#59 スタンピード(1)

 怪しい男達を捕まえるため、その男達の近くに来た僕は、スカイボードから降り、近くの茂みに隠れて息を潜めている。


 インビジブルがかかっているから姿は見えないだろうが、大きな音を立ててしまうとバレてしまうだろう。



(ノアル? 今、どの辺りにいる?)


(……相手から10mくらいの場所に隠れてる。 ……気配察知系のスキルは持ってないみたいだから、気付かれてはない)


(分かった。 僕もそれくらいの距離にいるから、僕の合図で出てって、まずは逃げられないよう、僕達とプルニーマで囲んでしまって、それから、ここでなにをしているのか聞いてみよう)



 もしかしたら、なにか許可を得て、ここにいるのかもしれないので、まずは少し会話をしてみたい。 その反応を見て、対応をどうするか決めようと思う。


 プルニーマとロングソードをアイテムボックスから出しておき、いつでも飛び出せるよう、体制を低く構える。



(……ん、分かった。 ……いつでもいいよ)


(よし、じゃあ行くよ! 3……2……1……ゴー!)



 合図と同時に、隠れていた茂みから飛び出し、プルニーマを一気に五輪とも投げて、万が一にも逃げられないよう、退路を塞ぐ形で周囲にバラまく。


 この時点で、インビジブルの魔法は解けてしまっている。 この魔法は大きな動きをしてしまうと解けてしまうようで、スカイボードに乗っている時は、僕達自身が動いていた訳では無いため、解けなかったらしい。


 数秒で、男達がいる場所に来た僕達は、なにが来ても大丈夫なように構えながら、男達を囲む。



「な、なんだお前達は!」



 僕達に気づいた研究者風の男が、慌てながらこちらに言葉を投げかけてきた。



「あなた方はここでなにを? 今はスタンピードが起きていてこの辺りは危険ですよ」


「わ、私は研究者だ! 偶然、スタンピードに遭遇したから、観測をしていただけだ!」


「そうですか。 まぁ、理由はどうあれ、僕達と一緒にあの街まで来てくれませんか?」


「な、なぜだ?」


「実はギルドの方で、森で怪しい者を見かけたら、ギルドに連れてくるように言われているんです。 もちろん、手荒な真似はしませんので大丈夫ですよ」


「あ、怪しいだと?」


「スタンピードの近くで、たった2人の護衛を連れて観測するという時点で怪しいです。 服装も服装ですし。 貴方の白衣の後ろに描かれている紋章は確か、スーガルフ帝国のものですよね? 他国の研究者がここにいるというのも不自然ですよ」


「それはそうだが……」


「とにかく、僕達に付いてきてください。 モタモタしていたら、魔物がこちらに来るということも有り得るので」


「……分かった、案内してくれ」


「はい、こちらです。 付いてきてください」



 街に案内するため、僕は街の方を向き、歩き始めた。


 後ろに、男達を引き連れる形で。



「今だ!!」



 研究者の男がそう言うと同時に、黒装束の男の1人が後ろから腰に差していた短剣で斬りかかって来た。


 

 ガキィィィン!



 それを気配察知のスキルで認識していた僕はシールドの魔法でしっかりと受け止める。



「なっ……、貴様! 魔法使いなのか!?」



 研究者の男が驚いたのかそんな声を出してきた。



「そうですよ。 それで、これは一体どういうつもりでしょうか?」


「ぐっ……ええい、やってしまえお前達! たかが2人の冒険者など、捻り潰してしまえ!」



 その言葉を聞くや否や、僕とノアルに向かって、1人ずつ攻撃を仕掛けてきた。


 僕は、周りに飛ばしていたプルニーマを三輪呼び寄せ、僕の相手に向かって放つ。



「ぐっ!」



 男は急に飛んできたプルニーマに対して、慌てて迎撃をする。


 そして、三輪に囲まれて波状的に攻撃を受けているため、その場に釘付けになってしまう。


 よし、動きが止まってしまえば、あとは容易く行動不能に出来るな。



「『スリープ』」



 プルニーマにかかりっきりだった男に目掛けて、横から闇魔法の一つである、スリープをぶつけた。



「ぐっ、これは……」



 スリープをまともに食らった男は、数歩よろめいた後、膝から崩れ落ち、数秒もしないうちに寝息を立て始めた。



「ぐあぁぁっ!」


 ドカンっ!



