#26 みけねこの由来

 フォルティと再会して、とんでもない事を聞かされる羽目になったが、その話も一旦まとまって、その後聞きたかった事もいくつか聞くことが出来た。


 聞いた内容としては、僕の職業がかなり規格外だった点や、スキルポイントのシステムの事、なんでスキルに家事 Lv8 が最初から付いていたのかなどだ。


 職業が規格外な点はさっきも言われた事なのだが、簡単に死んじゃったりしないように、強めに設定したらしい。 「過剰じゃない?」と言ったところ、「これでも不安なくらいです!」と言われてしまった。


 スキルポイントシステムは僕が単純に楽しめるようにとか、不便しないようにという事で設けたシステムで、こんなスキル欲しいなとなった時に、簡単に取れるようにしたそうだ。 大分反則な気はするが、助かってる事には間違いないので、これは素直にありがとうと言っておいた。


 それで最後に家事スキルなのだが、これはどうやら僕の前世の経験から来たそうだ。 確かに、家事はやっていたが、レベル8なんて数字が付くほどだろうか? 効率よくやろうと色々と考えたり、父さんに美味しいもの食べて欲しくて料理はかなり頑張ったが、その成果なのだろうか? こっちに来てからまだ料理してないし、暇な時にこっちの食材使って料理してみたいな。


 そんな感じで聞きたい事も大体聞けたし、とても価値のある時間だったな……って、やばい! どのくらいここにいたんだ!?


「フォルティ? ここに来てからどれくらい経った?」

「んー、匠真さんの感覚で言うと1時間くらいですかね?」

「もうそんな経ってたの!? ごめん、そろそろ戻るね!」

「ふふ、慌てなくても大丈夫ですよ匠真さん。 向こうで意識を取り戻した時に、数分しか経っていないようにしますから安心してください」

「ほんと? それは助かるよ、ありがとうフォルティ」

「いえいえ、また来てくださいね? 待ってますから」

「うん、定期的に来るようにするよ。 それじゃあまたね」

「はい! またお話ししましょう!」


 その言葉を最後に、視界が光に包まれていった。





 目を開けると、そこは教会の女神像の前だった。 戻ってきたみたいだな。


 祈りの姿勢を解き、立ち上がって、最後に女神像に向かって頭の中で(また来るよ)と呟いてその場を後にする。


「……終わった?」


 座って待っていたノアルがぴょんっと立ち上がり、こちらに寄ってくる。


「うん、終わったよ。 待たせてごめんね?」

「……そんなに待ってないから大丈夫」


 うん、フォルティが言っていた通り、時間はそこまで経ってないみたいだ。 良かった。


「あの、ショーマさん?」

「マイヤさんも待ってたんですか?」

「あ、はい。 ショーマさんの事がどんな風に祈りを捧げるのか気になったので」

「そうですか、お待たせしてすいませんでした」

「い、いえ、いいんです、私が勝手に見たいと思っただけなので。 それに、ノアルちゃんと話してたのでそこまで退屈じゃ無かったですし」

「……マイヤはいい人」

「ふふ、ありがとうノアルちゃん」


 ノアルって意外と人と仲良くなるの早いよね。 口数は多くないんだけど、なんでだろうか?


「あ、それで、ショーマさんの祈ってる姿見たんですけど、凄かったんです! 元々大きかった力が更に大きくなって、言い表せないくらい凄かったです!」


 とても興奮した様子でマイヤさんが詰め寄ってくる。


「マ、マイヤさん、ちょっと近いです……」

「……マイヤ、近い」

「はっ! す、すいません! あ、あまりに凄かったものですからちょっと興奮してしまって……、ご、ごめんねノアルちゃん。 さっき話してたような事じゃないからね?」

「……分かってる」


 ノアルもそう思ったらしく、マイヤさんの肩を持って僕から引き離す。 さっきの話ってなんだろうか? 僕が関係してる事なのかな?


