精霊魔法訓練所にて

「うわあ、近くで見ると大きいんですね」

 建物の前にある広い庭で止まった一同は、厩舎の担当者にラプトルを預けて見張りのシルフ達がラプトルの背に座るのを見て笑って手を振ってから、揃って大きな双子の塔を見上げる。

「今から俺達が行くのは精霊魔法訓練所がある右側の塔だよ。ちなみに左側は精霊特殊学院。あそこは通常の学校も兼ねているから未成年の子供が中心である程度の年齢で学年が分けられてる。こっちの精霊魔法訓練所は主に成人した一般人や軍人、貴族も通ってる。ここでは一人もしくは数人程度の個別授業が中心で、身分に関係なく一緒に学ぶぞ」

 カウリの説明にティミーは真剣な顔で頷く。

「僕は未成年ですけど、こっちでいいんですか?」

「ティミーが、単に伯爵家の子息として精霊魔法に目覚めていたら、途中編入って形で向こうに通ってただろうな。だけど通える期間がある程度限られている事や、授業内容もかなり濃いものになるだろうからって事で、こっちで個人授業になったんだよ。まあそのあたりもケレス学院長が考えてくれてるよ。心配するなって」

 自分もそうだったカウリの言葉に、ティミーも少し笑顔になって小さく深呼吸をする。

「さてと、それじゃあここでレイルズとはお別れだな。お前はまた自習室だろう?」

「はい、それじゃあまた後でねティミー」

「はい、レイルズ様も頑張ってお勉強してくださいね!」

 笑顔のティミーに手を振って、レイは自分の鞄を抱えて自習室へ向かった。



 いつもの自習室を借りて鞄を置いたらそのまま図書館へ向かう。

「おはよう。早かったんだな」

 何冊かの本を持って移動階段を降りようとすると、声を掛けられて足を止める。

「おはよう、自習室借りてあるからね」

「おう、じゃあ先に鞄を置いてくるよ」

 鞄を持ったまま図書館に顔を出したマークとキムだったが、レイが一人でいるのに気付いて声をかけてきたのだ。

 すぐに戻ってきた二人と一緒に何冊もの本を取り合いっこしながら選ぶ。集まった何冊もの参考書や光の精霊魔法に関する本をせっせと自習室に運んだ。



「おはよう、私たちが最後みたいね」

 本の整理を始めたところで、ノックの音がしてクラウディアとニーカとジャスミンの三人が揃って笑顔で手を振って部屋に入って来た。

「おはよう。今日は僕が一番だったよ」

「おはようレイルズ、ねえ、ティミー様は一緒じゃないの?」

 部屋を見回したジャスミンの質問に、本を置いたレイはジャスミンを振り返った。

「カウリとティミーそれからロベリオユージンも一緒に来たんだ。先にケレス学院長とお話しして、それから改めてティミーの適性検査をするんだって聞いてるよ」

 そこまで言って、レイはふと思いついてキムを振り返った。

「ねえ、竜の主の適性検査ってその竜よりも上位の竜の主にしか分からないんだよね。確かティミーの竜のターコイズって、成竜だけどブルーによるとそろそろ老竜だって言ってもいいんだって言いたよ。あれ? じゃあ若竜の主のロベリオとユージンじゃあ駄目だよね。カウリの竜は成竜だけど、ターコイズよりは年下だからこれも駄目だよね? 誰が適正を判断するのかな?」

『後で我が行って確認してやる事にしたよ』

『ルビーの主は忙しそうだったからな』

 笑ったブルーの言葉にレイは納得したように頷く。

「そっか、ブルーには分かるもんね。もしも僕にやれって言われたらどうしようかって思っちゃったよ。ああ、でも適性検査ってどんな事をするのかちょっと見たかったな」

 無邪気に笑うレイの言葉にキムとマークは苦笑いして顔を見合わせ、ジャスミンは逆に驚いて目を見開いた。

「ねえ待って、じゃあレイルズは適性検査を受けていないの? そんな事ってある?」

 驚きのあまり叫ぶような大声になったジャスミンの言葉に、レイは困ったように頷く。

「えっとね、精霊魔法を使えない人が竜の主になった場合、基本的にその竜が使える精霊魔法がその主の使える精霊魔法なんだって。ただし、本人に適性が全くなかったりすると、最低限の下位の精霊魔法しか使えなかったりするんだって」

 以前キムから聞いた事を思い出しながら一生懸命説明する。

「だから、古竜の主であるレイルズはラピス様が扱える精霊魔法を引き継いでるわけ、な、分かったろう。最強の古竜の主の適性を判断出来るやつなんてこの世界の何処にもいないって。まあ強いて言えばラピス様にはレイルズの適性は分かっておられると思うぞ」

 後を引き継いだキムの説明に、あまりその辺りの詳しい話を知らなかったジャスミンは感心するように何度も頷いた。

「へえ、そうなのね。ありがとう。勉強になったわ」

『ちなみにレイルズは四大精霊と光の精霊の全てに高い適性を持っておるぞ。そうでなければ我の精霊魔法は引き継げまい』

 得意気なブルーの言葉に、何か思いついたらしいレイが目を輝かせる。

「ねえブルー、それならもしかしてあの青い稲妻って僕にも出来るの?」



 降誕祭の事件の際、訓練所の建物の分厚い壁をいとも容易く吹き飛ばしたあの青い稲妻を思い出して、キムとマークが二人揃って無言になる。



『無茶を言うでない。あれは古竜である我だけが使える最強の技だよ。残念だが、人の子である其方に扱える技ではないな』

「ええ、そうなんだ。残念」

「おいおい無茶言うなって。あんなとんでもない技、どこで誰に向かって放つ気だよ。下手すりゃ相手は跡形もなく消し飛んじまうぞ」

 真顔のキムの叫びに、マークも隣で何度も頷いている。

「確かにそうだね。じゃあ、あの青い稲妻はブルーに任せる事にします」

 笑ったレイの言葉にマークとキムだけでなく、ジャスミンとニーカまでが真顔で揃って大きなため息を吐くのだった。



「ああ、大変、すっかり話し込んじゃったわ。午後からの予習をしないといけないのに。ごめんね、ちょっと参考書を探してくるわ」

 慌てたようにジャスミンがそう言って、鞄を置いて本を取りに出ていく。

「ああ待ってジャスミン。私達も行くわ」

 今の話を半ば呆然と聞いていたクラウディアも我に返って慌てたようにそう言って、鞄を置いてジャスミンの後を追った。

「待って待って。私も行くわ。置いて行かないでよ」

 笑ったニーカが手を振って駆け出して行くのをレイ達三人は苦笑いしながら見送り、それぞれの席について本を開いた。



 同じくそれを見送ったブルーのシルフも、小さく笑ってくるりと回って消える。

 ここはニコスのシルフ達に任せて。ブルーはティミーの様子を見に行ったのだった。

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