明日の予定とマーク達の事

「それじゃあまたね」

「レイルズも、お仕事頑張ってね」

「それじゃあね。もし会えたらマークやキムにもよろしく」

 授業が終わって廊下に出たところで、ちょうど帰る三人と会えたので、笑顔で手を振り合う。

「うん、気をつけて帰ってね。お疲れ様」

 仲良く帰る三人を見送ってから、レイも急いで厩舎へ向かった。

「お待たせ!」

 待っていてくれた護衛のキルート達と一緒に本部へ戻る。



「おかえり。おやつがあるから荷物を置いて手を洗ったら休憩室へおいでね」

「早く来ないと、俺達が全部食っちまうぞ」

 タドラの言葉に、すぐ前にいたロベリオが振り返ってにんまりと笑ってそんな事を言う。

「昨日のケーキだね。食べちゃったら駄目です! すぐに行くから僕の分は置いておいてください!」

 慌てたように叫ぶレイを見て若竜三人組が笑う。

 大急ぎで部屋に戻ったレイは、手を洗って身支度を整えると大急ぎで休憩室へ向かった。

「おお、本当にすぐ来たな。じゃあ座って」

 ヴィゴとカウリがソファーに座って書類を前に顔を寄せて何やら話をしている。

 必要な事なら呼んでくれるので、自分には関係ない事だと思っていつもの椅子に座る。

「おやつの時間に間に合ったな」

 書類の束を持ったルークが入って来て、笑ってそう言いながらいつもの椅子に座る。

「ああ、レイルズ。明日の予定なんだけど、午後の一点鐘で竜舎に見学が来るから一緒に回ってやってくれるか」

 書類を置いたルークに言われて、カナエ草のお茶に蜂蜜を入れていたレイは不思議そうに振り返った。

「えっと、もうすぐ面会なのにわざわざ見学に来られるんですか?」

「ヒストリア子爵、覚えてるか?」

「えっとティミーの後見人になってくださった方ですよね。もの凄くお若く見える」

 最後の言葉に、レイ以外の全員が同時に吹き出す。

「まあ、子爵の容姿に関してはご婦人方の間ではほぼ伝説扱いだからなあ。あれで父上と同い年だって言われても、絶対信じられないよな」

 ルークの言葉にものすごい勢いで頷くレイを見て、また皆が笑う。

「本人は、決して何もしてないって言うんだけどなあ」

「僕もそう聞きました」

「まあ、それは置いといて。それで、その子爵の遠縁の今年成人の子が、今回竜との面会のためにオルダムに来ているんだ。子爵は父親代理の付き添い役でね」

「あれ、その方のお父上はどうなさったんですか?」

「うん、子爵と同じで戦傷者。つまり戦でのお怪我が元でお体が不自由になられた方なんだよ。遠出は出来ないから代わりに来られたんだ。それで、ティミーがその竜の面会について行くってその人と内緒で約束していたらしいんだけど、実際には面会の際には付き添い人達は控え室で待機だろう。実際に竜に会えるわけじゃない。それを後で知ったティミーが、すっかり拗ねてしまったらしくてね。それをライナー達から聞いたアルジェント卿が、急遽竜舎の見学にティミーを連れて行ってくれる事になったらしい。それを聞いてからティミーはもう大喜びですっかり機嫌もなおったらしいよ」

 苦笑いするルークの説明に、レイも笑って頷いた。

「そっか、じゃあ竜舎の見学ってアルジェント卿とティミーが来るんですね」

「来るのはアルジェント卿とティミーだけじゃないぞ。お孫さんのマシューとフィリス。それからパスカルもだ。それと、ゲルハルト公爵の御子息のライナーとハーネインだよ。どうだ、大変な役目だぞ、竜舎であいつらをしっかり確保してくれよな」

