いけいけ!ぼくらの!ブラックサンタ団!!

@dekai3

ブラックサンタ団参上!!

 ここは町の中にある小さな公園。

 時刻はカラスが鳴きつつバッサバッサする頃合いであり、町内放送で流れる物悲しげな音楽を聞きながら良い子はお家に帰る時間である。


「やめてよケンちゃん、返してよー」

「うるさいツヨシ、これはオレんのだからな!」

「そんなー…ぼくのブラックロータスー」


 しかし、沈みつつある夕日を浴びながら、二人の少年が富士山すべり台の上で何やら言い合いをしている。

 どうやらカードゲームのレアなカードをケンちゃんと呼ばれる少年が奪ったまま返さない様だ。


「へっへー、これでオレも強くなれるもんねー」

「ダメだよー、返してよー」

「いやだね-、もうオレのデッキに入れちゃうもんねー」


ズザー


 ケンちゃんは富士山すべり台をすべり降り、近くのベンチに置いている自分の鞄へと手を伸ばす。

 鞄の中には塾の為の筆記用具とは別にカードケースが入っていて、カードケースの中にはケンちゃん考案の最強毒デッキが入っている。


「よーし、これでオレのデッキはもっと最強に……あれ?」


 後はツヨシから奪ったカードをデッキに混ぜるだけだったのだが、カードケースの中にはケンちゃん最強毒デッキが入っていない。

 代わりに、カードケースの中には…


「じゃがいも?」


 そう、大きな丸々としたじゃがいもが入っていた!!


「今よ!」


ポチッ ………テレッテー!テテー!! ジャンジャンジャンジャン♪


 ケンちゃんがカードケースの中からじゃがいもを取り出すと共に、軽快な女性の声と無料サイトでダウンロードしたかのような効果音が流れ出す。


「ほぉーっ!ほっほっほっほっほっほほ!!」


 そして響き渡る高笑い。


「え、なに?なに?」

「ケンちゃん、あそこ!」


 自分も富士山すべり台から降り、戸惑うケンちゃんの横で反対側にある遊具の上を指さすツヨシ。

 そこにあるのはのっぽの海賊の男性の両手がブランコになったという意図がよく分からない謎遊具と、海賊の頭の上に陣取る襟に白いモコモコが付いた黒いミニのノースリーブワンピースを着て、下から見られても大丈夫な様にデニールの濃い黒タイツを穿き、頭には黒いサンタ帽を被る謎の女性。


「ほっほっほっほっ!いくわよみんな!!」


バッ!

ッシュタ!!


 女性は二人が自分を見つけたことを確認すると、高笑いを止めて遊具から飛び降り(※危険なので良い子は真似しないでね)、黒いマントと長い銀髪を翻しながら華麗に着地する。


「おうっ!」

「やれやれ」

「あぃー!」


 そして遊具の裏からは黒いマスクで顔を隠して黒い服で上下を統一した子供達が現れる。

 子供達は腕を組んで仁王立ちする女性の周りに集まると、それぞれ待機のポーズを取りながら女性の合図を待つ。

 女性はそれを見ると ニマリ と頬を持ち上げ、精一杯の悪者っぽい笑い方をしながら合図を出した。


「せーのっ」『ブラックサンタ団、参上!!』


ポチッ ………ドドーン!!


 掛け声と共にそれぞれが思い思いの決めポーズを取り、後ろからは無料サイトでダウンロードしたような効果音が音割れしつつ流れる。


「………なに?」

「………なんだろう?」


 ポーズを決めた事で悦に浸っている女性となんか嫌々やってそうに見える三人の子供達を見て、呆然とするケンちゃんとツヨシ。

 二人は冬休みに入る前に学校で配られたプリントに『休みの間に知らない人や変な人に関わっちゃいけない』と書かれていたのと、『知らない人はともかく変な人って具体的にどういう人の事だよ』と友達みんなで笑いながら話していたのを思い出す。

 ミニスカサンタの恰好はこないだのハロウィンの時に町で結構見かけたし、その色が黒というのも昨今のサブカルチャー的にはそんなに珍しくないので変だとは思わない。

 だが、今時高笑いはダメだ。

 高笑いをするキャラというのは昭和の頃のお嬢様ライバルぐらいであり、平成のツンデレブームを経た後の令和で若い女性がする物ではない。

 ケンちゃんとツヨシが初めて高笑いを聞き、初めて片手を頬に当てながら高笑いをする人を見て、(この人は変な人に違いない)と思ったのは無理もないだろう。


「ケンちゃん、逃げるよ!」


 先に動いたのはツヨシだった。

 普段は気が弱く友達の言いなりになっている様に見えるツヨシだが、実はとても優しく行動力のある子なのだ。

 ツヨシは茫然としたままのケンちゃんの手を引き、公園の外に向かって走る。


「ま、待てよ、オレのカード…」

「カードはぼくのをあげるから、早く逃げよう!」


 手を引かれながらも自分のカードの事が気になるケンちゃん。

 だが、ツヨシの普段は見せない真剣な顔と声を見ると引かれていた手をしっかりと握り締め、逆に自分が先に出てツヨシを引っ張る様に走る。


「わかった。とりあえず家まで行くぞ」

「うん!」


 ケンちゃんとツヨシは幼稚園時代からの友達である。

 ケンちゃんが少し乱暴な所はあるが、それを優しいツヨシがそれとなくサポートしていて、ツヨシが苦手な運動はいつも自慢気にケンちゃんが助けてくれる。

 持ちつ持たれつなこの二人の事だ。これからもきっと仲良く成長していくに違いない。だからこそ、今は頑張って走れ! 変な人から逃げる為に!!!











「え、あれ……?」


 公園に残されたブラックサンタ団のミニスカサンタの女性がポーズを決めたまま情けない声を出す。


「やっぱそうだよな。あいつら仲良さそうだったし」


 女性の側でポーズを決めていた少年が、二人の逃げた方向を見ながら言う。


「あの二人は辺羽健ぺんはけん依模剛よりもつよし。同じ園を卒園した家族ぐるみの友人だ」


 同じくポーズを決めていた眼鏡の少年が、眼鏡の蔓に指を当てながら続ける。


「いいよね~、男の子同士の友情ってぇ〜」


 そして最後に両手を頬に当ててニヤニヤした少女が、どこかしらの虚空を見つめながら言う。


 この三人はブラックサンタに従うブラックサンタ団団員の子供達。

 それぞれが黒い衣服と帽子に黒いマスクを身に着けてはいるが、この子達は思春期特有の黒や闇属性をカッコ良いと思う病気に早熟で目覚めてしまった訳ではない。


「だ、だってあれどう見てもイジメだったじゃん!悪い子じゃん!!」


 思春期特有のアレがソレなのはこちら。

 小学生三人組よりも高い身長と、一部は大人顔負けの戦闘力を持った黒いサンタのコスプレをした少女。


「悪い子なのは確かだな」

「口調が乱暴なのと態度が素直では無いのは悪い事かもしれないが、あの程度は交友関係によっては有りだろう」

「普段の対外に向けた力関係から素直に欲しいって言えないので後で後悔するって分かっていても強引に奪っちゃう子と、それを全部分かっていて許してあげる上にいざ危険な時になると率先して守っちゃう精神的上位の子の関係っていいよねぇ~」

「何よ! ちゃんとじゃがいもになったんだから間違ってないんだからね!!」


 彼女こそがブラックサンタ団の団長のブラックサンタ。

 普通のサンタクロースとは違い、悪い子にじゃがいもや石炭を与える、サンタとは真逆の邪悪なサンタである。

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