#24 報告

「……ショーマ!」


 向こうの戦闘も終わったのか、ノアルが駆け寄ってきた。


 結局、取り巻きの2匹はノアルに任せっきりになってしまった。 申し訳ない。


「ノアルも終わった? 怪我はない?」

「……ん、問題ない。 ショーマは大丈夫?」

「MPをかなり使ったからちょっと気怠いけど、それ以外には問題はないよ。 ノアルは……、怪我は無さそうだけど、ちょっと汚れちゃった?」

「……そう、せっかくショーマにもらった服なのに」


 ノアルは悲しそうに俯く。 尻尾や耳も少し下を向いている。


「ちょっと待っててノアル」

「……?」


 ステータス画面を開き、取得できるスキル一覧を見る。 ちなみに、ステータス画面は僕にしか見えず、ノアルには僕が空中で指を動かしているようにしか見えない。


 探しているのは、この前便利なスキルがないか探していた時に当たりをつけておいた内の一つだ。 お、あったあった、これだね。


「ノアル? ちょっと魔法を使うから驚かないでね?」

「……ん、分かった」


 もちろん攻撃魔法ではなく、一般的には生活魔法と呼ばれる、さっきスキルポイントを使って取得したものだ。


「『ウォッシュ』」


 僕が魔法をノアルに向かって放つと、魔力で作られた泡のようなものがノアルの服や靴、更には体に付いていた体液までを徐々に浮かび上がらせて、数秒したらその汚れは綺麗さっぱり無くなり、洗濯した後のような仕上がりになった。


「『ドライ』」


 ウォッシュを使うと少し湿ってしまうみたいなので続けて対象を適度に乾かす魔法を使う。


「……おー、綺麗になった」

「……便利な魔法だな、これ」


 この魔法があれば洗濯とかの手間いらずじゃないか。 僕にも使っておこう。


「……生活魔法も使えるんだ」

「一応ね、珍しかったりする?」

「……それなりにいる」

「そっか」


 特別な魔法とかじゃなくて良かった。 恐らく今後も重宝することになるだろう。


「それで、ノアルの方はどんな感じだった?」

「……少し違和感があった」

「違和感?」

「……ゴブリンにしては考えて戦ってた気がする」


 ノアルの考えが気になったので、どういった戦闘だったのか、あと本来のゴブリンの動きなどをおしえてもらった。 ついでに僕の戦闘がどういったものだったかも話した。

 そこでは、ウィンドの魔法を使った戦闘方法に驚かれた。 そこまで細かい魔力コントロールが出来るのかという事らしい。

 恐らく僕が魔力をコントロールできるのは魔導師の職業で補正がかかってると思う。 今後慣れればもっと凄いことも出来るかもしれないと思うとちょっとワクワクした。


 話が脱線したが、とにかく僕の話を聞いてノアルは更におかしいと思ったらしく、少し考え込んでいた。


 その間、僕はノアルが倒したソルジャーの大剣を見てみる。



 グレートソード+1(物理攻撃力上昇):力+200 鉄製の大剣。 魔法が一つ付与されている。



 概ねこんな感じだった。 やっぱり、これも魔法付与されてる。 ちなみにさっき倒したメイジの杖も木で出来ていたのだが+1が付いていて、魔法威力上昇が付与されていた。


 こいつらはどこでこんな装備を手に入れたんだろうか? 冒険者から奪ったとかなのかな?


 とりあえず武器やら死骸やらをまとめて回収する。武器は後々作り直したり、死骸は素材として売ればいいかな。


「ノアルー? そろそろ帰ろうー?」

「……ん、今行く」


 色々と考えていたらしいノアルが僕の声に気付き、駆け寄ってくる。 ノアルが考えていた事は帰りながら聞く事にしよう。





 街に戻ってきた僕たちは、解体場にゴブリンの死体を預け、ギルドに報告に来ていた。


 ここへ来るまでにノアルから聞いた、今回の事でおかしいと思った点を依頼達成報告のついでに話しておこうと思っている。


 依頼受付の職員の人に声をかける。


「達成報告良いですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「この依頼を解決して来ました」

「そうですか、ではギルドカードをお出しください」


 ギルドカードには魔物を討伐した事が自動的に記録されるらしく、討伐依頼の時はそれを見せる事で証明とするシステムがある。


 ギルドカードに自動で記録される仕組みはこの前ゲイルさんとチラッと話したのだが、なんでも魔物を倒した時に得られる経験値のようなものは、表現するならば魔力に近いようなエネルギーらしく、それをギルドカードが感知して記録するらしい。


