イスパニア本格開戦
第193話汚名返上
1574年11月:フィリピン攻略艦隊・旗艦艦上:鷹司義剛視点
ようやくだ。
ようやく汚名を挽回できる。
評定で落ち度がなかったと認められても、落ちた武名が回復したわけではない。
直ぐにでも合戦に参加して、功名を稼ぎたかったが、合戦自体がなければどうしようもない。
正室腹の兄上達は、この5年間に満州・西伯利亜(シベリア)・亜拉西安(アリューシャン)で赫赫たる功名を重ね、武名を轟かせている。
一方妾腹の私達は、疫病の蔓延する台湾への上陸を禁止され、鍛錬と勉学に励むだけの日々だった。
イスパニアの侵略拠点となっている、フィリピンのマニラを占領する計画は台湾侵攻当初からあったものの、台湾の疫病が父上の想定以上であったため、拠点作りが遅々として進まなかった。
台湾上陸当初に疫病による戦病死があまりに多かったため、多くの原住民を家臣に加えて開拓開発を進めたものの、予定していた熟練の戦闘工兵や黒鍬兵の上陸を取り止めたため、拠点となる城や街の建設に5年もかかってしまった。
「陸地が見えます!」
「大将、いよいよでございますな」
「ああ、腕が鳴るよ」
近習の者達もこの時を待ち望んでいたのだ。
評定の後で大将の役を解かれ、この5年間は一海尉として経験を積んできた。
5年も侵攻が遅れたことで、海軍艦艇が増強され、将兵の練度が著しく向上された。
マニラのイスパニア艦隊も増強されてはいるが、鷹司家が派遣する南方貿易隊に手出しする事はなった。
彼らから見ても、マニラのイスパニア艦隊では、鷹司艦隊の南方貿易隊にすら勝てないという事だろう。
マニラの砲台を避けて海兵隊を上陸させ、先に艦隊の脅威となる砲台を占拠するか、大砲を破壊する。
今回も上陸を禁止されているから、また艦上から見送ることしかできない。
多くの台湾先住民を家臣に加え、台湾を鷹司家の版図に加えた後も、台湾に上陸を許可される家臣は限られていた。
世継ぎと部屋住みの次男以降が成人した、自分が疫病で死んでも後継者に困らない者しか台湾上陸が認められなかった。
そもそも自ら進んで台湾派遣を望む者は少なかった。
どうせ命を賭けるのなら、合戦に賭けるのが武士と言うのものだ。
多くの者が満州・西伯利亜・亜拉西安への派遣を望み、その事が予定以上の快進撃を生んでいる。
台湾への派遣を望んだ者は、前回の台湾侵攻戦で汚名を受けた者か、北方派遣を認められなかった南方や明出身の奴隷兵だけだ。
だが明国出身の奴隷は著しく減ってきている。
明国宰相の張居正が、両税法にかわって一条鞭法の導入したことで、官僚も民も税法が分かりやすくなり、不正や汚職の入り込む余地を少なくした。
無駄な官職を廃しいた上に、全国的に検地を実施して隠田を摘発したり、過少申告を摘発したりして、年貢逃れを取り締まった。
その事で基本的な税収を大幅に増やした。
その上で無用な公共事業の廃止したので、明の財政は好転していた。
明にとっての問題は、武田家に臣従した女真族と元の越境略奪だった。
元と女真の略奪に対応する為、各地から徴兵して決戦を挑んだ明だったが、女真に大敗を喫した。
50万や100万の大軍を集めようとも、無理矢理農民を兵に仕立てただけの烏合の衆に、武田家が指揮する女真騎馬軍団が負けるはずがないのだ。
元はアルタン・ハーンとトゥメン・ジャサクト・ハーンが敵対していた上に、両者とも諸王陛下に臣従して朝貢を始めたので、朝貢から排除された一派が明国に略奪に入っていた。
更に女真騎馬軍団に大敗を喫した明国を見て、アルタン・ハーンとトゥメン・ジャサクト・ハーンが配下を率いて侵攻を開始した。
野戦を諦めた明国は、北京に籠城すると同時に、諸王陛下に和平を仲介してくれるように使者を送ってきた。
かねてから張居正などの多くの明国重臣に、正規不正規の使者を送り、接触を持ち続けた父上様の先見の明が効果を現したのだ。
鋭敏な張居正は、このまま多くの軍費を浪費し、農民を無為に死なせ、農地を荒廃させるくらいなら、武田家と対等の条約を結ぶ方が得と判断したのだろう。
もっとも公式書類には、武田家が朝貢を求めてきたと改竄しているかもしれないが、武田家と朝廷の公式記録では、武田家と明国が対等な関係になっている。
武田家が元の諸部族に認めている朝貢の貿易額に比べて、明国が元の諸部族に認めている朝貢額は十分の一以下だ。
これだけ見れば、武田家の方が明国よりも大国に見える。
しかも女真族が長城の内側に侵攻しない代償として、明国沿岸部での対等な貿易を認めさせている。
お陰で北進に必要な兵糧も安価に手に入り、安全な明国沿岸航路も確保できた。
和平の条件として、捕虜になった明国兵50万を解放するように言ってきたそうだが、これは聞けない話だった。
明国人を直接捕虜にした女真族には、武田家から褒美を出して捕虜を買い取っている。
買い取った捕虜は武田家の奴隷になっている。
まあ奴隷とは言っても、働き次第で解放されるから、それほど悪い待遇ではないはずだ。
実際この船にいる元明国人奴隷も、毎日十分な食事が配給されることを喜んでいた。
「沖に出るぞ!」
上陸作戦が完了したようだ。
マニラ攻撃が成功するかどうかは別にして、我々はマニラ湾を封鎖しなければならない。
イスパニアの野望を打ち砕かなければならない。
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