「ノアル、さっきの話って?」

「……秘密」

「えー、なにさ? 気になるなぁ」

「……秘密は秘密」

「ショーマさん、ダメですよ女の子の秘密を詮索するのは」

「そういうものなんですか……」


 まぁ、誰にでも聞かれたくない秘密の一つや二つくらいあるよね。 ……僕なんていくつ隠し事があるか分かんないし。


「それじゃあ、そろそろ宿に戻ろうか?」

「……ん」

「マイヤさん、それでは僕らはそろそろ行きますね。 ギルドとかで会ったらまたお願いします」

「そういえば、ショーマさん冒険者なんですよね……、あんなに大きな力持ってると教会関係者にしか思えないんですけど……」

「マイヤさんは教会関係者という訳ではないんですか?」

「いえ、私は個人的に女神フォルティ様を信仰してるだけですので、教会関係者という訳ではありません。 勧誘はすごい来るんですけど、今のところ受けるつもりはありませんね」

「そうなんですか」

「ショーマさんも少し気をつけておいた方がいいですよ。 あそこまで大きな神聖力持ってると分かったら必ず教会は勧誘に来ると思います」

「ご忠告感謝します。 僕も当分は冒険者としてやっていくつもりなので、勧誘が来ても断らせてもらいます」

「その方がいいと思います。 それじゃあ私も宿の方に戻りますね。 またお話し聞かせてください」

「お手柔らかにお願いします」

「……ばいばい、マイヤ」


 僕達は、教会前でマイヤさんと別れ、宿への道を歩き出した。





 宿までもう直ぐというところで僕はとあることを思い出した。


「ミルドさん達にどう説明しよう……」


 そう、今朝はノアルは黒猫の姿だったが、今は獣人の姿である。 というか、そもそもこの宿に獣人は泊まっていいのだろうか? ノアルの話を聞くに、ダメな宿もあるのではないか?


「……獣化する?」

「いや、獣化は魔力を使うんでしょ? 早いとこ魔力を回復させたいだろうし、その姿で、もし泊まっちゃダメって言われたら別の宿を探そう」

「……ごめんなさい」

「謝らないで? 僕は平気だから」

「……ん」

「それじゃ、行こうか」


 不安からか、ノアルは僕の服の裾を掴んで、僕の直ぐ後ろを付いてきた。


 宿の扉を開き、中に入る。


「あ、ショーマさん、お帰りなさい」

「ただいま戻りました」


 迎えてくれたのは従業員のソーイさんだ。 もう1人の従業員のトーイさんとは双子の姉妹らしい。


 ちなみに、髪型はロングとショートで見分けが付くが、それ以外は全く見分けがつかない。


「あれ、その子は?」

「あー……、この子は見た通り獣人なんですけど、この宿って獣人は泊まっちゃダメとかありますかね?」

「大丈夫だと思いますよ? あまりないですけど、獣人の方や魔族の方も泊まったことありますし、うちの従業員も獣人がダメとかは無いですし、そういう宿に泊まってる以上、獣人がダメなお客さんもいないと思いますよ」

「そうですか、それを聞いて安心しました」


 良かった、宿を変えたりする必要はないみたいだ。 最悪、森の方で野宿かなーとも思っていたので一安心だ。


「お、ショーマじゃないか。 どうした?」


 話し声を聞きつけたのかミルドさんが受付の奥のスペースからミルドさんが顔を出して来た。


「あ、ミルドさん、えっとですね……」


 僕はソーイさんに聞いた事をもう一度ミルドさんに聞いた。 ソーイさんの言った通り、泊まることに全く問題はないらしい。 加えて、昨日助けた黒猫がノアルだった事や、今朝はこの宿がもし獣人NGだった時のために獣化していた事も告げた。


「なるほど、まぁ、うちの宿は基本的には種族とかで無理とかは無いぞ。 なんでも、この宿を最初に作った人……、俺の曾祖父だったかなんだかが猫の獣人だったらしくてな。 血は薄まってるみたいだからこれと言って体が丈夫とかではないんだが、そのお陰か知らないが他の種族に対する忌避感とかは全くないんだ」

「そうだったんですか」


 だから宿屋の名前もみけねこなのかな? その曾祖父のひとは三毛猫の獣人だったとか?


「それで、そいつも泊まるって事でいいのか?」

「……ん、泊まる。 それと、ありがと」

「ん? なにがだ?」

「……ノアルが倒れている時に様子を見てくれたって聞いた。 だから、ありがと」

「ああ、その事か。 気にしなくていい、元気になったみたいで良かったな」

「……ん」


 ノアルは、ミルドさんにお礼を言うと、僕の後ろから出てきて少し控え目に笑っていた。


「そういえば、ショーマは最初に3日分の宿代払っていたが、これからどうすんだ?」

「そうですね……、ノアル? あとどれくらいで魔力回復しそう?」

「……あと2日くらい」

「じゃあ、あと2日でお願いします」

「そうか、今払うか? 後でもいいぞ?」

「それじゃあ今、お支払いします」


 僕はそう言って、受付でミルドさんにお金を払いに行く。


 だから僕は、後ろで僕の背中を不思議そうに見ているノアルの視線に気が付かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る