第40話輓馬の大量購入と牧場の再建
○○都銀川崎支店
さて、先週の換金騒動の後で、○○都銀の支店長とは話がついていた。今週も勝てれば定期を作るから、その代わり人員を派遣して欲しいと言う話だ。
ただし所得税を納める必要があるから、1カ月の大口定期にしたいと言ったのだが、納税は3月15日までだから、3カ月の定期にしてくれと言われてしまった。まあ店頭金利より上乗せしてくれたから、損はしていないので問題はない。
先週と同じように、タクシー会社からワンボックスタイプを3時間1万4370円で借りた。都銀の中で、ウィンズが開くまで待たせてもらったが、すでに支店長とウインズ側で話がついていたので何の心配もない。
万が一内部情報が洩れ俺達が襲撃されてしまった場合、銀行側もウィンズ側も大問題になる。だがら都銀の支店では男手を総動員して、8人の人員を確保してくれていた。ウインズ側も、俺達の動きに合わせて警備員を移動させて、普段は中にいる男手を外に出してくれていた。
ウインズで素早く7億2319万9000円の払い戻しを受けて、船橋競馬場で手にれた2252万4300円と合わせて、7億4500万円の3カ月定期の預かり証をもらった。当然先週作った定期預金の証書を、預かり証書と交換して手に入れている。
この日は支店にいる時にすべての準備を整えていたので、ウィンズで払い戻しを受けた直後には、羽田空港に向かう事ができた。それを計算の上で、11時35分羽田空港発、13時10分帯広空港着の航空機を予約しておいたのだ。
10時15分には全てが済んでいたので、銀行の支店に戻って定期証書をもらう余裕はあるのだが、万が一の渋滞や事故の可能性も考慮して、早目に羽田空港に入った。もちろん早目に電車で川崎に乗り込んだ時に、今日昼食や夕食として食べるパンやお菓子をコンビニで購入済みである。
「予約していた空路」
羽田空港:11時35分発
日本航空 JAL575便 帯広空港行
大人4万5400円×2=9万0800円
幼児2万2700円×2=4万5400円
帯広空港:13時10分着
:13時25分発
連絡バス 帯広行
大人1000円×2=2000円
帯広競馬場:14時15分
電車代 :1760円
コンビニ代:5000円
航空機代 :大人2人9万0800円
:小児2人4万5400円
:小計13万6200円
バス代 :2000円
帯広競馬場:パドック
俺達4人が帯広競馬場のパドックに辿り着いた時には、第2競走に出る馬達が姿を見せていた。太郎君と花子ちゃんに馬の状態を見聞きしてもらい、俺は第2競走から最終競走まで馬券を買ったが、ネット投票と現金投票それぞれ26万1170円づつ勝つことが出来た。
ネット投票:26万1170円
現金投票 :26万1170円
帯広競馬場:厩舎地区
「勝也さん、家の馬を買ってくれるのかね?」
「いいですよ、肉代相当の30万円でいいんですよね?」
「ああそれでいい、肉代を支払ってもらえるのなら、後はどう扱ってくれても構わんよ」
「ではお引き受けしましょう」
「そうか! それはありがたい」
「なあ勝也さんよ、家の子はもう10歳で入着も出来ず、上積みも全く見込めないんだが、それでも引き取ってくれるのか?」
「大丈夫ですよ、タイムオーバーで出走できない子なら、養老牧場で預かってもらいますし、出走が可能な子なら、厩舎に空きがある限り入厩させてもらいますよ」
「それは本当ですか?」
「ええ本当ですよ先生」
「家の厩舎は馬房が沢山空いていて困っているんです、勝負にならない子でも構わないと言って下さるのなら、家に入厩させてもらえませんか?」
「構わないですよ、でも勝負になる子や2歳馬の入厩話があったら、何時でもキャンセルして下さっていいですから。僕は馬達の命を繋ぐ事が出来るのなら、厩舎でも牧場でも構わないんで」
「そう言って頂けたら助かります」
「おいおいおい、抜け駆けは止めてくれよ! 馬房が埋まらなくて困っている厩舎は沢山あるんだからよ」
「分かってるよ、でも100頭の引退馬を引き受けて下さるって仰るんだ、もう馬房が埋まらなくて困る事はないだろう」
「だったらなんで抜け駆けしようとしたんだよ」
「そりゃあ・・・・・家の厩舎の成績が悪いからよぉ~、頭では分かっていても、つい言っちまったんだよ」
「しゃねぇ奴だなぁ、誰だって先行きは心配なんだよ」
