第2話 再会
「そんな顔していたら誰だってわかります!」
「姫様……。貴女様ほど、わかりやすい方はいらっしゃいません」
「本当ですよ! ちょっと目を離した隙にどこかに行っちゃったりとか、本当にやめてください!! 叱られちゃいますし、何より心配するのは私たちなんですからね?!」
「無鉄砲が過ぎます。もう少し、ご自重ご自愛くださいませ」
二人に叱られたわ……。
……しかも、二人の言っていることは正論。
だって。
どうやら私、少し前に死んだみたいなの。
それかもしくは私と同じ【私】が体験したモノなのかもしれないわ。
……詳しくは、わからないのだけれど。
そんな感じじゃないのかしら?
「あ! お嬢様、お嬢様!!」
明るく元気なマリアの声。
私はその声に返事を返すと、彼女はにこりと微笑みました。
「もうすぐ終わるみたいです」
『どうして分かるの? マリア』
「え? 見えませんか?」
きょとんとして言うマリア。
そんな彼女が見ていた方を見てみます。
太陽が沈み、暗くなっては居ますか……相も変わらず混沌としていて、凶悪な集団が戦場を蹂躙していました…………。
『…………何が、かしら……?』
「え? ほら、向こうに降伏の書状を持った使者が来ていますよ?」
そう言ったマリアが指を挿しました。
だからそちらの方を見てみました、が。
かろうじて月明かりで目視できる闇の中。
やはり凶悪な集団しかいません。
…………どういうことかしら?
『何も、見えないわよ……?』
「え? ほら、あそこですよ? あれです、アレ」
『……いつもの皆しか、居ないわよ?』
「えぇ?! そんなことないですって! ほら、アレ。アレですって! ほら、あの黒い馬に乗ってる黒い髪に青い瞳の鎧の男ですよ?」
『えぇっと……。そんな人、どこにもいないわ』
「? いますよ?」
『え……?』
「………………姫様。ご安心くださいませ。見えなくて、当然なのですから……」
安心するような笑みで微笑んだメイサ。
彼女は『姫様は常人なのですから』と付け足した。
……嗚呼。
そうだったわ……。
彼女たちって、普通の人間。
つまり【常人】じゃなかったわね……。
嫌ね。
私ッたら。
ついうっかり、忘れていたわ…………。
いいえ。
忘れていたかったの……。
だって……。
だって、正面に広がる混沌と混乱を。
それを引き起こしている凶悪な集団を……。
いつもとっても優しい皆だって、否応なしに認めなくては……いけなくなるでしょ…………?
………………………。
………………そうだわ!
そうよ。
みんな、今日は疲れているのね!
暗殺者だとか、賊だとか、裏の人間だとかじゃなくて、ただ単に少しだけテンションが上がっているだけなのよ。
疲れが取れたらいつもの皆に戻ってくれるわ!
そうよ、そうなの。
……って。
これはさすがに苦し過ぎるかしら…………?
でも、こうでもしておかなくては、私の頭が現状を受け入れてくれそうもないの……。
だからそう言うことにしておきます。
さて。
敵も降伏してくれるそうですから、ミリーの様子を――――
そう思って槍に問うと、槍は信じられないものを私に見せました。
「っ……?!」
あまりにもショックで、涙が頬を伝い。
思わず槍から手を離して口元を覆ってしまい、私の手を離れた槍はカランと音を立て。
それを見たマリアとメイサが不思議そうに問うてきたけれど、私はそれどころではなかった。
私に動揺を与え、さらに感情を支配したモノ。
それはとても。
とても、激しい怒り。
でもそれは私の中で急激に冷え。
固く。
固く固まって、視界がまだらに染まり。
黒とも赤とも、緑とも言えない色に塗りつぶされた。
私はそれからを、覚えていない……。
* * *
――――ゴゴゴゴゴオオォォォ
地響きのような音と共に、大地が揺れた。
これに、俺らがわざと道を開けて通している使者の馬が激しく嘶く。
「私は、あなた方の降伏を受け入れない」
酷く鋭く冷たい声音。
それは本来であれば聞こえぬはずの声で、普段と違う声音だった。
って。
アレ?!
ちょ、ちょっと待てっ!!
慌てて確認すると、間違いない。
ひ、姫さんっ?!
なんで?!
なんでここに居んの?!
つかあんたソレ本体じゃねッ?!
え?
俺の見間違い?
嗚呼。
それ無ぇわ……。
だって長と執事が飛んできやがった……。
「姫さん!!」
「お嬢様!!」
二人の顔には『何故ここに』って書いてあるみてぇだ……。
まぁ、思うよな……。
てかさ。
マリアとメイサ、アイツら何してんだ?
姫さんをこんなに前にだして――――
「お嬢様ぁぁぁあああ!」
「姫様!!」
ドドドドッと砂煙を上げてかけてくるのは……間違いないねぇな……。
マリアとメイサだ。
…………つーぅかさぁ……姫さん。
あんた、『後方に居ろ』って執事に言われてたろ?
あれ?
俺の勘違い?
まぁ、それは置いといて。
疾走してる馬の前に立ちふさがるとか、馬鹿なの?
馬鹿なんでやんしょ?
てか。
疾走してなかったとしても、棹立ちになった馬の前に立つなんて馬鹿?!
ねぇ。
馬鹿なの?
バカナンデスカ?
つか、長と執事が怖ぇえええ!!
ちょ、ちょっと勘弁してくれよっ!!!!
