演奏会
竜騎士達が揃って舞台へ上がると、会場からは大きな拍手が起こった。
舞台に上がったレイは、驚きにもう少しで声をあげるところだった。広い会場正面に作られた小さな舞台は、先ほどとは全く違う驚きの変化を遂げていたのだ。
舞台の左右にはハーモニーの輪やエントの会の人達をはじめ、大勢の合唱の倶楽部の人達が整列していた。
そして、竜騎士達がいる舞台の前側部分も即席の広い舞台になっていて、こちらは楽器を持った人達が綺麗に並んで座ったり立ったりしてこれも綺麗に並んでいた。
レイのいる側の端の方には、グランドハープと呼ばれるペダルのついた大きな竪琴が並んでいて、そこにはボレアス少佐をはじめとした竪琴の会の面々が並んで座っているのも見えて嬉しくなった。
今夜の夜会に参加した倶楽部の人達も、最後の合同演奏に参加するのだ。
もちろんレイはこれほど大勢の人と一緒に演奏した事は無い。これだけの人数で一緒に歌い演奏するのならどれほど見事な合唱と演奏になるのか、期待に胸を膨らませて背筋を伸ばし、竪琴を抱えて指示された椅子に座った。
『いよいよだな。しっかりやりなさい』
ブルーのシルフが現れてレイの持つ竪琴の先端部分に座る。ニコスのシルフ達は座ったレイの太腿の上と竪琴の下側部分の横に並んで座る。
これはいつも演奏が始まる時の彼女達の位置だ。
レイの目の前には、美しく青きリオルと、偉大なる翼にの二曲の楽譜が置かれている。前回同様、この二曲は始めから終わりまで省略する事なく演奏される。その為、譜面が用意されているのだ。小柄な執事が進み出て楽譜の横に座ってくれる。
「よろしくお願いします」
小さな声で、座っている執事にそう言うと、一瞬驚いたように目を瞬いた後笑顔で一礼してくれた。
拍手と騒めきが起こり顔を上げると、マティルダ様とティア妃殿下を始めとした皇族方が合唱団の一番前に進み出て並ぶのが見えた。
そして、驚いた事に陛下もヴィオラを手に舞台に出てこられたのだ。
そのまま進んで、アルス皇子の座るハープシコードのすぐ横に用意されていた椅子に座った。特に立派な椅子という訳ではなく、レイ達も使っているのと同じ簡素な椅子だ。
一瞬で会場が静まり返る。
次に進み出てきたのは宮廷楽師を束ねる指揮者で、彼の指揮で演奏が行われるのだ。
深々と会場に一礼した指揮者は、舞台中央で会場に背を向けて立った。
全員が一斉に楽器を構えて彼の手を見ている。
最初の曲は、女神オフィーリアに捧げる聖歌。これは竜騎士隊は演奏のみで合唱団の人達が歌を担当する。
弾き慣れた曲だったが、これだけの大人数で演奏すると音の厚みが驚くほどに深くなり、まるで別の曲を聴いているようだった。
高い女性の声が主に歌うこの曲はティア妃殿下の歌声を聞かせる意味もあり、一部には彼女の独唱の部分もあって美しい歌声を響かせていた。
無事に演奏が終わると、会場は大きな拍手に包まれた。
軽く一礼してそのまま次の曲に移る。
二曲目は美しく青きリオル。
これも見事な混声合唱で始まり、初めて演奏した時よりもはるかに大人数での歌声と音の広がりに、レイはもう夢中になって聞き惚れそうになるのを我慢して自分の担当部分を必死になって弾き続けていた。
「我ら、今こそ歌うなり」
「美しくも青き大河リオルに捧げられし祈りの数々を」
「我ら、今こそ歌うなり」
「
「我ら、今こそ歌うなり」
「永久に続きし人々の営みを」
「大河リオルよ見守りたまえ」
「大河リオルよ見守りたまえ」
最後の部分は、竜騎士隊の中でも歌えるものは演奏しながら一緒に歌う。
レイも顔を上げ、目を輝かせて演奏しながら歌った。
最後のヴィゴと宮廷楽士の人が演奏するコントラバスの低い音が響いて、ゆっくりと音が消える。
また、大きな拍手が沸き起こる。
そして最後が、偉大なる翼に。
皇族の女性方も参加された合唱は、それは見事で男女が分かれて歌う部分では、ヴィオラの演奏をやめた陛下も歌に参加され朗々たる見事な歌声を披露していた。
レイはもう、目の前で繰り広げられる素晴らしい演奏と歌声に、またしても聞き惚れそうになるのを必死で我慢していた。
間違わないようにニコスのシルフ達が時折教えてくれる指示に従いながら、夢中になって演奏して歌にも参加した。
「そは憧れ、麗しのオルダムを守りし竜よ」
「いざ共に行かん」
「その翼が示す先の世界へ」
後半部分にある竪琴が主になる演奏部分ではレイと竪琴の会の倶楽部の人達、そして宮廷楽師の演奏になる。
これだけ多くの竪琴で演奏するのも初めてだったレイは、グランドハープの見事な音の広がりに驚く事になるのだった。
最後の演奏が終わると、会場はもうこれ以上無いくらいの大きな拍手に包まれたのだった。
立ち上がって深々と一礼する。そして、もう一度起った大きな拍手の後にアンコールが始まる。
まず、宮廷楽団の楽師の人達が立ち上がり演奏を始めた。
曲は、夕焼けの空。
夕暮れの街とねぐらに帰る鳥達を表すと言われるその曲はとても優しくゆっくりとしたメロディで構成されている。
拍手の後、次に陛下とアルス皇子が演奏を始めた。
曲は前回もアンコールで演奏した曲で、転がるようなハープシコードの音に、これも指先で弾くように演奏する陛下のヴィオラの音が重なった。
これは夜空に光る星を表現した曲だと聞いて、レイも一生懸命覚えた曲だ。
次々とアンコールの演奏は続き、マイリーとヴィゴ、それからロベリオとユージンの演奏の時には、エントの会とハーモニーの輪の人たちの歌声も披露された。カウリとタドラの演奏が終わればいよいよ次はレイの番だ。
演奏する曲は決めてある。
人前で演奏するのは初めてだが、きっと大丈夫だろう。だって、ここにはマティルダ様がいてくださるのだから。
カウリとタドラの演奏が終わり、拍手が切れるのを待って竪琴を抱え直したレイはゆっくりと演奏を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます