第五五話:ガチホモ幻想(ファンタジー)

「しねぇぇ!! ぶっ殺す!」


 炎のような色をした長い髪が舞った。釘バットを振りかぶった美しき殺戮兵器が唸りを上げる。


 ぼぎょん――


 骨と肉が鈍器で叩き潰される音が響いた。

 ガチホモの脳天に釘バットが振り下ろされていた。

 頭がカチち割れ、グズグズ状態。

 首がめり込んで、亀のようになっている。


「ニィィ―」と凄絶といっていい笑みを浮かべるライサ。

 その美しい顔に返り血を浴びていた。

 真っ赤な舌でその血を舐める。俺の婚約者だ。


「あはッ! ガチホモの血も赤いんだね」


 そう言い放つと、叩き下ろした釘バットを持ち上げた。

 穴の開いたホースから水が噴き出すように「プシュー」と血が噴き出した。肉で作ったオブジェ。血の噴水だ。


「なッ! なんだこいつは? このおッ――」


 ガチホモ兵の一人が、悲鳴のような叫びをあげかけたが、その悲鳴は破壊音でかき消される。


 ライサの釘バットフルスイングが直撃していた。


 ガチホモは横殴りの釘バットの一撃で、頭が吹き飛ばされていた。

 血まみれの肉の断面からグズグズと血があふれてきている。空気に触れ、血が粘性を増すことで、ブクブクとあぶくが出来上がってく。


「あはッ! いいね! 命が消えていく瞬間の手ごたえが、ビリビリ来るねッ!」


 ライサは血まみれの釘バットをひょいと担ぎ上げ、周囲を見やった。返り血で全身が赤く染まりつつある俺の婚約者だ。


「て、てめぇ! このクソ女がぁぁ! よくも俺の――」


 身長2メートルを軽く超える筋肉の塊のような男が吼えた。

 ガチホモだ。ムキムキの肉体に真っ赤な六尺ふんどしを締めている。

 巨大な鉄球のような拳が唸りを上げてライサを襲った。


 獰猛な笑みを浮かべたまま、その拳を見るライサ。

 全くよける素振りがない。笑いを美しい顔に貼りつけたまま拳を見ている。


 どごぉぉーん!


 耳がキーンとなるほどの激突音。頭がクラクラする。

 ガチホモとライサが巻き上がった土煙の中にいた。


「ライサ!」


 思わず叫ぶ俺。

 徐々に、土煙が晴れてくる。


「て…… てめぇ。俺の拳を……」


 巨人ガチホモの拳がライサを直撃していたことは、していた……

 ライサは額で巨大な拳を受け止めていたのだ。

 彼女の額から「ツゥーッ」と赤い筋が走る。血だ。

 その血を舌でぬぐい取るライサ。


「あはッ! 全然響かない」


「なんだとぉぉ……」


「あはッ! アインなら、一突きで私の体を痺れさせる――」


 なにそれ?

 俺がいつライサを突いた?

 覚えてないんだけど?


