第105話 仲間と家族 2

「うぅ~。俺はそこまでアホなのか? アホにしか見えないのか?」


 連結橋を歩きながら涙目で落ち込むレヴィ。


 そんなレヴィの隣を歩きながらよしよしと慰めるマーシャ。


「そうやって涙目で落ち込んでると確かにアホにしか見えないな」


 訂正。


 あまり慰めてはいないようだ。


 どちらかというと追い打ちをかけている。


「追い打ちすぎるだろっ!」


「いいじゃないか。私はアホなレヴィも好きだぞ」


「うぐ……。そういう言い方はずるい」


「なんだ。レヴィはそんな私が嫌いか?」


「そりゃあ好きに決まってる。もふもふ最高」


「……待て。もふもふが好きなのか、私が好きなのか、そこをはっきりしろ」


「え? そりゃあもちろんマーシャが……いや、もふもふも……うむむむ。やっぱり一心同体だな。うむっ!」


「……殴っていいか?」


「ごめんなさい殴らないで下さい。俺が悪かったです。もちろんマーシャが大好きです」


 ぐっと拳を握って睨まれると全面降伏するしかないレヴィだった。


「トリスのこと、ちゃんと助けられるといいな」


「助けるさ。その為にこんな大掛かりなことをしているんだ。俺たちの手でトリスを助けてやらないと、全部無駄になる」


「そうだな。といっても、下手な手出しはするなよ。トリスはあれで難しい性格だからな。あくまでも私達はサポートだ」


「難しい性格か? 結構素直だったけどな」


「素直だから厄介なんだ。セッテはその手で殺す。仲間の遺体は取り戻す。それを自分自身で成し遂げると誓っているんだ。だからこそ、その邪魔をすれば私達であっても容赦無く攻撃されるぞ」


「……物騒だなぁ」


 しかし気持ちは分かる。


 どうしても譲れないものというのは、誰にでもあるのだ。


 たとえそれが手助けであっても、余計なお世話だとしか言えない状況も存在する。


 だからこそ今回の件は難しいのだ。


「まあ、これだけ大掛かりに戦力を動かしておいて完全に裏方っていうのは業腹だけど、トリスの為なら仕方ないな」


「レヴィならそう言ってくれると思っていた」


「それは信じてくれているってことか?」


「当然。私はいつだってレヴィを信じている」


「……なんか、自覚なく口説かれると普通に照れるよな」


「ん?」


 殺し文句を言ったことを自覚していないマーシャはきょとんとした表情でレヴィを見上げている。


 そのあどけなさが可愛らしいし、愛おしい。


「何でもない」


「ふむぐっ!?」


 いきなり抱き寄せてキスしてきたレヴィに驚くマーシャ。


 しかしそれはすぐに離れる程度のものだった。


「な、何なんだ、いきなり……」


「いや~。なんとなく。マーシャは可愛いな~と思って」


「むむ……」


 ちょっとだけ照れているのだろう。


 こういう甘い時間は嬉しいのだが、そればかりにかまけてもいられない。


 今はトリスのことが最優先なのだ。


「尻尾、揺れてるぞ」


「う、うるさいな。コントロール出来ないんだから仕方ないだろ」


「いやいや。そこが可愛いからいいんだけど」


「殴るぞ」


「何でだよ。褒めてるのに」


「蹴るぞ」


「ごめんなさい」


 暴力には絶対服従のレヴィだった。


「とにかく、下準備はほぼ完了した。後は仕込みの仕上げだけだな」


「うん? 大体は終わっただろう? エミリオン連合の軍艦には無事にバックドアを仕掛けられたし、その過程であっちの作戦概要も分かったし、いつ動くかも把握している。後は状況が動くのを待つだけじゃないのか?」


「いや。後一手仕込んでおく必要がある」


「何を?」


「トリスだ」


「え?」


「トリスにエミリオン連合軍の動きをリークする。それで、あいつもある程度動きやすくなる筈だ」


「……それ、余計なことだって怒られないか?」


「レヴィが相手なら怒るかもな」


「………………」


「でも、私ならある程度は大丈夫だ。トリスは私に甘いからな。面白くはないだろうが、ある程度は受け入れてくれるさ」


「なんか、ちょっとジェラシーが……」


 トリスとマーシャの特別な絆については納得しているつもりだし、家族のようなもので、つまりは兄妹のようなものだと分かっているつもりだったが、改めてそういう態度に出られると少しばかり思うところがある自分に気がついた。


 思った以上に独占欲が強いらしいことに自分で驚く。


「変なところで妬くんだな、レヴィは」


「いや、まあ、なんとなくだけどな……」


 自分を差し置いて他の相手と通じ合っている風なのが面白くないだけなのかもしれない。


 恋愛感情とは違うと分かっていても、少しばかり面白くないと思うのはどうしようもない。


 不可抗力について深く考えても意味が無い。


「ううん。妬いてくれるのはちょっと嬉しい。なんか、想われてる気がするから」


「そうか」


「うん」


 笑顔でそんなことを言われても困ってしまう。


 少しばかり複雑な気持ちの行き場が無くなってしまうので、出来ればもう少し違う対応をして欲しい。


 しかしマーシャ相手にそんなことを期待しても無駄なのだろう。


 良くも悪くも純真な乙女なのだ。


 だからこそ、複雑な機微を理解しろと言われても、難しいだろう。


「レヴィ?」


「ん。何でもない」


「?」


「いいんだ。これは俺の問題だから」


「そういうものか?」


「そういうものだ」


「分かった」


 マーシャはそれ以上は問い詰めなかった。


 ただレヴィの隣にいることを嬉しく思っている。


 そこにもう一人が加わることを望むからこそ、今は戦う。

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