④ノルマ達成率と対抗心
「あっはは、そりゃ災難だったねえ」
闇に包まれた洞窟の中、隣を歩くフォーティアが笑う。
元の世界では暗視装置が必要な暗さだが、〈レギュレートヴィジョン〉により視覚の調整を行えば問題なく彼女の朗らかな笑顔を見ることができる。
場所は
「なあ、アレス。王女様の前でオルタネイトの振りしてくんない?」
フォーティアとは反対側を行く漆黒の全身鎧に言葉をかける。
「無茶を言うな。その情報を掴んでいる人間だ。俺のことも知っていて不思議じゃない」
呆れたように言うのは友人のアレス・スタバーン・カレッジ。
可逆的な変身が可能かつオルタネイトに似た装甲を纏える特殊な
二週間前の六・二七広域襲撃事件以降、彼は王立魔法学院を退学し、
「諦めて自分で対処するんだな」
さすがに男女関係(?)のいざこざまでは助けてくれないようだ。
「はあ。まあ、そうだよな……」
溜息をついて肩を落とす。と、フォーティアがニヤニヤしながら肩に手を回してきた。
「いいじゃないか。可愛い女の子、しかも、お姫様に好意を持たれてるんだ。嬉しくない訳じゃないだろ?」
「いや、俺自身はよく思われてないみたいなんですがねえ」
「いいスパイスになるじゃないか」
「人ごとだと思って適当言うなよ……」
睨みながら文句を言うとフォーティアはくつくつと笑った。
「しっかし、婿かあ。ユウヤにはアイリスがいる訳だし、妾で我慢して貰うしかないねえ」
「妾って……」
「ん? ああ。そう言えば異世界人の中には一夫多妻に拒否感を持つ人がいるって聞いたことがあるね。ユウヤもその口かい?」
「あー……いや――」
忌憚なく言わせて貰えば、雄也は一夫多妻、と言うかハーレムもの(と言い換えていいのかは分からないが)に特に忌避感はなかった。
昔は余り好ましく思わなかったものだが。
オタクとして色々な作品を見ている内に、徐々に考えが変わってしまったのだ。
メインヒロインよりもサブヒロインを好きになったり。そのサブヒロインがメインヒロインの引き立て役として死んだり、普通にフェードアウトしていったり。
酷い時には、脇役と余り者同士くっつけてしまえという感じで恋人同士になっていたりして軽いNTR気分を味わったり。
別に、その女性キャラが極々一時の当て馬や非恋愛要員ならいいのだ。ただ、ラブコメ要素が強い話で明確にサブヒロインとしてレギュラー化した上、メインヒロインよりも魅力的だったりすると始末に負えない。脱落するのが悲しくて仕方がない。
そうして何度もそんな作品を目の当たりにした結果、もうハーレムでもいいや、と考えるようになってしまった訳だ。
勿論、無理矢理ハーレムにしろとは思わないが。
とにもかくにも、そんなこんなでハーレムものに耐性がつき、付随的に一夫多妻にも許容的になってしまっているのだった。
「まあ、
結論はそこだ。ローマにいる時はローマ人がするようにしろ、とも言うし。
元の世界でも、かつては日本でも認められていた訳だし、現在進行形で認められている国もある。それを考えると、まだ比較的容認し易い類のものではないだろうか。
ネットでは少子化対策に一夫多妻制なんて話も割と聞くし。
「ま、当人の気持ち次第かな。旦那がよくても奥さんが嫌ってこともあるだろうし」
それと全員を養えるだけの甲斐性も必要だろう。もっとも、前提としてそれだけの経済力があるからこそ「複数の相手を」という考えに至るのかもしれないが。
「……つまり、アイリス次第か。将を射んと欲すればまず馬を射よ、だね。成程成程」
腕を組み、無駄に神妙な感じでうんうんと頷くフォーティア。
(面倒だから突っ込まないぞ)
とりあえず彼女の独り言は無視しておく。そうしていると――。
「二人共、そろそろだ。切り替えろ」
一人真面目に周囲を警戒していたアレスが、流れを切って注意を促してきた。
「ん、了解」「はいはい」
そう軽く答えながら、フォーティア共々少しだけ表情を引き締める。
眼前には巨大な広間の入口。その中央には、人間の三倍以上はありそうな巨大な骸骨が待ち構えている。白骨ではなく黒光りしている辺りが酷く禍々しい。
闇属性Sクラスの魔物ラルウァファラクス。
その戦闘パターンは、相手に幻覚を見せて動きが鈍ったところを骨だけの外見からは想像もできない力で叩き潰す、というものだ。それ故、Aクラス以下の
「ほんじゃ、ユウヤ頑張れ」
三人共特に気負いなく広間に入ったところで、薙刀を肩に担ぎながらフォーティアが余裕綽々という感じに告げる。
既に敵はこちらに気づいて精神干渉を試みようと闇色の魔力をこちらに伸ばしてきているが、彼女は全く気にしていない。
何故ならダブルSの
それでも常識的なダブルSであれば単純な地力勝負をしなければならないため、少々面倒な相手ではある。が、ドクター・ワイルドの刺客を退け続けてきた規格外の力を持つオルタネイトの敵ではない。事実、既に五体討伐済みだし、それどころか――。
「今回は飛び道具と攻撃魔法、それから《Final Assault》に、勿論《Maximize Potential》も禁止だからね?」
縛りプレイの指示が出る程だ。偏に雄也の成長によって力量差が開きに開いたためだ。
とは言え、当然安全には配慮している。
「折角アレスがいるんだからな」
「そういうこと。危なくなったらアタシらがフォローするからさ」
縛りプレイ、もとい一種の実戦訓練を行うのはアレスがいる場合のみだ。
そうでない時は、広場前の通路で事前に魔力をチャージして《Maximize Potential》からの《Final Assault》によって一撃でけりをつけている。
日課の
まあ、この方法は逆にイージーモードが過ぎるかもしれないが。
「あ、そうだ。どうせだから条件もう一つ追加。
「ご褒美?」
「内容は達成できたらのお楽しみって奴さ」
意味深に笑うフォーティア。悪戯っぽい感じは随分と怪しいが……。
「……まあ、頑張ってみるか。確かに聞いたからな」
貰えるものは貰っておくべきだ。道端で配られるティッシュも店頭の試供品も。
「二人共。余裕があるのはいいことだとは思うが、余り気を緩め過ぎるなよ。いくら格下が相手とは言え、実戦なんだからな」
「ああ。分かってる」
呆れた風のアレスの忠告に真面目に頷く。それから雄也は一人歩みを進めた。
《Gauntlet Assault》
琥珀色に輝くミトンガントレットを装備し、己に活を入れるようにガンガンと互いに打ちつけて音を鳴らす。そうしながら敵に近づき、その間合いの外で構えを取った。
そんな雄也の余裕を見せつけるような姿を、ラルウァファラクスは挑発と見たようだ。
次の瞬間、巨大な骸骨はその巨体からは考えられない速度で突っ込んできた。
勢いそのままに振り下ろされる握り締められた骨の拳。
平均的な
だが、現在の雄也はフォーティアの指定した条件通り、
それどころか、どの指の骨がどの程度歪んでいるかすら把握できる。
「はあっ!」
迫り来る骨の塊を横合いから右の拳で殴りつけ、強制的に軌道をずらす。逸らされた攻撃は雄也の脇を抜け、地面に大穴を開けた。破片が周囲に撒き散らされる。
しかし、その一欠片たりとも直前まで真横にいた雄也に当たることはなかった。
何故なら、その時には雄也はラルウァファラクスの懐に入り込んでいたからだ。そして――。
「うおりゃああああっ!!」
己より小さい敵を攻撃したが故に必然的に位置の下がった髑髏の顎へと、雄也は手甲に覆われた左の拳を叩き込んだ。
鈍くも激しい打撃音と共に、魔物は頭を跳ね上げられる。それと同時に、敵は体格差などまるでないかのように全身を浮かされて仰向けに吹っ飛ばされた。
一瞬の音の空白。
直後、巨大な黒き骸骨はなす術なく地に落ち、衝撃が空気と広間を震わせた。が――。
「軽い、か」
討伐の証明となる体の分解が生じていない。一撃必殺とはいかなかったようだ。
果たしてラルウァファラクスは難なく立ち上がると、雄也の攻撃によって僅かにずれた首の骨を手で無理矢理に矯正した。
