第七二話:唸れフィヨルドの烈風! 炸裂スカンジナビア拳法

 金色の光を集めて細く作り上げたような金髪。

 その金髪を束ねたツインテールが揺れている。


 流麗な肢体である。

 空気抵抗を最小限に絞り込んだような、ツルペタボディ。

 ある種の憂い、心の色を映し出しているかのような碧く大きな瞳。

 その瞳に影をつくるほどの長いまつ毛。


 北欧の雪を思わせる白い肌――

 肩を露出させている黒い服がその白さを際立たせていた。

 それは、凄まじい美少女というか、幼女である。


「ぐおぉぉぉぉ!! 美しい! 美しすぎるぞぉぉ! エロリィちゃん! あああ、これぞ、美の極致、ああ、人類が到達しうる美の頂点ではないか! 感動だ。感動しかない。完ぺきな美の前に、我々凡愚は、それを表現する言葉を持たない。ああ、ただ『北欧美少女紀行の表紙』というしかないのではないか? なあ、アイン」


「なあ、アインじゃねーよ。千葉! もう、お前の世界観は特殊すぎて、俺でも追従できねーよ」


「それは、私の完全勝利ということだな――」


 旭日の鉢巻をしめたエルフがふっと微笑みながら言った。

 なにと闘っているの? 君は――


「ふッ、ホモ・リンゴの魔剣の冴え、久しぶりのことよ……」

 

 デンマと掃除機を握りしめ、アナギワ・テイソウタイが言った。

 

「全く、あの魔剣、敵でなくてよかったと思います」


 ふんどしの隙間からホースを生やした変態野郎が言った。

 アナール・ドゥーンだ。


「ああ、世界のどこかで…… 誰かが救いを求めているのかもしれない―― この私になにが出来るのだろうか?」


 木冬木風は澄みきった目で、その言葉を風のそよぎに乗せていた。

 体育座りはそのままだった。


「殺しやるぜぇぇ! この『魔剣アナル・ビーズ』の前に立って生きのこった者はいない」


 トローンとした顔のまま、言葉だけは獰猛。

 話すたびに、プリプリした尻の方から、空気が抜けるような音がする。

 なんか、同じ空間にいるのが、嫌になってくるんだけど。


「きゃはははははははッ!! もうね、アンタは死ぬのよ。スカンジナビア拳法は無敵なのよ! 10兆1847千年無敗の拳法なのよぉぉ!」

 

 精神の安全装置が完全に弾け跳んだような爆笑とともに、エロリィが叫んだ。

 すっと両手を前にあげ拳を握りこむ。

 その碧い双眸が鋭い光を放っていた。ある種の狂気を孕んだ光だった。


「いいのかい? 素手で、魔法も禁呪もなしで、この俺に…… この『魔剣アナル・ビーズ』に立ち向かうのかい?」


 野球のボールくらいの大きさの玉が数珠のようにつながっている。


 すっと、ホモ・リンゴが間合いを詰めた。同時にブンと右手を振った。

 魔剣アナル・ビーズが唸りを上げて、エロリィに迫る。横から薙ぎ払うように吹っ飛んできた。

 

「ちぃッ!」

  

 エロリィが後ろに飛んだ。

 金髪ツインテールが前方に流れる。

 その金色の髪の何本かが、魔剣アナル・ビーズの剣風に巻き込まれ、千切れていく。

 エロリィのツンと尖った鼻先数ミリの空間を魔剣アナル・ビーズが通過していった。


 以前から思っていたのだが、禁呪だけではなく、エロリィは身体能力がかなり高い。

 なんせ、シャラートやライサとの接近戦をこなせるくらいだ。

 そのベースが、スカンジナビア拳法というヤツなのかもしれん。

 なんとも、胡散くさい名前であるが……


 後方に跳んだエロリィに今度は真上から魔剣が襲ってくる。

 辛うじてそれをかわす。

 右――

 左――

 下――

 

