トケラとの再会

「なあ、俺もちょっと触ってみてもいいかな」

 集まって来たトリケラトプス達と楽しそうに戯れるレイを見ていて、我慢出来なくなったカウリが目を輝かせながら話しかけてきた。

「いいと思うよ。それじゃあこの子を撫でてみる?」

 丁度その時に撫でていた、トケラよりもかなり小柄なトリケラトプスを指差す。

「おう。じゃあ触るぞ」

 恐る恐ると言った感じに、ゆっくりと差し出された手が額の大きな角に触れる。

 撫でられているトリケラトプスは、レイが首元を押さえている事もあり大人しくじっとしている。

「へえ、可愛いもんだな。触らせてくれてありがとうな」

 優しくトリケラトプスに話しかけたカウリと目が合い、レイも笑顔になる。

 すると、少し小柄な子達が数匹集まって来て、二人を取り囲むようにして甘え始めた。その様子はさっきの子達と同じく、まるで次に撫でるのは自分だと言わんばかりの自己主張っぷりだった。




「こらこら、押すなって。お前のその角は鋭いんだから危ないぞ」

 苦笑いしたカウリが、頭を下げて擦り寄ってくるトリケラトプスの上側の角を押さえるようにしてそう言って少し下がった。

「あれ、もしかしてカウリはトリケラトプスが怖い?」

 トリケラトプスの象徴でもある額の巨大な三本角は、とても太くて硬い。

 そして、安全の為に少し先端部分を削ってあるとはいえ円錐状に先が細くなっている角は、トリケラトプスがその気になって突っ込んでくれば人間の身体くらい簡単に貫くだろう。

「正直言って、繋がれていないトリケラトプスはちょっと怖かったんだけどさ。なんだかここまで思い切り甘えられたらだんだん可愛く思えてきたよ」

 カウリにとって、トリケラトプスは荷馬車を引いてくれる大事な戦力だが、ペパーミントのように可愛がる対象かと聞かれると、それとは明らかに違う。

 近くで見た騎竜の力強さを改めて思い知り、内心では実は少し怖がっていたのだが、あまりの甘えっぷりに怖がるのが馬鹿馬鹿しくなってきたカウリだった。



 その後も、次から次へと集まってくるトリケラトプス達を、レイは大喜びで撫でたりその角にキスをしたりして終始ご機嫌だった。

 次第に慣れてきたカウリも、時々手を伸ばして小さめのトリケラトプスを撫でてやり、楽しそうにしていた。




 その時、少し離れた所にいたトリケラトプスが、いきなり咆哮を上げてこっちへ向かって走って来た。そこそこの大きさのあるトリケラトプスが走ると、軽い地響きが起こる。

 地響きと鳴き声に驚いて振り返ったカウリとレイに向かって走ってきたそのトリケラトプスは、二人が逃げる間も無く頭を低くして突っ込んで来る。



「危ない!」



 咄嗟にレイは、隣にいたカウリを突き飛ばした。

 吹っ飛ぶカウリと、慌てたように声を上げて駆け寄るシヴァ将軍とルークとヴィゴ。

 ヴィゴは、抜いてはいないが腰の剣に手をかけている。

 カウリを突き飛ばしたレイは逃げ損なってしまい、何とか少しでも逃げようとしたが果たせず、その場でまともにトリケラトプスに突っ込まれる形になってしまった。

 あちこちから、それを見た兵士や職員達の悲鳴が上がる。

 しかも咄嗟にレイが身を守るために光の盾を出そうとした瞬間、何故かニコスのシルフ達に止められてしまい光の盾を出し損なってしまったのだ。



 ぽすん。



 そうとしか言いようの無い軽い衝撃の後、目を開いたレイは空が目に入って驚きに目を見開いた。頭を下げて突っ込んできたトリケラトプスの角に軽く持ち上げられて宙を舞ったレイの身体は、その大きな額の上に見事に乗っかる形になって止まっていたのだ。

 半ば呆然と体を起こす。

 どこにも怪我もないし、痛くもない。

 レイを額に乗せたままその場に立ち止まったトリケラトプスは、嬉しそうに静かに喉を鳴らしている。



 この突っ込まれ方と、その後の角で掬い上げて自分の額に乗っけるやり方には覚えがある。

 どう考えても同じ結論に達するのだが、それならばどうしてロディナにいるのかが分からない。

 突然の事に戸惑いつつも、レイは自分を乗せたトリケラトプスを覗き込んだ。

 目を細めて甘えるように喉を鳴らすその子を見て、レイは無言になる。

 それから考えるように空を見上げて唸った後にまたトリケラトプスを見る。そして今度はシヴァ将軍を振り返った。それからもう一度、自分を乗せたまま大人しく喉を鳴らしているトリケラトプスを無言で見た。



 突き飛ばされたカウリを助け起こし、どうなる事かとハラハラしながら見守っていたヴィゴ達は、黙ったままトリケラトプスの額から動こうとしないレイを見て、揃って不思議そうに首を傾げている。

 そんな彼らには見向きもせずトリケラトプスを二度見どころか三度見したレイは、ずっと無言のままだ。

「おいおい、大丈夫か。怪我は?」

 心配そうにルークがそう言ったが、近寄っては来ない。

 もしも不用意に刺激していきなり突進して来られては、この距離では逃げようがないからだ。

 ルークの横ではカウリとヴィゴも身構えつつも心配そうにしている。



「……もしかして、トケラ?」



 思いっきり不審そうにレイがそう呟くと、レイを額に乗せたトリケラトプスは、嬉しそうに目を細めて、まるでそうだと言わんばかりにもの凄い音で喉を鳴らし始めた。



「ええ! やっぱりトケラなの?」

 叫んだレイの言葉にルーク達三人が目を見開くのと、シヴァ将軍が吹き出すのは同時だった。

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