精霊王の采配

「一体、クームスで何が判明したって言うんだ?」

 ヴィゴの不思議そうな質問ににんまりと笑ったマイリーはヴィゴを見て、それからアルス皇子を見た。

「要するに、彼女に代わるくらいの優秀な人材を見つけて送り込んでやればいいのですよ。そうすれば彼女の価値が下がって神殿側も頷く口実になるでしょうからね」

「確かにそれはそうだろうけど……じゃあ逆に聞くが、具体的には何をするつもりなんだ?」

 不思議そうなアルス皇子の質問に、マイリーはもう一度自信ありげににんまりと笑った。

「実は先日、クームスにある俺の実家が援助している孤児院の子供で、四大精霊魔法全てと光の精霊魔法に高い適性のある子が見つかったらしいのです。しかもその子は女の子で十二歳との事だがなかなかに優秀な子らしく、勿論連絡をしてしっかり保護するように頼んであります。実際にどのような子かはまだ不明ですが、最終的には俺の紹介で神殿に巫女として入ってもらおうと思っています。どうですか?」

「四大精霊魔法全てと光の精霊魔法に高い適性だって。それは素晴らしい」

「孤児院という事は、その子は孤児なのか」

 ヴィゴの質問にマイリーが頷く。

「元々母親を早くに亡くして父親との二人暮らしだったらしい、鉱山で働いていたその父親を不慮の事故で亡くし、身寄りが無く途方に暮れていたところをうちの組合で保護したんだ。ところが俺の父上が援助している孤児院へ入る際に、精霊達が何故だか大騒ぎしていると組合のドワーフの職員が言い出したらしくてな。それで急遽適性試験を受けさせてみた結果、高い適性が判明したそうだ」

 マイリーの説明に二人も納得して頷く。

「一つ、代案が出来たな。まあ本人がどうしても神殿入りを嫌がるようなら無理強いはするなよ」

 心配そうなヴィゴの言葉に、マイリーも苦笑いしつつ頷く。

「亡くなられたご両親は、共に精霊王の敬虔な信者だったそうだからそこは大丈夫だと思うけどな。まあ最終的にどうするかは本人に会ってみてからだな」

 マイリーの言葉に二人も真剣な顔で頷いていた。その際には彼らも一緒にか、あるいは密かにその人物を見ることになるだろうとも思われからだ。

「確かにこれは精霊王の采配だと思いたくなるな。今まさにこの時に、全く他とのしがらみを持たない、光の精霊を含む精霊魔法全てに高い適性がある別の人物が現れるなど、しかもその子が神殿よりも先にマイリーの身内に保護されるなんてな」

 アルス皇子の呟きに二人だけでなく、周りで聞いていたブルーのシルフやそれぞれの竜の使いのシルフ達も大きく頷くのだった。

『その子供、我が見て、適性や為人ひととなりを判断してやろう。今はまだクームスにいるのだな?』

『その際には我も見てやろう。上手く育てれば良き精霊使いとなろうからな』

 ブルーのシルフだけでなく、アルス皇子の竜であるルビーの使いのシルフまでが揃ってそう言う。

「それは是非ともお願いします。今はまだ彼女も父親を亡くしたばかりで不安でしょうから、少し時間をおいて、落ち着いてからオルダムへ来させるつもりです。護衛には信頼出来る者達を置いていますから、彼女の安全についてはご心配無く」

 マイリーの言葉に、シルフ達も満足気に頷いた。

 そしてブルーは、密かに己の目となる使いのシルフをクームスに寄越す準備を即座に整えていたのだった。




「まあ、そっちに関しては本人の意思を確認してからでないと何とも言えない部分が多いが、とりあえずよしなにと精霊王にお願いしておきましょう」

「あ、精霊王に丸投げしたな」

 呆れたようなヴィゴの言葉にマイリーとアルス皇子が笑い、それぞれに頷き合って隣の部屋へ向かったのだった。





 その頃隣の控え室では、若竜三人組とルークにカウリまで加わって、レイに先程のティア妃殿下の行動の裏に隠された本当の意味を詳しく話して聞かせていた。

 それはまさに、巫女達の控え室でヴィルマがクラウディアに話して聞かせていたのとほぼ大差ない内容だった。

「な、どれだけ妃殿下がお前と彼女の将来に心を砕いてくださっているか、これで解っただろう?」

 聞いている間に、どんどん真っ赤になっていき、話が終わる頃には耳や首、それどころか指の先まで真っ赤になっていたレイだった。

「うう、どんな顔して彼女の前に出ればいいんだよ……」

「まあ、多分彼女はそんな事理解してないだろうけどさ。間違いなく今夜の一件は、すぐに神殿側の上層部の知るところとなるだろうからさ。そのうち何か動きがあるんじゃないか?」

 ロベリオの言葉に、ルークが頷きつつも何か考え込んでいる。

「何か心配か?」

 ユージンの言葉に、ルークは大きなため息を吐いた。

「こうなると、彼女が貴重な光の精霊魔法の使い手だってのが最大の問題だよなあ。有能すぎて問題になるってのもなんだか悔しいけど実際そうなんだよなあ。ううん、これはどこから攻めるべきだ?」

 不思議そうに目を瞬くレイに、顔を上げたルークはもう一度ため息を吐いてから肩を竦めた。

「まあ、それはおいおい考えるさ。お前は気にしなくていいよ」

 そこでアルス皇子達が部屋に入って来た事に気付き、ルークが振り返る。

 マイリーの目配せにルークとカウリは一瞬何かを言いかけたが、ヴィゴが黙って首を振るのを見て何も言わずに口を噤んだ。

 そんな一瞬のやりとりなど全く気付かなかったレイは、竪琴を横に置いてソファーから立ち上がった。

 同じく立ち上がったカウリが背中側を見て剣帯の歪みを整えてやる。そのまま部屋の剣立てに置いてあったそれぞれの剣を装着してから、それぞれの楽器を手にして頷き合った。

「待たせたね。では行くとしようか。オリーやオルベラートのお客方の前での最後の演奏だ。皆、しっかり務めてくれたまえ」

 アルス皇子の言葉に、全員揃って大きく頷いた後に腰の剣を軽く抜いて戻し、それぞれにミスリルの聖なる火花を散らした。



 部屋に勝手に集まっていたシルフ達は、ミスリルの火花に喜んで手を叩いたり輪になって踊ったりした後、楽器やそれぞれの頬や額に次々とキスを贈った。

 レイもブルーのシルフに頬にキスを贈られて、嬉しそうに笑ってそっとキスを返したのだった。

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