 ブンブンと唸りを上げ、鋼のムチが空間を切り裂き迫ってくるようなものだった。 

 ホモ・リンゴの周囲に鋼鉄の制空権が出来あがっているようなものだ。

 もはや、視認するのが不可能な速度で、魔剣が空を切り裂いていた。


「男の純粋な遺伝子に不純物を混ぜる雌豚がぁぁ、この世の女は皆殺しにする!」


「アンタね! 男同士で孕めるわけないのよッ! もうね、頭おかしいのよぉぉ!」


「愛と王の力があれば、可能となるのだあぁぁぁ! 男同士の孕み孕ませ! もはや夢ではない!」


「もうね、気持ち悪い事いってんじゃないわよ! 殺すわよ!」


 交差する叫びに唸りを上げる魔剣。

 確かに、エロリィは上手くよけているが、攻撃に転ずることが出来ない。

 ヒュンヒュンと風を切る音が鋭くなってきている気がした。

 速度が増しているのかもしれない。


「むぅ、これでは、エロリィちゃんが、禁呪を唱えることもできない! 不肖・エルフの千葉、この状況を打開する策が浮かばぬ!」


 ギリギリと歯を食いしばり、拳を握りしめエルフの千葉が血を吐くような言葉をつぶやく。

 確かにその通りだ。

 エロリィが一撃でも喰らえば、一気に形勢は傾いて勝負が決まってしまう可能性がある。


「そこの、可愛い男の子は、王のハーレムに入り、王の子を孕んでもらいうのだぁぁ! 我々には男も孕ませる技術があるのだ!」


 そこの可愛い男の子?

 誰?

 男が孕む?

 なにそれ?


 シャラートがジッと俺を見つめる。

 ライサがジッと俺を見つめる。

 ルサーナがジッと俺を見つめる。


「ああん、どうなの? 男の子同士って…… 大人の女よりいいのかしら。ダメ…… 天成君、そんなの教師として、ううん、アナタを愛する大人の女として許せないの、うふ(どうしましょう、男同士の愛を知ってしまった天成君を、私は、変わらず愛することができるの? ちゃんと正しい道に導くことが出来るのかしら? ああ、私も天成君を激しく責めてあげないといけないのかしら、うふ)」


 俺をじっとりとした淫靡な瞳で見つめる池内先生。

 なんで、俺が男同士の愛に目覚めることが前提なんですか?


「アインよ。オマエ、孕む覚悟はできているか? ちなみに、俺はいつでもお前の子を……」


「できねーよ! お前とちげーよ! なんで、俺が孕むのが前提で話しているんだよ! 千葉ぁぁ!!」

 

 俺は細いエルフの肩をぎゅと掴んでブンブン振ってやった。

 エメラルドグリーンの髪の毛が揺れる。


『すごいわ。まるで、夢のホモ王国ね…… やっぱり滅ぼすのは惜しいわ』


 人の生命を糞とも思ってない精霊様が、初めて命の大切さを感じたようだ。

 相手はガチホモ。

 いい加減にしろよ。腐れ精霊がぁぁぁ!!


 ふわりと黒髪が俺の頬に当たった。

 シャラートだ。

 シャラートが俺に身を寄せてきた。

 相変わらず大きなおっぱい。そして、いい匂いがする。


 ふっと、耳元に唇をよせてきた。


「ああ、アインが私の子を孕んでくれる…… それもまた、アリかもしれません」


 あああ、頭のおかしい俺のお姉様の痴女スイッチがなんでか入ちゃったよ。


「アインを孕ませるのは、私だけです。他は許しません―― 二人に同時に孕む…… ああ、夢のようです。だから、ガチホモは邪魔です。アインを孕ます方法だけ奪って、皆殺しにしましょう」


 愛をささやくように俺の耳元で言葉を紡ぎだすシャラート。


 どうにかしてくれ。このお姉様。

 まあ、俺を守るってのはいいけど、俺は孕むのは嫌だからな。

 つーか、男が孕むとかそんなこと可能なのかよ?

 そんなアホウみないな技術があるのかよ?


