第九九話:なんか面倒くさいことになりそうなんだけど

「特に問題はなかったようだな」


「当然なのよぉ! もうね、私の禁呪に不可能はないのよッ!」


 バーンとフラットな胸を突き出すように張って、エロリィが言い放った。

 パタパタとバスタオルような服がはためく。

「聖装衣・エローエ」だ。

 エロ漫画が描かれたバスタオルに首を通る穴をあけた物。そいつは、そんなものだ。


 金色のフォトン粒子を拡散させるツインテール。

 そして、魔力ブースト発揮しているのか、ほの青い光がエロリィを包んでいた。

 それは、北欧の幻想の中にしか存在しない美少女。

 いや、むしろ美しき幼女という姿であった。


『この、アインの許嫁の金色ビッチに、私の張った結界が破られるなんて……』


 俺の身体の中に引きこもっている精霊・サラームがつぶやいた。

 ギシギシと歯ぎしりの音まで聞こえてきそう。

 精霊も歯ぎしりするんだな。


『破った瞬間に呪いがかかるようにすればよかったわ』

『一応、俺の許嫁だからやめてくれよ』

『本当にむかつくわ。人間の分際で』

 

 命を糞とも思ってない精霊がプンスカしているが、とにかく成功だった。


 ライサの故郷であるナグール王国での実験は終了した。

 転移魔法で移動する人間のいないこの国に結界を張る。

 それも、精霊サラームが全力で張った結界だ。

 そいつを、エロリィが禁呪で突破できるかどうかを試したのだ。


 結果成功。


 エロリィの禁呪を使った転移なら、相当強力な結界があっても大丈夫ということが分かった。

 これで、俺はシャラートを助けにいける。

 胸のポケットに手を入れた。指先に彼女のメガネが当る。


 メガネので黒髪のクールビューティのお姉さま。

 俺専用の柔らかく大きなおっぱいの持ち主。

 俺の腹違いの姉にして、許嫁1号。中身はサイコパス気味で痴女で暗殺者で……

 でも、俺はやはりシャラートが好きだった。


「あはッ! これであの糞乳メガネを連れ戻せるな。言うこときかなきゃ、ブチ殺せばいいか。ね、アイン」


 緋色の髪の超絶美少女が言った。

 俺の許嫁のライサだ。

 俺は笑みを浮かべ「ああ」とだけ小さく言った。

 ライサも牙のような八重歯を見せて笑った。パッとその場が明るくなるような華やかな笑みだ。


「もうね、私の禁呪で滅茶苦茶にして力の差を認識させてやるのよ! 連れ戻してデカイ態度取れないようにしてやるのよぉ!」


 エロリィも同じような言葉を出していた。

 金髪ツインテールを揺らしながら、美しく可憐な顔を俺に向けた。 

 トコトコと俺に歩み寄ってきた。

 碧い瞳が俺を見上げた。長い金色のまつ毛がときどき沈み込むように動く。


「もうね、疲れたのよ! 抱っこしなさいよ! アイン」

 

