一部のプレイヤーがこちらへ突撃を仕掛けてきた。
この判断……正しいと思う。
砲撃は遠くに飛ばす以上、撃ってから着弾までにかなりタイムラグがある。
しかも砲撃の照準は敵にも見えている。
狙われたと思ったら素早く動いて避ける。
ゲームに慣れたプレイヤーなら比較的容易だ。
すぐにこの戦法をやるプレイヤーが出てこなかったのは、味方がたくさんいるからだ。
MMOに限った話ではないが、見知らぬ人とチームを組む対戦ゲームにおいて、無駄に突撃して死ぬのはかなり嫌われる……!
たくさんの味方に死ぬところを見られてしまうこの状況では、なかなか勇気のいる行動だ。
本当に追い詰められて、みんなから必要だと思わなければ出来ない。
「風雲一陣! 舞風! 浮雲!」
真上に飛び、雲の上に陣取る。
こっちとしては、勇気ある正しい攻め方だからこそ潰さなければならない。
奥義を使ってでも……な。
「弓時雨!」
雨の如く降る矢が突撃するプレイヤーたちを襲う。
同時に砦の砲台にも集中砲火を命令する。
前衛として待機しているガーディアンゴーレムもわざわざ前に動かして念入りに攻撃を加える。
別に死体蹴りをして煽っているのではない。
『バックラーから離れたらこうなるぞ』と印象付けて、残ったプレイヤーには鈍足の将と一緒にゆっくり歩いて来てほしいんだ。
こっちにとって一番恐ろしいのは……。
「左右に展開するのだ! 砦を囲んで攻め立てよ!」
バックラーが声を張り上げる。
敵軍が左右へと広がっていく。
「くっ……! 気づいていたか……!」
結局のところ俺は一人。
ぐるりと砦を囲われると手が回らない。
この大きな弱点、てっきり敵は見落としてると思っていたが……。
一体なぜ今になって? ふいに思いついたのか?
いや、違う……!
バックラーは伏兵を警戒していただけだ。
だって、絶対におかしい。
砦の防衛がおじさん一人とゴーレムだけって……!
そんなことはあり得ないと誰もが思う。
きっと、ガラ空きに見せかけた砦に誘い込んで、隠れている戦力が背後から奇襲すると考えたんだ。
奇襲をされても自分の近くに味方が密集していれば守ることができる……。
だからバックラーは安易に広く展開しなかった。
やはり有名プレイヤー、冷静で的確な判断だ。
まさか、自分の名を聞いただけでみんな逃げ出したから砦がガラ空きとは考えないよな。
残念ながら、それが真実なのだが……。
ええい、今さら逃げた仲間のことを考えても仕方ない。
一緒に逃げずに戦うと決めたのは自分の意思だ。
さあ、左右から回り込む敵にどう対処するか。
この砦には正面にしか砲台を設置していない。
やたら増やさず数を絞って1つ1つにコストをかけて性能を上げるためだ。
今でもその判断は間違っていないと思う。
ゴーレムや砲台の数を無駄に増やしても意味がない。
俺が命令するとゴーレムたちは即座に行動に移るけど、AIに任せると微妙にトロくなる。
あらゆるゲームにありがちな痒いところに手が届かないAIなんだ。
攻撃のタイミングが遅かったり、狙う敵を間違えたりと、判断力がちょっと頼りない。
しかし、俺の命令ですべてを動かすのはもう無理だ。
敵はもはや一箇所に集まっておらず、細かな砲撃指示を出さなければ当てられない。
自分自身も弓による射撃を行う以上、頭がパンクしてしまう。
ここは多少頼りなくてもAI制御に頼る。
これでも抑えられるのは正面から突っ込んでくる敵くらいだ。
左右から回り込もうとする集団は砦から十分に離れた位置を移動している。
俺の弓しか届かない……!
ゴーレムたちの一部を前進させるか?
近づけば砲撃が届くかもしれない。
だが、AI制御ではトロいからすぐ懐に潜り込まれて……。
どうするんだ……俺!
「キュージィさん!」
「はっ!?」
急に名前を呼ばれて振り返ると、そこには数十人の仲間たちがいた。
ほぼ狩りの途中に助けた初期職のプレイヤーたちだが、中には俺と同じ第2職も混じっている。
「正直、勝てる気がしないし本当に途中まで逃げてました!」
「イベントをもっと長く楽しみたいし、簡単にキルされるのも嫌だなって……」
「でも、砲撃の音を聞いて、マジで戦ってるんだと思ったら協力した方がいいんじゃないかと」
「なんか、初心者でもやれることありますか?」
なんとありがたい言葉だ。
そんなの、決まってるじゃないか。
「……ああ! ありすぎて困ってたところだ!」
「あっ、でもバックラーさんの相手とかは無理ですよ!?」
「わかってる。彼は俺が倒す」
「えっ!? 勝てるんですか!?」
「ま、まあ、作戦はあるさ。みんなには左右の敵をけん制してほしい。必ずしも倒す必要はない。とにかく砦に近づけないようにしてくれればいい。俺をバックラーとの戦いに集中させてほしいんだ」
「それなら出来そうです!」
仲間たちに左右の敵の対応を任せ、大半のゴーレムと砲台の制御も預ける。
戦況はまだまだ不利だが、希望の光は見えた。
これで俺はバックラーの相手に集中できる。
相手は第3職。
今はたった一つのスキルと歩く姿しか見ていないが、本当の実力はそんなもんじゃないはずだ。
でも、俺の実力もこんなもんじゃない。
割と本気で期待していた【ブラックスモッグ】は不発に終わったけど、まだ切り札は残してある。
俺のために戻って来てくれた仲間のためにも、起こして見せるさジャイアントキリング……!
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