 僕の方はこれで終わったので、ノアルに加勢しようと、ノアルの方を見ると、丁度ノアルがもう片方の男を蹴り飛ばしていた所だった。



「お、おい! なにをしておるのだ! お前達!!」



 少し離れたところに逃げていた研究者の男が、自らの護衛の有様を見て喚き出した。


 だが、既にその声をかけられた男達は、1人はノアルに蹴り飛ばされて、周りにあった木の一本に背中を強く打ちつけて伸びているし、もう1人はスリープの魔法を受けて、スヤスヤと寝息を立てている。



「『ロックバインド』」


「ぐあっ! な、なんだこれは!?」



 この人に逃げる力があるとも思えないが、変な事をされても困るので、土属性の魔法で土を研究者の男の全身に絡ませて拘束する。



「さて、手を出してきたのはそちらなので、迎撃させてもらいました。 先程のスタンピードを観察していたというのは嘘ですね? 本当の目的はなんですか?」


「し、知らない! 私はなにも知らない!」



 うーん、自分で話してくれるのが一番なんだけど、話してくれそうにないな。


 しょうがない、ひとまず、街の方へ連れて帰ろう。



「『スリープ』」


「あふん……」



 変な声を上げて研究者の男はあっという間に眠ってしまった。 もうちょっと抗えると思うんだけどな……



「……これから、どうするの?」


「ひとまずは、この人達を街に連れて行くよ。 けど、その前に……」



 僕はアイテムボックスからいくつかの鉄鉱石を取り出し、それを使って、倒れている3人の男に、それぞれ手枷と足枷を付けた。


 手と足にぴったりフィットさせる形で作ったし、鍵穴とかも無いため、生半可な事じゃ外せないだろう。


 それに加えて、かなり長めのロープを使って、3人まとめてグルグル巻きにして、ロープの先端をスカイボードに括り付ける。


 ウィンドで浮かせて運ぶつもりだから、そこまで意味はないのだが、まぁ、命綱のようなものである。



「それじゃあ、戻ろうか」


「……ん!」



 ウィンドで縛った3人組を浮かせる。 そして、ノアルがスカイボードを置いておいた場所まで駆け足で移動し、僕達はスカイボードでその場を後にした。


 スタンピードの方は、先ほどよりもかなり進んでいて、先頭が街と森の間くらいまで既に来ていた。 様子を見るに、まだミリアンヌさんは大規模魔法を使っていないみたいだ。 僕達が飛び立って10分も経っていないから、なんとか間に合ったみたいだ。