全くダメージがない訳ではないようだが、既に影響はなさそうだ。
闇属性故に修復力も高いのだろう。
そんなことを考えている間に、敵は再び間合いを詰めてきていた。そして、先程と同じ轍は踏まないとばかりに今度は踏み潰そうとしてくる。
「ちっ」
さすがに踏みつけを殴って逸らすのは難しい。
雄也は舌打ちをしながら大きく間合いを取って回避した。
(パワーが足りない、か。やっぱり
スピードとバランスは随一だが、決め手に欠ける。
これまでは通常の
あるいは《Maximize Potential》に頼り切りになる状況もあり得るかもしれない。にもかかわらず、事前に戦闘準備をしている暇がないことなどザラにあるだろう。
そうなれば切り札発動まで四属性それぞれで十秒ずつ耐えなければならない。しかも、《Final Assault》を使用できない状態で、だ。
その時、ものを言うのは各形態に対する理解の深さだ。
恐らくフォーティアは、このことを再認識させるためにご褒美だの何だのと言い出したのだろう。……きっと。多分。
(さて、どうするかな。
そこまで考えて、そんな自分の思考に苦笑する。平凡な大学生だった自分が異世界トップクラス(常識的なレベルでは)の強敵を前にしてよくもまあ、と。
しかし、同時にこの程度ではドクター・ワイルドの足下にも及ばないだろうことも思い出し、雄也は苦々しい気持ちと共に奥歯を噛み締めた。
(こんな条件すらクリアできずに、奴に届くはずもないよな)
そして意識を切り替える。憎き真なる敵と対峙しているかのように。
(……このまま潰してやる!)
「〈チェインスツール〉!」
雄也は空中に無数の足場を作り出し、ラルウァファラクスの頭上を目指した。
対する魔物は黒く染まった手の骨で叩き落とそうとしてくる。
が、雄也は周囲に配置した複数の足場を連続で蹴ることで小刻みに軌道を変え、迫る攻撃を全て回避しながら宙を駆け上がった。
(
十分な高さに到達したところで、雄也は見えない棒を振り上げているかのように両手を掲げた。そのまま柄を掴むような形の両手を振り下ろさんとした正にその刹那――。
《Gigantic Sledgehammer Assault》
電子音が鳴り、両手のガントレットが琥珀色に輝く巨大な槌へと再生成される。
武装も成長しているようで、大きさは以前
「潰れろっ!!」
しかし、現在進行形で生成されている物体にまだ重さはない。
それでも慣性だけは発生する。
「せいやあああああああっ!!」
武装が完成する直前、雄也は気合いの叫びと共に全力で腕を振り下ろした。その勢いを超重量の鎚は余さず伴い、一直線に敵に向かっていく。
武装として完成してしまえば、もはや雄也にも止められない。
その一撃は、ラルウァファラクスが反撃せんと繰り出してきた骨の拳を完膚なきまでに砕き、弾き飛ばして尚勢い衰えず突き進む。
それはやがて髑髏に到達し、敵頭部を粉々に破壊し尽くした。さらに、その衝撃は敵の全身を駆け巡り、膝の関節を吹き飛ばし、その身を支える脛骨を圧し折ってしまった。
次いで槌が地面に突き刺さる。その直前、雄也は柄から手を離し、反動を回避して後方に着地した。大地を揺るがす振動が足の裏に伝わってくる。
その衝撃をとどめに敵の全身の骨がバラバラに外れ、地に転がっていく。そこでようやく漆黒の骨が少しずつ黒い粒子となって分解し始めた。
「ふう」
討伐完了の証たる現象を前に、雄也は一つ息を吐いてフォーティア達を振り返った。
「エクストラミッションもクリア、だな」
「ま、全く常識外れだねえ。次はもう全魔法使用禁止か武装使用禁止にした方がいいかもしれないね。……それはともかく、うん、問題なくクリアだ。けど、ご褒美の発表の前に一先ず魔力吸石を回収してきなよ」
「ああ。了解」
フォーティアの指示に従い、雄也は先程まで骨の山ができていた場所に歩み寄った。既に全てが闇属性の魔力となって世界に溶け込み、消え去ってしまっている。
