螺鈿廻送

いつか私が死んだときは

どうか灰の一つも遺さないで

いつか私が生まれ変わったら

どうか誰も探さないで


いつか私が歩きだしたら

どうか路傍の草で私を囚えて

いつか私が恋をしたら

どうか一夜で捨て置いて


いつか私がまた死んだら

どうかそのまま眠らせて


いつか、いつか、いつか

その日はいつになれば来るのだろう

夢想が跳躍する日々は何も

音も形も無いままに

不意に心臓を握り潰した


明日私が死んだなら

どうか誰も悲しまないで

明後日私が生まれ変わるなら

どうか誰も喜ばないで


産まれくる絶望を

生きていく責務を

生きながらえる罰を

死なせてくれない技術を

死んではならない法を

去った後の空白を

その全てを私は憎んでいたい


愛することは唯一つ

全てが終わるその刹那

蝶の呼吸より細く

蝉時雨の残響より長く

たった一瞬をいつまでも抱きしめたい


いつか、いつか、いつか

その日は明日こそ来るだろうか

夢想が跳躍したら着地点を見失い

光も影も射さない場所で

不意に頭蓋を打ち鳴らして


もしも私が本当に死んだら

次はどんな視界を得るだろう

もしもそこが天国なら

いよいよ四肢を千切りたくなる

もしもそこが暗闇なら

やっと私は深く眠れる


もしもそこが昨日だったら

どうだろう?

どうしよう?

少しだけ、面白いかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る