「わぎゃぁぁぁ!! 俺の! 俺の拳がぁぁぁ!」


 突然の絶叫。

 巨大ガチホモが自分の腕を握りしめその場に崩れ落ちた。

 拳がぶっ壊れ、指がバラバラ方向を向いていた。

 白い骨が皮膚を破って突き出ている。


「あはッ! 死ねガチホモ! アハハハハハッ!」


 ライサがブンっと左拳を振りぬいた。

 巨人ガチホモの顔面直撃。「ボゴォ」という音を立てて、顔面が陥没。


「あははははは!! 死ね! 死んでしまえ! 殺してやるから!」


 ゴボッと拳を顔から抜いた。

 陥没した顔から、ピューピューと血が噴き出ている。


「あはッ! ほら! かかって来いよ! ガチホモぉぉ! 全員、ぶち殺してやるから! ド畜生がぁぁぁ!」


 血まみれの釘バットを握りしめ、血染めのメリケンサックを握りこむ。

 美少女の形をした恐るべき殲滅兵器が咆哮する。

 空気が帯電したかのように、ビリビリと震えていた。


「てめぇ!! このバケモノ女がぁぁ」


 六尺ふんどしのガチホモが吼えた。


「バカ! ここは退却だ! 敵の情報を――」


 もう一人のガチホモが声を上げた。

 しかし、このガチホモは口の形を「を」にしたまま、頭が宙を飛んでいく。

 放物線を描き、地面に落ちた。コロコロと転がる。


 チャクラムだ――


 凶悪な光を放つチャクラムが弧を描き宙を舞っていた。

 空気を切り裂く死の旋律の尾を引き、持ち主の手の中に戻っていく。


「楽に死ねて、幸運です――」


 口元に冷え冷えとする笑みを浮かべ、巨乳のクールビューティが歌うようにつぶやいた。

 両手にチャクラムを構えた黒髪の暗殺者。メガネの奥の切れ長の瞳は、完全に殺人マシーンのそれだ。

 血の匂いのする風の中、長い黒髪が舞う。


「ああああッ! ダメだ! こいつら、悪魔だ! パンゲアの悪魔だぁ!」


 この悲鳴が、ガチホモたちの士気を決定的に崩壊させた。

 潰走するかのように、逃げ出すガチホモ。


「ほう…… 威力偵察か? それとも単なる捜索部隊か…… ひー、ふー、みー、残りはどちらにしても見敵必殺! 殺せ! 殺すんだ! ああああ! 戦の神よ! 赤き星の戦の神よ。天空に輝きし、マーズよ! この血を、この戦いを神の贄(にえ)とし、更なる血と死をここにもたらすのだ! 我は求める、敵の死を! 徹底した敵の蹂躙を! これが戦争だ! そうだ! 俺の待ち望んだ、戦争なのだぁぁ!! ぎゃははははあああああああああ!!!」


「大和魂」と書かれた旭日の鉢巻のエルフ。中身は男子高校生の千葉君だ。特濃のヲタ。

 千葉は、絶叫とともに、足もとに転がってきた、ガチホモの頭を槍で突き刺す。

 学校机の鉄パイプをねじ切って作った槍だ。

 

「ぐひひひおぉぉぉ!! いいかぁ! ガチホモどもがぁ! これが貴様らの運命だぁ!」


 そう言うと千葉は、槍の先に突き刺したガチホモの頭を天高く持ち上げた。

 狂ったように叫ぶ、エルフの千葉。完全に戦争中毒者の目をしている。

 ドン引きする俺。


『ひゃははははは! いいわね! このエルフ、笑える! デビ〇マンのオマジュー?』

『しらねーよ!』


 俺の脳内でヲタ精霊が歓喜の声を上げる。とにかく、命が消えていくさまを見るのが最大の娯楽なのだから、始末に負えない。


「むおぉぉぉ!! ここは俺たちが食い止める! お前らは逃げて、このことを伝えろ!」

 

 銀色の褌をした男が叫んだ。当然、ガチホモ。俺ほどではないが、意外にイケメンだった。無駄なイケメンだ。


「あーひゃははははははは!! もうね、地獄行きなのよぉぉ! 逃げられないのよぉォ!!」


 金色のツインテールをたなびかせ、禁呪使いの幼女の叫びがこだまする。


「らめぇ、そんな激しく突いたら、壊れちゃうのぉ、私のちいさな魔力回路をそんなに突かないで、ああん、内臓が上がっちゃうのよぉ、そんなドピュドピュ魔素を流し込まれたら、魔力ができちゃうぅぅ、もう、絶対に魔力ができちゃうんだからぁ、ああん、らめぇ、頭が真っ白になるぅ、バカになっちゃうのよぉぉ、あああああ、いくぅぅぅ!!」


 エロリィは高らかに禁呪を詠唱する。空間に神秘な声音の旋律が満ちてくる。邪な存在を打ち破る聖なる調べだった。


 ビクビクンとエロリィが痙攣する。禁呪を使ったことによる、フィードバック現象だろうか。余剰の魔素が口元からこぼれてくる。白濁したドロドロした粘液。

 そして、逃げていくガチホモたちの上空、その空間が割れた。

 青白い魔力光を放つ無数の鋭く長い刃が次々と降り注ぐ。

 

「ぎゃっぁあああああああ!!」

 

 断末魔の絶叫をあげ、地面に串刺しにされるガチホモたち。

 縁日のチョコバナナのように、地面に串刺しになっていくガチホモ。

 凄まじくえげつない光景が出現。


『食〇族だわ! 再現性高いわ。やるわね。このビッチも』


 アニメだけではなく、くだらないB級映画まで守備範囲にしているヲタ精霊だった。


「あは、はぁ、はぁ、アイン、アインの魔素が欲しいのぉぉ、チュウして欲しいのぉぉ~」


 ダブルピースしながら、ガクガクと震えるエロリィ。その碧い瞳は霞がかかったようにトローンとしている。

 完全にアヘ顔だった。自力で魔法を起動させる禁呪は体にかかる負担も大きいのだろう。

 ふらふらと歩いて、俺にしなだれかかってきた。


「よし! チュウすればいいのか!」


「アイン、チュウなのぉ、ギュッと抱きしめてチュウなのぉ~」


 俺は、震えるエロリィの小さく細い体を抱きしめ、チュウしてあげる。

 エロリィは必死で俺の唇を貪るように吸い付いてきた。

 俺の体の中を流れている魔素がエロリィに流れ込んでいくのが分かった。


「あああん、もうね、アインの魔素の味を覚えちゃうのよぉぉ~」


 チュポンと口を離すと、エロリィはギュッと俺にしがみ付く。

 高い体温と、フラットな体が俺に押し付けられる。


 悪くない――


「くそぉぉ! この魔女どもがぁ!」


「やめろ! オマエは逃げろ! ホモロビッチ!」


「いえ! 隊長! マラスキー! 俺が、俺が―― 愛してますぅぅ!!」


 ガチホモが愛の告白の絶叫。その絶叫の尾を引いて突っ込んできた。


「あらあら、そんなにガツガツして、私のところに来てしまうなんて…… うふ、ああん、私はどうしたらいいのかしら? そんなギラギラした目で見つめて、どうしたいの? 私をどうしたいのかしら?(ああん、天内君たら、あんな小さな女の子とキスするなんて…… ううん、いいの。それでも、天内君に大人の女の良さを教えてあげるの。それが教師として…… いいえ、大人の女としての私の役割だわ、うふ)」


 真央先生の狂った内面描写がダラダラ流れていくが、それに関係なく、突っ込むガチホモ。


「うぉぉぉ!! ガチホモ幻想(ファンタジー)!」


 叫びながら宙を舞ったガチホモ。

 真紅の六尺ふんどしが横ズラしとなり、巨大な槍が出現した。


「あれは、ブロンズですな。ブロンズリングの『ランス・フェノメノン』ですな」


 淡々と解説するセバスチャン。オマエが真っ先に貫かれろ。


「しねぇ! 男はガチホモ転生! 女は転生せず死あるのみ!」


 空中でブンブンと腰を振りながら、急降下してくるガチホモ。

 激しい腰の動きで槍が百烈拳のようになっている。


「ああん、こんなものを私に向けて、どうしよっていうの、うふ(ああん、天成君のなら、大歓迎なのよ、うふ)」


 猛スピードで動く槍を空中で「ひょい」と摘み上げる先生。


「なんだとぉぉ!! この俺の槍をぉぉッ!」


 目を見開き、驚愕に震えるガチホモ。 


「あら、結構、可愛いわ―― どうして欲しいのかしら、うふ(ああん、こんなものを触ってしまうなって、はしたない女と思われないかしら)」


「ぐぉぉぉ!! 女! 女! がはっぁああああああああああああ!! 貴様! なにをぉぉ!!」


「あらあら、気分が悪いのかしら? ああん、どうしましょう――」


 一瞬だった。

 先生に、先っちょをつままれた男は、真っ白い塩の塊となっていた。

 そして、地に崩れ落ち、風の中に舞って存在を消していく。


「あら、いやだわ、どうしましょう。うふふ、私ったら……」


 妖艶な笑みを浮かべながら、巨大な胸をプルンプルンさせる真央先生。

 裸より妖艶なボンデージ姿の英語教師。金髪の頭からは生えた2本の角。

 クネクネとモンローウォークで歩くその姿は、人外で発禁処分。


「うぉぉぉ!! ホモロビッチィィィ!!」


 銀色のふんどしを締めたガチホモが、ふっとい涙の尾を引きながら、地面に崩れ落ちた塩の塊に走って行った。

 塩を手ですくい上げ、泣き崩れている。


「あはッ! 残り一人だね! どうやって殺す? アイン! 頭かち割る? 全身の骨砕く?」


「禁呪なのよぉぉ~。100億万度の火の中で、火あぶりなのよぉぉ、蓑踊りなのよぉぉ~」


「人が感じることができる限界の痛みを教えてあげます。死ぬより辛い地獄をみせてあげます。そして殺します」


 ライサとエロリィとシャラートがガチホモを囲んだ。

 全員がニヤニヤと殺意に満ちた笑みを浮かべている。全員俺の婚約者だ。


「待つのです! その者を殺してはなりません」


 凛とした声が響いた。俺の母親であるルサーナだった。

 その言葉に、俺の婚約者たちが動きを止める。そしてその顔から笑みが消えた。


「お義母様、なぜですか?」


 シャラートがルサーナに訊いた。

 その声音には不満の色が見えた。


「このガチホモには、聞かねばならぬことがあるのです。尋問をしなければなりません。どんな手段を使ってもです」


 静かに有無を言わせぬ口調でルサーナは言った。

 その言葉を聞いたシャラートの目に凄まじい歓喜の色が溢れだそうとしていたのを俺は見逃さなかった。

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