「えっと、他には誰が来てくれるの?」

「第四部隊のフィレット伍長と、第二竜舎のティルク伍長が案内役でついてくれるよ」

「ええ、そのお二人と僕だけ……?」

「後はアルジェント卿だな」

「そんなの絶対無理ですって。竜舎中を好き勝手に走り回るあの子達の姿が見えます!」

「残念ながら、明日は俺達全員予定が詰まってるんだよなあ。だから悪いんだけど子供達の相手は頼むよ」

 全然悪いと思って無さそうな口調のルークの言葉に、声無き悲鳴を上げて机に突っ伏すレイを見て若竜三人組は揃って大笑いしていたのだった。



「本当に大丈夫かなあ」

 ロディナのお土産のケーキを食べながら、レイは明日のことを考えて小さなため息を吐いた。

 外でならいくらでも走らせてやれるが、いくら竜舎が広いとは言っても柵には木の棘だってあるし、場所によっては立ち入り禁止の大きな金属製の柵が立ててある箇所もあるし、掃除に使うピッチフォークがあちこちの決められた箇所に置かれているが、どれも先端は鋭利で決しておもちゃではない。

「まあ、本当に駄目だと思ったらアルジェント卿が叱ってくださるだろうから、お前は勝手に横道に逸れて何処かへ勝手に出て行かないように見てくれれば良いって」

「だからそれが至難の業なんですって。あの子達のはしゃぎっぷりは知ってるでしょう? しかもそれが六人!」

「まあ、頑張れ」

 笑ったルークに背中を叩かれて、情けない悲鳴をあげるレイだった。




「あ、そうだ。ねえルーク。ちょっと聞いても良いですか?」

 何とか落ち着き、二個目のケーキを平らげたレイは、不意に思い出してルークを振り返った。

「おう、どうした?」

 カナエ草のお茶を飲んでいたルークが驚いて振り返る。

「えっと、マークとキムが朝練に来てなかったし、訓練所もお休みだったんです。なんでも急にお仕事が入って久しぶりの現場なんだって。もしかして、陛下が仰ってた……あれですか?」

「ああそっか。あの二人も面会期間中は講習会はお休みだって言ってたもんな。それで警備に駆り出されたのか。ご苦労さん」

 ルークの言葉に納得する。

「そっか、やっぱり陛下が仰っていた警備兵の増員の為だったんだね」

「まあ、第四部隊の実働部隊は人数に限りがあるからなあ。面会期間中は下手したらずっと休みが無い奴が出るかもな」

「ええ、お休みはちゃんと取らないと駄目だよ」

 口を尖らせるレイに、ルークは困ったように笑って首を振った。

「それは平時での話。今回は緊急事態とまではいかないけれども、警戒すべきって命令が出たわけだから、休みの予定の奴らもおそらくだけど全員駆り出されてると思うぞ」

「うう、何だか申し訳ないです」

 自分達の報告のせいで、それでなくても忙しい面会期間中の仕事が更に増えたのだ。

 しかし、ルークはそんなレイを見て、ため息を吐いて頭を突いた。

「レイルズ、それは違うよ。それが彼らの仕事なんだから、ここは頑張ってもらわないとな。終われば交代でお休みが貰えるって。皆が、それぞれが自分に与えられた役割をきちんと果たすからこそ組織が回るんだよ。今回の件だってそうさ。もしも俺達が勝手に判断して今回の件を報告しなかった事で、後日何か問題が起きたらどうするつもりだよ。それこそ、皆に迷惑かけまくりだぞ」

「そっか……そうだね。ちゃんと報告したから、皆が事前に対処してくれたんだものね」

「そうだよ。気付いた問題の報告は、決して躊躇も遠慮もするなよ。それをどうするかを判断するのは、それこそマイリーや殿下、陛下の仕事なんだからさ」

 最後は真顔のルークの言葉に、レイも真剣に頷くのだった。

 それを黙って見ていた若竜三人組とヴィゴとカウリは、顔を見合わせて安心したように笑い合っていたのだった。

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