#21 ノアルの武器
「うーん、どの依頼受けようか?」
「……いっぱいある」
パーティーを組んだ僕達は、依頼を受けるため、クエストボードと言われている依頼掲示板の前に来ている。
「討伐依頼も結構あるけど、最初は採取依頼とかにしておいた方がいいかな?」
「……ノアルはどっちでもいい。 ……でも、討伐の方が報酬いい」
「そうなんだよねー」
やはり、危険が伴うからか、討伐依頼の方が採取依頼よりかなり報酬がいい。
最初は採取依頼にしようと1人の時は思っていたが、ノアルを故郷の村に送り届けるっていう僕の中での目標があるから、その為にも少しお金が欲しい。 何日かに分けて行くことになるだろうから、その為の準備にお金がいる。
「うん、じゃあ討伐依頼の中で1番報酬が低いこれにしようか」
「……了解」
僕が選んだのはゴブリン5匹の討伐という依頼だ。 沢山ある青ランクの討伐依頼の中で1番報酬が低く、銀貨8枚で危険度もそこまでではないらしい。 とは言っても、1番高い採取依頼の1.5倍くらいの報酬ではあるのだが。
それと、5匹というのは最低ラインで、討伐出来るのならそれ以上討伐してきてもいいそうだ。 報酬はそれによって上乗せされていくらしい。
依頼を受付まで持って行き、受理してもらう。 そこで依頼を受ける上での注意点をいくつか聞いた。
「依頼に失敗すると違約金が発生するので気をつけてください。 ただ、無理はしないで下さい。 違約金と言っても金貨1枚くらいなので、無理だと思ったらすぐに逃げる事を強くオススメします」
「分かりました」
「はい、それでは、受理しましたので、気をつけて行ってきてください」
職員さんに見送られ、ギルドを後にする。
「……ショーマ」
「ん? どうしたの?」
「……武器屋に行きたい」
「そういえば、ノアルの戦い方とか僕なにも知らないや」
依頼を受ける前に確認し合うべきだったな。 うっかりしていた。
「……ノアルの戦闘職は獣戦士 Lv6 、職業スキルは双剣術と格闘術、あと身体強化の魔法も使える」
Lv6か、高いな。 僕がノアルと近接だけで戦ったら絶対勝てないだろうな。
「って事は双剣が欲しいの?」
「……ん、短剣術も持ってるけど、双剣の方がいい」
ノアルは首を縦に振る。
「そっか、それなら僕に任せてくれない?」
「……? ……なにするの?」
「僕の職業の一つに武器を作れるものがあるんだ。 僕の剣も自分で作ったからノアルもどう? あ、もちろんいらないなら武器屋で……」
「いる、ショーマが作った剣がいい」
いつもとは違って即答して僕に詰め寄り、顔を近づけてくる。
「わ、分かったよ。 そんな詰め寄らなくても作るから」
「……ん」
いつも通りな返事に戻ってノアルは僕から離れる。 ただ、僕から離れたノアルは猫耳がピコピコしていて、尻尾も上を向いて少しゆらゆらしていた。 喜んでくれているってことでいいのかな?
「それじゃあ、森の方に行こうか。 そこでノアルの武器作りながら、僕の職業とかの話をしよう」
「……ここじゃダメなの?」
「うーん、あんまり公にしたくないんだよね。 それに、僕の力について話すのは、僕が信用出来ると思った人だけだから、それ以外の人には話したくないんだよね」
「……ノアルは信用出来る?」
「うん、出来るよ。 それに、一緒に戦うんだから話しておかないとね」
「……嬉しい、頑張る」
お、ノアルが張り切ってる。 僕も頑張らないとだな。
*
「よし、それじゃあ僕の職業について、使いながら説明していくね」
「……ん」
そう言ってまずは、この前譲ってもらった酸化鉄の樽を取り出す。
「これを使ってノアルの武器を作っていくよ」
「……錆びてる?」
「そうだね、このままじゃ使えないから、僕の職業の一つ、鍛冶師のスキルを使って、この錆びた鉄から武器作りに使える部分だけを取り出すんだ」
「……おー」
少し分かってなさそうな顔でノアルが答える。
「口で説明するより、見てもらった方が早いだろうから、やってみるね」
「……ん」
そう言って僕は、酸化鉄の樽をひっくり返して、地面に鉱石と砕けて細かい石や砂のようなものになった酸化鉄の山を作る。 そして、その山に向かって分離スキルを使い、武器作りに使える部分だけを取り出す事をイメージする。
すると、一瞬で鉱物の山から、それなりに大きいインゴットが一つ分離し、残った山はさっきよりも赤茶色の色になっていた。
「うん、出来るかわからなかったけど、出来たね」
「……これ、鋼?」
「そうだね、酸化鉄から分離させた鋼のインゴットだよ。 これが僕の分離スキルで反対の合成も使えるんだ」
「……すごい」
ノアルは目を丸くして感心しているみたいだ。 ちなみに失敗したら僕のロングソードを2本の短剣にして、それぞれ1本ずつ使おうと思っていたが、成功してよかった。
「ありがとう。 それじゃあこれを使って、ノアルの武器作っていくけど、双剣のサイズってどれくらいがいい?」
「……ロングソードの半分より少し長いくらい?」
「分かった、それくらいで作るね」
さっき作ったインゴットを半分ずつ使って双剣を作る。 丁度双剣が作れるくらいの量になって良かったな。
鉱物操作を使い、インゴットの形を変えていく。
「……なに、それ?」
「これも鍛冶師のスキル、鉱物操作だよ。 鉱物の形を僕のイメージ通りに変えられるスキルだね」
そういえば、このスキルも他の人は持っていないから、鉱物がグニャグニャ形を変えていくのは物珍しいものになるのか。 ノアルもすごい見てるし。
何はともあれ、双剣が作れた。 2つのインゴットに同時にスキルを発動させたが、問題なく作れた。 双剣だからなのか、なんでもいいのかは分からないけど、僕が手を使って魔力を流さないといけないから、どっちにしろ同時に作るのは2本が限界だろう。 そして、完成品を鑑定してみる。
ツインソード+2:力+120 鋼を使って作られた双剣。 作成者の力量により、魔法を2つ付与することが出来る。 品質もかなり良いため、一般的なツインソードより力のパラメーターの上昇率が高い。 作成者はショーマ=ケンモチ。
あ、今回は+2だ。 ノアルのために作ったものだから出来れば+3が良かったんだけど、今回はしょうがないか。 また今度、別の素材で作ったりするだろうし、その時には+3以上が付くといいな。
そして、双剣を作った流れで魔法付与もしてしまうことにした。 ノアルにその事を伝えると、また「……すごい」と言ってくれた。 褒められるとやっぱり嬉しいよね。
付与するのは、僕のロングソードと同じ斬撃強化と耐久値上昇だ。 +3だったら、速度上昇とか付けたかったんだけど、また今度にしよう。
「はい、これがノアルの武器だよ。 持ってちょっと振ってみたりしてみてくれない?」
「……ん、分かった」
ノアルは僕と少し距離を開けて、素振りをする。 その動きはとても速く、その動きだけで戦闘能力の高さを垣間見ることが出来た。
ひとしきり素振りをして、ノアルは動きを止め、こちらに寄ってくる。
「……とても使いやすい。 本当にもらっていいの?」
「もちろん、ノアルのために作ったものだし、それで自分の身を守ってもらえるなら僕も作り手として嬉しいからさ」
「……ありがと。 大切に使う」
ノアルは笑顔で僕の方を見つめ、そう言ってくれた。 あんまり感情の起伏が激しい方じゃないけれど、こんな表情も出来るんだな。
その笑顔に少しドキッとしてしまったのは秘密である。
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