「ガチ※ホモ王国では、男同士の孕み、孕ませを研究しております。最近では実用の域に達したという噂もありますな」


 セバスチャンの平坦な言葉が響く。


「なんで、そんなろくでもない技術だけが突出して高いんだよ! この世界は!!」


 外野が騒然となっている中、エロリィとホモ・リンゴのバトルは続いていた。

 といっても、一方的に、ホモ・リンゴが攻めたてているだけだ。

 トローンとしていた顔は徐々に平常に戻って生きている。

 それに従い、魔剣の速度も上がってきているようだった。


「あああ!! 早く殺して、この魔剣アナル・ビーズを元の鞘に収めたい! チョロチョロ逃げくさりやがって!」

 

 もはや魔剣の唸りは軽い風切音ではなく、衝撃波のような轟音になっていた。

  

 床がえぐれ、壁に深く傷が刻まれていく。

 それでも、エロリィはかわす。しかし、その白い肌の上には滴ような汗の玉ができつつあった。


 トンとエロリィが大きく間合いを空けた。

 そして、すっと右手を上げたのだ。


『なに? あの女? ロケットパンチ撃つの? すごいわ!』


 サラームが興奮して声を上げた。

 しかし、人間はロケットパンチを撃つことなんてできない。


 エロリィの取った奇妙な構えに、一瞬警戒の色をみせるホモ・リンゴ。

 尻をプリプリさせながらも、魔剣をその場で回転させていく。

 一気に攻撃には出ず、様子を見ている。


「どうしたのよ? 私の腕を狙うこともできないのぉ? もうね、バカなのぉ? 天才の禁呪のプリンセスに隙はないのよぉぉ!」


 右腕を突き出し、エロリィが言い放った。

 ホモ・リンゴとしても、こうなれば、右腕を攻撃せざるを得ない。

 前に突き出されているのだから、どうしてもまずは、魔剣はそこに当たる。

 下手によけて、変な軌道を取れば、隙が生まれてくる。


「むッ! さすがエロリィちゃん。狙う場所が分かっていれば、かわせるという自信――」


 クイッとエアメガネを持ち上げエルフの千葉が言った。

 さっき、俺が振り回したので、エメラルドグリーンの髪が乱れている。


「ふん、そういうことかい? 俺の魔剣をかわして、カウンター狙いか……」


 にぃぃっと口の端を釣り上げ、ホモリンゴが言った。


「ふん、やってみれば分かるのよぉ!」


 キッと強い光を放つ双眸がホモ・リンゴを見つめる。


「死ねぇぇ!! 右腕もらったぁぁ!!」


 ブオンと唸りを上げる魔剣アナル・ビーズ。衝撃波をまとい空を切り裂く。


 バシャァァァアアアアーー!!


「エロリィィィィ!!」


 叫ぶ俺。白目むいてひっくり返るエルフの千葉。


 クルクルとエロリィの右腕は宙を舞っていた。

 

 エロリィの芸術品ともいえる右腕が切断されていた。


 真っ赤な血をたなびかせ、小さく嫋やかな指のある腕が吹っ飛んでいた。


「殺すのよぉぉぉ!! スカンジナビア拳法! 右拳切断飛翔拳!!」


 エロリィは跳んだ。

 クルクルと回っていいる自分の右腕を掴んだ。

 

「きゃはははははッ! もうね、殺してやるのよ!」


 精神のタガの外れた絶叫とともに、掴んだ右手をぶん投げていた。

 

 魔剣は腕を切り落としたことで、運動エネルギーを消失。

 速度が落ちていた。

 凄まじい速度で迫るエロリィの右拳。

 かわすことができなかった。

 右拳は、血飛沫の尾を引いて、一直線に、ホモリンゴのテンプルを撃ちぬいていた。


 切断された右手をキャッチして、相手に投げつける……

 一体どんな拳法なんだよ。スカンジナビア拳法。


「ぐぉぉ!! なんだとぉぉ!」


 テンプルをぶち抜かれ、ぐらつくホモリンゴ。

 脚にきていた。ガクガクと震える。プリプリした尻も震えている。


 次の瞬間、すでにエロリィはホモ・リンゴの間合いに入っていた。


 ドーン!! 

 

 激しく肉が肉を撃つ音が響いた。

 エロリィの左正拳がガチホモの腹筋をぶち抜いていた。


「あがががががあああああ~」


 前のめりに崩れ落ちるガチホモ四天王の1人、ホモリンゴ。


 ニィィ、っと獰猛な笑みを浮かべるエロリィ。

 右手からの出血は、そこに展開された魔法陣が、止めているようだった。

 転がっていた自分の右手を拾うと、それを傷口に合わせた。

 魔法陣が回転する。青い魔力光の中で、徐々に傷口が塞がり、腕がくっついていく。


「アインから、魔素をパンパンにもらってるから、腕くらいすぐくっつくのよぉ!」


 エロリィは床で「うがうが」と苦しんでいるホモ・リンゴを嗜虐心が溢れそうな瞳で見つめる。


「もうね、そんなに魔剣が好きなら、アンタが味わえばいいのよぉぉぉ!!」


 すっと床に転がっていた魔剣を拾った。

 そして、ヒュンヒュンと振り回し始めた。

 

「きゃはははははは!! こんな武器で私に勝とうなんて、100兆年速いのよぉぉ!!」


「あああ、返せぇぇ…… 俺の魔剣を返してくれぇ……」


 床に崩れ落ち、武器を奪われた、ホモ・リンゴが涙を流して懇願していた。


「そんなに言うなら、返してやるのよ!」


 そういうと、エロリィはふんどしの隙間から魔剣を突っ込む。

 ズブズブと魔剣がガチホモの体の中に沈み込んでいく。


「ほら、ありがたく受け取りなさいよ! ガチホモがぁぁ!!」


 エロリィが獰猛な笑みを浮かべ、魔剣をぐいぐいと捻じ込んでいく。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ~ もっと! もっとぉお!! 激しくぅぅ!! しゅごいぃぃぃぃ! らめぇぇぇ!! 直腸がぁぁぁ、ガンガンくるぅぅ! ひぎぃっ! あああ、白くなるぅぅ! ぎぼぢい゛い゛い゛い゛い゛ッッッ!! ひっぎいいいいいいいいっ!! んほぉぉぉぉぉぉっ! あばばばばっばばぁ!!」


 ガチホモのけがらわしい絶叫が響く。

 絶叫に合わせ、プリプリした尻がプルンプルンと震える。

 おぞましい光景だった。


「もうね、全部しまいなさいよ!」


 エロリィは、普段は外に出ている魔剣の柄の部分を思い切り踏みつけた。

 

「あぎぃぃぃ~ あひぃ、あひぃぃぃ~!! あがががががぁぁぁ~」


 魔剣が柄の部分も含め、完全にその体内に沈み込んでいった。

 ホモ・リンゴはガクガクと痙攣してもはや戦闘不能の状態になっていた。


「クッ…… あのような幼女ごときに、不覚を取るとは、四天王の面汚しよ!」


 ガチホモ四天王のリーダーらしき、アナギワ・テイソウタイが言い放った。


「まあ、あの人は、四天王中では一番の小者ですからね」


 ふんどしの隙間から伸びるホースを握り締めアナール・ドゥーンが言った。


『リアルで、この四天王定番のやりとりがきけるなんて、やっぱりガチホモ最高だわ』


 サラームが俺の中で喜んでやがる。つーか、ホモ・リンゴってずっと立ち位置が、No.2的な感じだったんだけど?


「真理とはなんでしょうか…… ああ、真理とはどこにでもあり、全てに含まれそして、誰にとっても正しい物ではなければならないのでは…… ああ、この宇宙の真理、それはいったいなんでしょうか」


 体育座りをした木冬木風は相変わらず賢者モードだった。


「じゃ、次は私が、軽く殺してきますよ」


 すっとアナール・ドゥーンが前に出た。

 直腸内に弾丸を装填した、究極の変態。

 そして、それをアナルガンというホースから自由自在に発射する。

 戦う以前に、同じ空間にいること自体を避けたいような存在だった。


「アナタは、残念ですが、簡単には殺してあげません」

 

 シャラートがふわりと前に出て、ガチホモ見つめる。

 そして、氷のような言葉を吐いた。


「はい? なんだそれ?」


「死より辛い、恐ろしい目に合せてあげることにしました―― 殺してくれと懇願した後で、殺してあげます」


 全身からどす黒い暗黒のようなオーラーを身にまとうシャラート。

 メガネで巨乳で黒髪の暗殺マシーンが静かに起動していた。

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