残されているのは漆黒に染まった石だけだ。
魔力吸石。魔力を留めておくことができる器。言わば、魔力のコンデンサ。
これをMPドライバーに吸収させることでオルタネイトの力が強化されるらしい。
特に光属性と闇属性のそれを規定量得ることによって、アイリスの呪いを解くことができる魔法〈ヘキサディスペル〉を使えるようになるのだとか。
全てアイリスに呪いをかけた張本人たるドクター・ワイルドから与えられた情報に過ぎないが、今のところ呪いを解く手がかりはそれしかない。
(けど、嘘とも思えないんだよな……)
ゲームは公平に。ふざけた物言いだが、何故だか不思議と信じている自分がいる。
(それに、ラディアさんの分析もそれを支持してるし)
実際、光と闇属性の魔力も全くゼロの状態からDクラス程度まで成長しているのだ。
少なくとも無駄ではない。
(何にせよ、できることをやっていくしかないよな)
雄也は魔力吸石を拾い上げ、それを腹部のベルト風の魔動器に近づけた。瞬間、魔力吸石は分解され、中央の琥珀色の光球が漂う穴に吸い込まれていく。
《Now Absorbing……Complete. Current Value of Darkness 4.1276%》
と、電子音が必要量の内どれだけ溜まったかを知らせてくれる。光属性の方も――。
《Current Value of Light 10.0081%》
心の中で問えば、MPドライバーは答えてくれる。
しかし、応答はこれぐらいしかないので少し寂しい。もうちょっと多彩な反応を示してくれるAI(特に女性人格)が欲しいと思うのは、オタクのわがままか。
(……このペースなら一年以内に貯められそうだな)
アイリスの呪いは進行性で一年ごとに新たな症状が増える。
しかし、このまま何ごともなければ、その前に解呪できそうだ。
「で? ティア。ご褒美って何だ?」
「それはねえ」
回収を終え、フォーティアのもとに戻って問うと彼女はそう勿体ぶった。
そして、とんでもなく嫌らしい顔をしながら答えを告げる。
「アイリスの脱ぎ立てスパッツをプレゼント!」
その余りに酷い内容に一瞬思考が止まる。空気も凍った気がする。
「…………それ、どうやって手に入れるつもりだよ」
「アイリスがお風呂に入ってる隙に」
「それが俺の手元にあったら、普通に俺が盗んだと思われるだろうが!!」
「あの子なら許してくれそうだけど」
「それが一番嫌だよ!」
盗んだと勘違いされた挙句、勝手に許されたら言い訳が届かなくなりかねない。
一生誤解されたままというのは正直応える。
「ま、それは冗談だけどさ」
「……ティア、大概にしろよ?」
半眼を向けてやるが、フォーティアは悪びれずに笑うだけだ。
「で、本当のご褒美は?」
「アタシが今日から寝間着をワンピース+スパッツにすること、だよ」
「どっちにしろ、スパッツかよ!!」
「嫌いかい?」
「好きだけども!」
朝に言った通り、スパッツのみにしない辺りが憎らしい。
軽く頭を抱えながら、ふと視線を感じて振り返る。と、アレスが顔をこちらに向けていた。漆黒のフルフェイスに目は隠れているが、呆れの雰囲気が滲み出ている。
「あー、アレス?」
「……心配するな。聞かなかったことにしておく」
僅かに視線を逸らして言うアレス。
「どんな性癖があろうと友人であることに変わりはない、とだけ言っておこう」
「あの、だから、そういう微妙な許容がさ……むしろ精神を削るんだよね……」
「はいはい。そんなことより、今日のノルマは終わったことだし、
火種を撒き散らした張本人であるフォーティアが纏め出す。
「ああ……うん……」
疲れた気分になりながら雄也は彼女の手を取った。
「よっし。じゃあ〈テレポート〉」
最寄りのポータルルームに飛び、そこで変身を解除して協会のポータルルームへ。
魔力クラス的には雄也もこの魔法を使用可能だが、長距離となるとSクラスは必要となる。加えて少々訓練を要するため、素の状態でSクラスになってもフォーティアやラディアにしばらく頼ることになるだろう。