 ゲイルさんも「詳しくは知らん! そういうものだと俺は割り切ってる!」と言っていたので僕も詳しく考える事はしない。 考えても分からないだろうし。


 とにかく出さなくては証明にならないので素直に職員の人に渡す。 もちろんノアルも一緒だ。


「えーっと、ゴブリン5匹の討伐ですね……、って2人で13匹も討伐してるじゃないですか! しかも、ゴブリンメイジとゴブリンソルジャーも討伐したんですか?」

「はい、間違いないです。 普通にゴブリンを探していたら集落を見つけたので、そこにいたゴブリンは全部倒しました」

「すごいですね……、青ランクと白ランクが出来る事じゃないですよ?」

「相方にかなり助けられましたから。 それと、戦っていて不審だった点がいくつかあったので報告しても大丈夫ですか?」

「はい! もちろんです!」

「実はですね……」


 ノアルから聞いたことや、ゴブリン達がかなり上等な装備をしていた事などを話す。 僕だけじゃ説明出来ないことはノアルが口数少なくだけれど報告してくれた。


 それを聞いた職員の人は、報告をまとめた紙を見て口を開く。


「確かに少し不自然ですね……、戦いの中での違和感に関しては判断出来かねますが、ゴブリンが魔法付与された装備を複数所持していたというのは気になります。 この事は上に報告しても大丈夫ですか?」

「もちろん、そのつもりで報告したのでそうしてください」

「ありがとうございます。 この頃、森で異変が相次いでるみたいなので、近い内にギルドでも調査する予定なので、今回提供してもらった情報もギルド内で共有させていただきます」

「そうですか、役立ててくれるとこちらとしても嬉しいです」

「なにはともあれ、お疲れ様でした。 報酬は上乗せさせてもらって金貨3枚となります。 ソルジャーとメイジも倒したということですので、ランクも上がると思いますよ」

「え、そんなすぐ上がるんですか?」

「実績は十分ですし、素行も良いので上がると思いますよ? 強い力を持つ人にはなるべく難しい依頼を解決していただきたいので、ショーマさん達はすぐに上がれるんじゃないですかね」


 もうランクが上がるのか。 昨日青ランクになったばかりなのに、こんなトントン拍子でいいのだろうか? まぁ、クラウスさん達にもランクを早く上げた方がいいと言われたし、上がる分には喜ぶべきかな。


 金貨3枚をもらい、ギルドを後にする。


 その後すぐ、解体場に向かってゴブリンの素材代をもらいに行く。


 普通のゴブリンの素材はそこまでの値段にならず、体内にある魔石が売れるくらいらしい。


 魔石とは魔物の心臓のような部位で、魔力を蓄えたり放出したりする事ができ、魔道具の核などに使われたりする事が多いそうだ。


 魔石をもらうか迷ったが、一応、価値が高いソルジャーとメイジの魔石はもらっておく事にした。 使えるかもしれないものは取っておいた方がいいだろう。 自分で試してみて駄目だったらまた売りに来ればいいしね。


 その他の素材代は全部で金貨1枚になった。

 

 解体場を出ると、外は夕方になっていた。 このまま帰るのが普通かもしれないが、今日は少し寄りたい場所がある。


「ノアル?」

「……ん?」

「僕これから行きたいところあるんだけど、先に宿に戻っておく? 僕が帰るまでは僕の部屋にいて構わないけど」

「……ショーマについて行く」

「分かった、じゃあ行こうか」

「……どこに行くの?」


 今から行くのは僕にとって、とても重要な場所だ。 今も、少しドキドキしている。


 その事を悟られないよう気をつけながら、ノアルに行き先を告げる。


「教会だよ」



 

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