第2話 不死身のゾンビ騎士団(予定)


「零史……来たか。」

「レグルスお疲れ様、本当に疲れてるみたいだけど……眠れてる?」

「いや、家に帰れないんでな。騎士団の仮眠室を使ってはいるんだが……。」


そうなのだ、この騎士団のある市役所の回りは……レグルスを一目見ようと、連日連夜、記者やヤジウマでごった返している。

入り口前に花やプレゼントで祭壇まで出来る始末だ。

この団長室も、子供たちからの『守ってくれてありがとお』と書かれたお礼の手紙が山積みになっている。

いまそれを1つ1つシャウラがレグルスの隣で読み上げていたようだ。


「レグルスさん、ちゃんと聞いていますか?見てください、この手紙なんて似顔絵付きですよ!だっ『大好きです』ですって!何て大胆な!!いや……私も、レグルスさんのことっ……嫌いじゃないですけど。むしろ……すっ……すぅー……。」

「シャウラ。」

「はっ、そんな!!まだ早いですってーー!!!!」


レグルスはまだ何も言っていないのだが、シャウラは突然立ち上がり訳のわからない事を叫びながら走り去ってしまった。

彼女の走り去った風圧でお礼の手紙が紙吹雪のように舞っている。

それを。いままで空気のように仕事を淡々とこなしていたリゲルが、慣れた手つきで拾う。


「あらあらあらぁ~?団長(ダンチョ)も変なのに好かれたぁわね♡」


ベラがくすくすと笑いながら言った言葉に、レグルスは沈黙で返した。そして俺を見て……。


「お前も大変だな。」

「いやーん、まいっちんぐ。」


二人とも真顔である。

手紙を集め終わったリゲルがトントンとその束を整えていた。


「そろそろシリウスから定期連絡が来るのではないですか?」

「お、そうだな。」


レグルスと俺は気を取り直し、とりあえず座る事にした。ベラとルナはいつのまにかソファに着席している。

これから、シリウスと通信機を使って定期報告を受けるのだ。

それが、ここに来た理由である。


シリウスはいま、ナザット国に行っている。

覚えているだろうか?ドラゴンの狂暴化で一番の被害が出た隣国である。

そこへ救援物資と、少ないがある程度の人員を騎士団名義で派遣しているのだ。

俺の提案による、災害ボランティアみたいなものかな。

有志の騎士や調査官が200人、そのチームのリーダーが、調査官として経験豊かなシリウスである。


【リーン♪】


団長の机に置いてある黒電話の形の通信機から音が聞こえた。

そういえばシリウスの通信機だが、レグルスにあげてしまった。

というのも救世主の証みたいになってしまったからなのだ。

なので、シリウスに新しく通信機を作ると共にそれぞれの通信機に改良を加えてみた。

消費魔力は少し増えるが、オープンチャンネルだけでなく、一対一の通話が出来るようになったのだ。

というわけで、シリウスの希望により炎を型どった指輪の通信機をプレゼントしたのである。

ちょっとゴツめの、上出来なデザインだと自画自賛した。


【居るか?】

「お疲れ様、シリウス。居るよー!」

【零史、こっちの支援は思ったよりも進んでいる。明日か明後日には俺たちは引き上げようと思うんだが。】

「凄いじゃないか!思ったより被害が少なかったのかな。」


支援と行っても、この世界の技術で出来ることは少ない。

食料と瓦礫の撤去、行方不明者の捜索ぐらいが限界だろう。


【キャタピラのお陰で瓦礫の道も進めるからな。しかし、被害は甚大だ。町まるごと無くなっている所もあったよ。】

「普段のドラゴンに、知恵があって良かったよ。」


レグルスがナザットの亡くなった町にラーヴァを重ねたのか、拳を震わせている。


【ジヴォート帝国の援助団が来てくれている。瓦礫の撤去や生活支援の手際も慣れたものだし、機能しなくなったナザット国の政府機関も立て直してしまった。】

「南の、砂漠の国が?」

【ああ、王家が率先して災害や戦争で被害を受けた地域の支援をしているそうだ。】

「そんな凄い国もあるんだね……ジヴォート帝国か、行ってみたいなぁ。」

【オレも行ってみたくなったよ。それで……。】

「なぁんか、見つけちゃった?」


言い淀むシリウスに、ベラが軽薄なほど明るい声で問いかける。


【亡くなった町があった場所に行ってきた。遺体を埋葬していて……見間違いかもしれないが……刃物で斬られたような遺体を見つけた。】

「カマイタチとかではなくて?」

【カマイタチの傷だと横に広くなるだろう?その傷はナイフで突いたように薄く深かったんだ。】

「……ドラゴン襲撃後に誰かが、生存者を殺した?介錯でしょうか?」

【さぁ、分からない。】


もう助かる見込みの無い苦しんでいる生存者を、介錯する。リゲルの意見もあり得るだろう。だが……だったら遺体をそのままにしておくのか?

レグルスが組んでいた腕を解いて、黒電話に向き直った。


「とりあえずそっちが一段落したら、後はジヴォート帝国に任せて戻ってこい。」

【持ってきた物資ももう無くなる、明日にはナザットを出発するよ。】

「気を付けて帰ってきてね、ありがとうシリウス。」

【リーン♪】


こうして短い定期通話は終わった。

良いニュースもあったが、悪いニュースもあった。


「やっぱりドラゴンの狂暴化は、人為的に起きたって事ですよね。聖信教が?」

「だが、ラーヴァが落ちていれば皇都も危なかったんだぞ?」

「狂暴化できるんだからぁ、止める方法も持ってるんじゃなぁい?」

「……確かに、解毒剤を持たずに毒は使いませんからね。」


みんなの困ったようなうなり声が重なる。

こんなに少ない情報量じゃ、答えは出ないだろう。


「はぁ、俺が悩んだ所でわっかんないよ~。」

「そう言えば、皇都から召喚状が届いてるんだ。『救世主に勲章を授与する』んだと。」

「団長と私たち騎士団からも数人で向かいますので、その間……ラーヴァを宜しくお願いします。」


レグルスが引き出しから、箔押しされた豪華な封筒をピラピラと揺らしながら見せてくる。

リゲルは呆れた目をレグルスに向けた後に、俺たちを見た。


「うん、分かった。聖信教も何だかキナ臭いし、悪魔の子の件もある。気を付けて。」

「初めて行く訳でもねーし、せいぜい情報掴んで帰ってくるさ。」

「聖騎士はぜーんいん悪魔の子だから、気を付けてぇね♡弱い子は食べられちゃうわよ。」


元々皇都の聖騎士だったベラが、にっこりと笑って脅しをかける。

レグルスの余裕そうにしていた顔がひきつる。

そこへリゲルが釘をさした。


「ドラゴンを倒したのもあくまで零史ですからね、団長も他の騎士に混ざってベラトリックスさんに特訓してもらったらいかがですか?」

「えっ、ベラ騎士団で特訓してるの?」

「みーんな、打たれ強い子になったわぁよ♡んふふ。」


ベラは俺の問いに、妖艶なウインクを返した。

俺は、ラーヴァの騎士たちがドMになってしまわないか心配です。もう手遅れかもしれません。

レグルスが焦りながら話題を変える。


「……そういえば!RENSAにエルナト商会の娘が入ったって?ここからも店が見えるぞ。」

「ララ・ツィーだよ、あと、医者でルディも居る。医学的な分野は絶対騎士団の役に立つから、是非協力してくれないか?」

「不治の病を治したって聞いたぞ、もちろんいくらでも協力するさ。」

「あ、じゃあ♡もっとボコボコにしても良いのねぇ~!」

「「「……。」」」


後に、ラーヴァ騎士団は、倒しても倒しても立ち上がる『不死身の騎士団』と恐れられたとか。


(死なないでレグルス!)

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