記憶の欠片

瑞希 涼

第1話、プロローグ

雲ひとつない秋空

日毎にマフラーをした人達が目につくようになってきた


「寒くなってきた」


私の日課はいつものあの少女を見ることだった。

黒髪で黒縁メガネをかけた内気そうなその娘は

いつものベンチに座り一人で文庫本を読んでいる。

今時珍しいセーラー服

だから興味がわいたのだ。

今日もいた


私は字が読めない

そして話しかけることもできない

ただ見てるだけ

その少女の佇まいから郷愁の念を抱いたのだ。

こんな時代もあったのだと。

私も確か昔はこの世に生きていた

呼吸をし,足で大地を踏んで走っていた記憶。

今は意識だけがある

私のことを人間は地球と呼んでいる


あの時もそうだった

私が記憶しているこの場所

今のように人工的な建物はなく辺り一面は黄色花が生い茂り

強い風で穂先が一斉に揺れていた季節

潮風もあり近くに海があった

秋頃かと思う

あの時も内気そうな少女が膝を抱えてひとり泣いていた。

私はその写し取られた一場面を記憶しているに過ぎない

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