 そう言い放つと、正面から俺にしがみ付いてきた。

 俺はエロリィを抱っこする。


「ふふーん」


 エロリィが俺に首に手を回してきた。白く細く柔らかな腕が絡みつく。

 吐息がかかる距離に美しい顔が近づく。


「チュウなのよ! アインのベロチュウが欲しいのよ」


 エロリィはそう言って俺の唇を強引に奪ってくる。

 巧みな動きを見せるベロが俺のベロに絡みついてきた。

 北欧のナチュラルボーン・ビッチの超テクニックだ。

 俺は翻弄されるだけ。脳が溶けそうになる。


「あはッ! このクソビッチロリ姫がすぐ発情しやがって! アイン、私は後からね!」


 ライサが後に回り込み、俺に抱き着いてくる。

 スラリと伸びた手が俺の肩の上。後ろから俺を抱きしめてきた。

 背中に柔らかい二つの丘が当るのだ。

 そりゃ、シャラートよりは小さいかもしれないが、スタイル抜群でキレイな体をしているんだよ。ライサは――

 そのおっぱいが俺の背中に押し付けられた。柔らかい。これも俺専用なのだ。


「あはッ! 交代! 私もアインとチュウしたいから!」


 俺の首を強引に捻じ曲げ、唇を奪うライサ。

 パワフルなベロが俺の口の中を蹂躙する。

 更に、長い生脚を絡めて、腰を押しつけてきた。

 ベロチュウしながらだ。


 自分の故郷で、知り合いがいるかもしれないのに遠慮なしだ。

 まあ、ナグール王国は地滑りで密林と融合してしまっている。

 人はあまりいない。

 基本的に、傭兵とかで出稼ぎに行く人間が多いので、元々国の中にいる人は少ないらしい。

 戦争は終わったが、治安の維持とかで、ナグール王国の人間は引く手あまたとのことだ。


「アイン、もうね、私のおっぱいもみなさないよ!」


 耳元で甲高い声で叫ぶのは勘弁してくれ。

 一瞬、耳がキーンとなる。


 俺は、優しく凹凸の無い滑らかなエロリィのちっぱいを揉んであげるのだった。

 俺に抱っこされたエロリィの呼吸が少し早くなる。


『本当に、アインの許嫁ってビッチばかりだわ。ビッチ・ハーレムだわ』

『いいだろ別に』

『バーカ』


 自分の結界を破られたせいか、サラームが不機嫌だった。

 

 本当はここにもう一人だ。

 俺のハーレムは、ここにもう一人いないとダメだ。


 ライサ、エロリィ、そしてシャラート。

 この3人は、日常的に殺し合いをやってばかりだった。

 今でも、ライサとエロリィは、俺が止めなきゃ殺し合いを始めかねないときがある。

 でも、なんだろう。

 コイツらも言葉にするのが難しい「情」でお互いがつながっているのかもしれないと思った。

 

 俺は、ライサとベロチュウして、エロリィのちっぱいを揉みながらそんなことを考えたのだった。


(あれ?)


 そのときだった。

 なにか、刺すような視線を俺は感じた。


 俺はライサから唇を離した。エロリィのちっぱい揉みも中断。


「あはッ! どうしたの?」


「もうね! どうして止めるのよ!」


「いや、誰かいたような」


 それを感じた方向を見た。

 雑多な木がいっぱい生えているだけだった。

 誰もいない。


「気のせいか……」


「誰もいないのよ!」


「いてもいいだろ? 続き!」


「もうね、私も続きなのよ!」


 俺たちは、イチャイチャするのを続けたのであった。

 視線は俺の勘違いだと思った。


        ◇◇◇◇◇◇


 それは、山城というか、砦だった。

 ナグール王国には、一般にイメージするような城はない。

 塹壕のような堀と、一体となった砦という感じ。

 ここだけ戦争やってるの? って感じの殺伐とした構造物だった。


 そこは一見すると囲炉裏のある部屋に似ていた。

 真ん中に火をたく場所があって、その周りに俺たちは座っていた。

 ただその火をたく場所がでかすぎた。

 風呂みたいなサイズの鍋が火にかけられている。


 中には、グツグツと鍋が煮たっている。

 血のような赤みを帯びたスープの中に肉と山菜とかイモのようなものが放り込まれていた。

 肉は混沌竜(カオス・ドラゴン)であることは分かった。

 後、魚の肉もいっぱい入っていた。


 匂いだけでそれが相当に辛いだろうというのは想像できる料理だ。

 実際に辛い。ただ、不味くは無い。いや、むしろ美味い。


「あはッ! お代わり」


 洗面器のようなサイズのドンブリを差し出してお代わり要求するライサだった。

 もうすでに4食べている。これで5杯目だ。

 この細い身体のどこに、この食い物が消えるんだ?