「マリア(どういうことだ)……?」
超低音を吐いた執事。
おまけに副音声付き……。。
「ひっ……! ご、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」
「メイサ(なにをしていた)……?」
「っ……もうしわけ、ございませっ…………!」
マリアとメイサが顔を真っ青にして、目をそらした。
そうだよな。
俺でもそうなるわぁ……。
なんて思ってたら、執事が無言で『早くソレ連れて下がれ』と二人に圧力を掛けた。
もちろん、一層二人の顔色は悪くなったさ……。
顔色しか変わってねぇのがすげぇな……。
俺なんて頬が引きつって、手が震えてんだが…………。
……まぁ。
俺の顔色は二人以上に真っ青だろうよ……。
なんて内心で自虐していると執事と長。
おっかない代表にダブルで睨みつけられて、盛大に圧力を掛けられた。
…………理不尽すぎる……。
「あ~えっと。姫さん? ここは危ねぇから、下がりやしょーや」
いつも通りに声をかけたら……すっと喉元に槍の切っ先を向けられた。
…………あっれ~?
おっかしいな……殺気しか感じねぇんだけど…………?
「……お黙りなさい」
「あ、はい。すんません……!」
ひ、姫さんなのに怖ぇえええ!!
え?
ねぇ、何があったんすか?
え?
え?!
「そう。それでいいのよ……」
黙った俺に対してか、満足げに微笑んだ姫さん。
俺はその様と、いつもの姫さんらしくない態度が嫌に引っかかった。
なぜって?
そりゃ、姫さんは基本。
俺達に生粋の貴族みてぇな態度とらねぇからなぁ……。
まぁ。
俺よりべったりなおっかないの達は初めから気づいてたみたいだけどな……。
つーか、どうすんの?
これ。
俺、ちょっとでも動けは姫さんに殺られるんだけど……。
なんて思ったら姫さんが槍を引いてくれなさった。
良かった。
マジで殺られるかと思った……。
ねぇ、誰か。
誰でも良いからこの状況を説明してくれやせんかねぇ……?
俺、頭の回転遅っせぇから、ついてけてねぇんだわ……。
ははは……。
「私は国が降伏を受け入れようとも、私の家族に傷を負わせたことを許さない。さぁ、消されたくなくば国へお戻りなさい。そして伝えなさい。『自分自身の行いを悔め』と……」
凛とした冷たい声音と冷たい表情。
そして、それはそれは冷酷に微笑んだ……。
えぇっと。
見た目姫さんな貴女様はどちらさまでしょーか……?
なんて現実から目をそらしてたら殺気だった姫さんが槍を構えて振り下ろした。
そしてその風圧か何かで竜巻が……。
…………って、あれ?
姫さんって、強力な魔道具って使えなかったんじゃ……。
なんて思っておっかないのに目を向けたら、おっかないのも驚愕を示していたんだ。
不気味過ぎるな。
なんて率直な感想が頭に沸いた。
そんな時。
姫さん(?)がスッと人形の姿に変わって、黒ともどす黒い紫とも言えないようなバチバチ言ってんのの中に入ってったんだ。
これを見たおっかないのが顔色を変えたさ。
でもって二人そろって消えて失せたんだ。
それにすこーし安心してたら、攻めてきた隣国? の、方から火の手が上がったようで、もうもうと煙が上がっていた。
なんだそれ……。
てことで確認に行った。
いやだなぁ。
遊び物がなくなったとか、そんなんじゃないぞ?
ただ。
ストレス発散するのにちょうど良かったのがなくなったんだ。
……てなわけで敵国な訳でなんだけどさ…………うん。
本体で一騎当千する姫さんって、なに?
ねぇ。
なんで一人で王城に攻め入ってんの?
てか、あなた。
魔力使ってねぇですよね……?
なのにバッサバッサ。
鉄の鎧だろうが大理石の壁だろうがなんだろうがを、スッパスッパやってるのっていったい…………?
……ねぇ、姫さん。
貴女がサクサクバキバキやってるソレ、クッキーじゃねぇですよ?
…………頼んますから、後生ですから。
……返り血浴びて、一層笑みを深めんでください…………。
怖いんで……。
ほら、見てくだせぇよ。
おっかないのの表情を。
青ざめてますぜ…………。
……俺。
たった今、分かったわ。
一番おっかねぇの、姫さんだわ…………。
…………まぁ、しばらくしたらいつもの姫さんに戻ってくれなさった。
良かったってもんだ。
――――――――
―――――
こうしてリスティナ・ファスティは国を手に入れた。
彼女が意識を取り戻した時。
戦は終わっていた。
そしてその後。
彼女は手に入れた国を公国と改め祖国の属国で、同盟国。
つまりは付属品とした。
リスティナ・ファスティは公国を納める大公となり。
愛する家族。
守るべき大切な者たちと共に余生を楽しんだ。
彼女の死後。
公国は彼女の愛する祖国と同じ名を授かり、ともに栄えた。
彼女が愛した国の名は【マグディリア王国】。
―――――――――――
―――――――
【リスティナ・ファスティ】またの名を【マグディリアの英雄】。
その名は歴史に深く刻まれ。
マグディリアの民の心に生き続けている……。
【Happy end】
********
「…………うん、コレじゃないな……」
木箱を手に、その有様を見ていたバルフォンは一人そう呟き。
時間を巻き戻し、少々世界に干渉して歪めた。
********
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