 少し遠くから外壁の上を見てみると、恐らく、リムさんとミリアンヌさんであろう人影がこちらに向かって手を振っていた。


 あんまりスピード出しすぎると、気絶している3人を包んでいるウィンドの魔法の操作をミスりそうなので、行きの倍くらいの時間をかけて戻ってきた。


 僕達は、リムさん達の近くに降り立ち、ウィンドで浮かせていた3人組も地面に転がしておく。



「ショーマさん! おかえりなさい!」


「早かったわね。 お疲れ様。 それで、そいつらが、リムが見たっていう怪しい奴等?」


「はい、そうです。 大人しく付いて来て欲しいと言ったところ、攻撃してきたので、気絶させて連れてきました」


「攻撃されたんですか…… ごめんなさい、危険な事をさせてしまって……」


「僕もノアルも無傷なので大丈夫ですよ。 それより、この人達どうしますか?」


「そうですね…… とりあえず、このままギルドの方に運ぼうかと。 今は、スタンピードの方が重要ですから、とりあえずは逃げられないように監視をつけておきます」



 そう言ってリムさんは、近くにいた別のギルド職員の人に、事情を話し、ギルドに応援を頼みに行って欲しいと告げていた。


 その言葉を受けた職員さんは了解すると、急いで外壁を降りて、ギルドの方へ走っていった。



「さて、帰ってきたばかりで悪いんだけど、もう一仕事頼んでいいかしら?」


「大規模魔法ですよね? 魔力はまだまだ余裕があるので大丈夫ですよ」


「頼りになるわね。 それじゃあ、魔物の群れも丁度いい所まで来たみたいだし、始めましょうか。 魔法を発動させる場所は……」


「あ、それなら……」



 僕とミリアンヌさんで、どんな魔法をどういう風に発動させるのかを軽く相談した後、ミリアンヌさんは杖を正面に構えて、僕は魔法を発動させる場所に向かって両手を突き出すような形で魔力を高める。


 こんな事なら、僕も杖の一つくらい作っておくべきだったな。


 そんな事を思いながら、発動範囲とどんな魔法を使うのかというイメージを固めていく。


 この世界の魔法は、イメージが大事で、より明確なイメージが有ればそれだけ魔法の威力や質が上がるようだ。



「いつでもいけます!」


「ええ! 私もよ!」



 ほぼ同時に、準備が出来た僕とミリアンヌさんは、一瞬、顔を見合わせ、タイミングを合わせた大規模魔法を発動させる。



「いきます!『トルネードエッジ』!!」


「食らいなさい!『インフェルノ』!!」



 僕が放った風の大規模魔法、トルネードエッジが僕達から見て、スタンピードの魔物群の左側に発動し、右側にはミリアンヌさんが放った火の大規模魔法、インフェルノが発動した。


 その威力は、絶大。


 左側で発生した巨大な竜巻に、大小関係なく、魔物が巻き上げられていく。


 更に、その内部に発生している大量の風の刃によって、全身、細切れにされ、竜巻が通り過ぎた場所には、既に魔物の姿は1匹たりとも確認出来なかった。


 その反対側では、超高熱の巨大な火柱が地面からいくつも上がり、その範囲に存在していた魔物を、こちらも1匹残らず焼き尽くしてしまった。


 魔物の先頭付近で発動した、2つの大規模魔法は更に、使用者である、僕とミリアンヌさんのコントロールで、魔物の群れの中央まで移動する。 そこは丁度、ウロナの森とハゾットの街の中間地点だ。


 そこで重なり合った2つの大規模魔法は融合し、やがて、炎をまとった巨大な竜巻へと姿を変えた。


 先程のトルネードエッジよりも更に大きな竜巻は、今、確認出来る魔物の殆どを巻き込み、その存在を跡形もなく消し去っていった。



「……凄まじいわね」


「ここまでのものになるとは、流石に予想していませんでしたね……」


「魔物達が、あんなに簡単に……」


「……すごい」



 その光景を遠くから見ていた冒険者達は、軒並み絶句している。 それを放った僕達ですら驚いているのだから、無理もないだろう。


 やがて、第一陣の魔物の大群をほとんど飲み込んだ炎の竜巻は、込めていた魔力が尽きたのか、何事もなかったかのようにフワッと空中で霧散した。



「まぁ、なにはともあれ、大分数を減らせたわね。 ここからは下の人達に任せましょう。 もう一発、大規模魔法を放てる魔力は残っているけど、それは最後の手段として取っておいた方がいいと思うし」


「そうですね。 話を聞くに、まだまだ魔物は押し寄せてくるでしょうから、油断はできないですね」



 遠目にだが、魔物の群れのようなものが、森から少しした所で集まっているのが見える。 まだまだ、数は残っているようだ。


「それじゃあ、私はクラウス達に合流するわね。 お互い、頑張りましょう?」


「はい、お気をつけて」


「ショーマ君とノアルちゃんもね」



 そう言って、ミリアンヌさんは風の魔法を使って自らを浮かせると、そのまま外壁からゆっくりと降りて行った。



「僕達も行こうか」


「……ん!」


「あ、ショーマさん! ノアルさん! お気をつけて! 必ず無事に戻ってきてくださいね!」


「ありがとうございます、リムさん! 行ってきます!」



 僕達はスカイボードに乗って、同じように外壁から下まで降りて行った。


 ここからが踏ん張り所だ。 気を引き締めていこう。

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