 給仕の女の人が鍋を中身を移していく。

 ライサはそれを受けとり、餓えた犬のように一気に流し込んでいく。


「婿殿は、どうした食が進まないのかい?」


「いや、あの…… 十分美味しく、食べてますから」


 これまたデカイドンブリを持って、ライサのパパが俺を見つめる。

 これまた、体に比例してでかいよ。

 コントで、天井から落ちてくる金ダライくらいあるはずだ。

 このおっさんの身体でかすぎて、普通のドンブリにしか見えないが。


 俺の食器もライサと同じくらいだ。

 半分食ったら、お腹がパンパンだ。


「混沌竜(カオス・ドラゴン)は、こっちもビンビンにするんだぜ」


 そう言って、右手の指で輪っかを作って、左手の極太の人差し指をスコスコと入れたり出したりする。

 このでっかいおっさん、娘の前でも下ネタ平気。鋼のメンタルだった。


「アイン! 食べるのよ! もっと食べるのよ!」

 

 エロリィが、肉の塊を頬張りながら言った。

 食べかすが飛ぶし、ボロボロ落ちる。

 目の色が変わっているんですけど。

 

「あはッ! 口移しで食べさせようか? アイン」


 ドンブリを置いて俺にすり寄ってくるライサ。

 実の父親の前でそれやるの? 出来るの? すごいね。

 娘の方もメンタルが鋼だった。


「ほう…… ガチぼれかよ。あのライサがな」


 でかいパパが感心した声を上げた。

 確かに、俺の許嫁は全員俺にガチぼれだからね。


「あはッ! アインは強いよ! オヤジより強いかもしれないから」


 バカ、止めてくれライサ。

 こういった、力を信奉してそうな人の前でそれは止めてくれ。


「ほう、そうかよ」


 ほらぁぁ!! なんか、スッと目を細めて俺を見ているし。


「いえいえいえいえ! お父様の方が強いです!」

 

 俺は思い切り首と手を振った。

 風切音がでるくらいだ。


「謙遜かい? 2歳で混沌竜(カオス・ドラゴン)を倒し、この戦争でガチホモ王を倒す。その強さ、生半なものじゃないだろうよ――」


「いや、それは――」

 

 戦えば、この異常にデカイおっさん。

 つまりライサのパパでも俺は負けるとは思えない。

 ただ、この距離はヤバいし、いきなり仕掛けられたら嫌なんだけど。

 なんか、そんな理不尽な空気を身にまとってるよ。このおっさん。


 距離が十分にあれば絶対に大丈夫だが。

 なんせ、俺には――


『それは私がいるからだわ』


 精霊のサラームが俺の思いに反応したかのように言い放った。

 俺の中で完全にドヤ顔。


『それは、そうだが』


 一応、同意する俺。


 俺の強さは、この精霊のサラームがいるからだ。

 この腐ったヲタ精霊様は、俺から離れることが出来ない。

 完全な引きこもりだ。

 俺とアンビリカルケーブルのような物でつながりっぱなし、運命共同体になっている。

 しかも、俺は7つの魔力回路でべらぼうな量の魔力を作ることが出来るのだ。

 俺は強いな。うん、強い。本気だせばチートレベルなはずだ。


 俺は油断なく、ライサのパパを見つめた。

 仕掛けてくる雰囲気は無い。


「ただ、その強さに納得しない奴もいるんだよなぁ……」


「はぁ、そうですか」


「オマェさんのあれだ。武勇伝があまりにも凄すぎるからな。信じない奴もいるってことさ」


 そう言って、ライサのパパは、一気にドンブリの中の汁を飲みほした。 


「キャハハハハ!! もうね、アインの強さを信じられないとかアホウなのよ、死ぬのよ! 殺すのよ!」


 エロリィが叫ぶ。口の周りが食べかすで汚れまくりだった。

 自慢のツインテールにまで食べかすがついている。

 プリンセスとは思えない食事マナーだ。 


(えッ!)


 俺は振りかえった。昼間、感じた視線をまた感じたからだ。


「え? 誰?」


 思わず声が出る俺。

 そこには、男が立っていた。

 隻眼、片腕の男だ。

 全身から抜身の刃のような気を立ち上がらせていた。


「アインザム・ダートリンク――」


 まるで石を投げつけるように俺の名を呼んだ。


「俺と立ち会え――」


 その男は鋼の刃のような言葉を口にしていたのだった。

 俺は顔をグンニャリさせて、その男を見つめていた。

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