ちなみにアレスは自分で〈テレポート〉を使用している。
「さあて、と。訓練所の手続きしてくるから、ちょっと待っててね」
ポータルルームから出てすぐ、そう言って離れていくフォーティアの後ろ姿を同じく
後は訓練をして、時間が来たら家に帰ってアイリスが作った夕食を食べる。腹ごなしに二人と軽い組み手をしてから風呂に入り、そのまま就寝。
今日は転校生というイレギュラーがあったが、概ね最近の一日はこんな感じだ。
これに時折
「ほんじゃ、行こっか」
しばらくしてフォーティアが戻り、〈テレポート〉で訓練場に飛ぶ。
その後の流れはいつも通りで、特筆すべきことは…………一つだけ。フォーティアが宣言通りにキャミソールワンピースとスパッツを寝間着として着用するようになったこと以外にはなかった。
それから特段何ごともなく日々は過ぎ、プルトナ編入から三日が経った。
授業が終わるとすぐにプルトナが連れ出すせいで、イクティナとの会話が大幅に減ったが、今のところそれだけでフラグ回収の予兆はない。なかったのだが――。
【油断してると危ない】
昼休みにアイリスからそう忠告され、微妙にフラグが積み重なって放課後。
担任のファリスが教室を出るや否やプルトナが机の脇に来て、仁王立ちで雄也の前に立ち塞がった。腰に手を当て見下ろしてくる様はお嬢様キャラっぽい。
「えーっと……何ですか?」
「ユウヤ・ロクマさん! 先日言った通り、貴方がアイリスに相応しい強さを持つか見極めさせて頂きますわ。ワタクシと一対一で勝負なさい!!」
「はあ?」
偉そうに指先を突きつけてくるプルトナの脳筋的発言に、思わず口調がぞんざいになってしまった。中二日開けた理由も分からず、イクティナに視線を向ける。
『どうなってんだ?』
『えと、それは、ですね……』
そのまま〈クローズテレパス〉で問いかけると、彼女は困り気味に言葉を返してきた。
魔力制御が下手な彼女だが、こちらから魔力の経路を繋げてやれば〈テレパス〉に返事をすることぐらいはできる。
『どうやらプルトナさん、何だかんだ言ってすぐにアイリスさんが心変わりして自分から手伝ってくれると思ってたみたいなんです。けど、それがなかったので……』
直接脳に届くイクティナの言葉の内容に、雄也は内心で呆れの溜息をついた。
『オルタネイト探しも全然集中できないみたいで、ずっとアイリスさんを気にしてましたし。ユウヤさんにも凄く文句言ってましたよ……』
『あー……』
『しかも、ユウヤさんとアイリスさんが同棲してることまで掴んだらしくて……』
『マジか』
戦慄を覚えつつも、酷く疲れた様子を見せるイクティナに同情する。休み時間ごとに、下手をすれば寮に帰ってからも単なる愚痴につき合わされていたのかもしれない。
(……このお姫様、本当に面倒臭いな)
「さあ。さあ!!」
雄也達の間でなされた会話など露知らず、急き立てるように迫るプルトナ。無視したらつき纏われそうな勢いだ。心の中だけでなく実際に深く嘆息する。
「分かった。分かったから少し落ち着いてくれ」
尚のこと投げやりに言いながら雄也は周囲を見回した。
プルトナが無駄に騒ぐせいで注目が集まっている。居心地が悪い。
「ではでは、グラウンドに行きましょう。模擬戦の申請は出しておきましたわ」
「ああもう仕方ないな」
「アイリスも。見届けて下さいまし」
【プルトナ。強引過ぎ】
アイリスがジト目を向けるが、プルトナは意に介さず先導するように歩き出す。彼女は教室の出口まで行って、促すようにこちらを振り返った。
「はあ……行くか」
半端ない疲労感から力なく呟いて立ち上がる。と、励ますようにアイリスが隣に立って手の甲に軽く触れてきた。
そんな彼女に頷いてから、同じく疲れた様子のイクティナの肩をポンポンと叩く。
そうして雄也達はグラウンドへと移動したのだった。
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