「まぁまぁまぁ、調教師の仕事を続けられたらそれが1番ですよね。でも帯広競馬自体の先行きが不安ですよね、でも、僕が養老馬を預ける事はなくなりません。ですから牧場経営者になられるのなら、馬の世話は続けられますよ」
「あの、ちょっといいですか?」
「え~と、どなたでしたっけ?」
「騎手の景浦アキの婚約者で、景浦牧場の牧場長を務めさせて頂いている、八頭仁吾と申します」
「ああ、2人とも獣医資格をお持ちだと聞いていますが、本当ですか?」
「本当です」
「養老馬を引き受けたいと言う事でしょうか?」
「景浦牧場で引き受けさせて頂きたいと言う事もあるのですが、僕達の友人で牧場を廃業した男がいるんです」
「御2人の友人と言われると、同級生の事ですか?」
「そうなんです」
「それだと随分と若いですね、話しぶりからすると、廃業したくてした訳ではなさそうですし、親の代からの借金で廃業せざる得なかったのですか?」
「ご想像の通りです」
「で、友達が牧場を再建するための収入の柱に、養老馬の受け入れをしたいと言う事ですか?」
「仰られる通りです」
「先祖代々の大好きな牧場を廃業するほどですから、破産宣告していて信用が無いのではありませんか?」
「いえ、廃業したのは駒田が高校1年の頃ですから、彼が破産宣告をした訳ではありません。それの破産はしておらず、駒田もお母さんも酪農ヘルパーをしながら、借金の返済を続けています」
「なるほど、牧場経営では借金が返せないから、収入が計算できる給料取になって、確実に借金を減らしておられるのですね。それでも、出来れば牧場を再建したいと言う事は、牧場自体を手放していないと言う事ですか」
「はい、設備は古くなっていますが、乳牛をやっていた頃の設備が残っています」
「だったら少し手を加えれば、養老馬の受け入れは可能でしょうね。ですが借金額によったら、養老馬の受け入れだけでは返済が出来ないのではありませんか? 働き手は母親と御友人だけなんでしょう?」
「それはそうなんですが、輓馬ならサラブレッドや牛が食べないような粗飼料でも飼う事が出来ます。だからこそ、養老牧場でも6万円で預かることが出来ます」
「う~ん、率直な話、人の人生を左右するような決定は下したくないんですよ。具体的な借金額と利息を教えてくれませんかね。そうでないと、御友人を助けるために、先生方と約束した、厩舎を埋めると言う約束を破らなければいけなくなります」
「借金額は残り2500万円です。金利はありません」
「よくご存じですね」
「景浦牧場が保証人になったお金ですから」
「それは、景浦さんと幼馴染で、景浦さんと八頭さんと友人関係であるのにもかかわらず、金の貸し借りの関係になってしまっていると言う事ですか?」
「その通りです、でも開拓時代から共に助け合って来たお隣さんです。苦境に陥った時こそ助け合うのが普通です!」
景浦みゆきさんが、俺と八頭君の会話に割りこんできた!
幼馴染の事が余程心配なのだろうが、それも話を聞けば当然だ。北海道の開拓時代から、肩を並べて助け合って土地を開墾してきたのだろう。共倒れにならない範囲なら、借金の肩代わりしてやろうと言う漢気のある家があってもおかしくない。
こう言う浪花節は大好きだ!
俺も河内で生まれ育った河内のおっさんだ、あぶく銭の使い方くらいは心得ている。
「そうですか、でも先ず友人同士の金の貸し借りから解消した方がいいですね」
「どう言う事でしょうか?」
再び八頭くんが会話を引き受けた。
「私が駒田牧場の借金を肩代わりすると言っているんですよ」
「本当ですか?!」
「ええ、でも確実に返済をしてもらわなければいけませんから、経費から計算してみましょう」
「はい!」
「お話から想像する範囲では、新たに設備投資する必要はないのですね?」
「乳牛の設備を養老馬用に変えるのに、多少手を加える必要があるかもしれませんが、それほど多くの費用がかかるとは考えられません」
「次は経費ですが、医療費と装蹄料は俺持ちですから、必要なのは飼葉代だけですよね」
「はい、輓馬なら1番安い牧草ロールで十分肥育できます。350kgのロールが5000円で買えますから、1日25kg食べる輓馬でも、1カ月1万5000円もあれば十分です」
「確か馬は、体重の2・5%の餌を1日で食べるのでしたね」
「はいその通りです、よくご存じですね」
「それなりに調べましたから。ふむ、海外産の牧草が値上がり傾向ではありますが、倍以上に値上がりしても、1頭当たり3万円粗利があるのですね」
「はい、その通りです」
「2500万円に1%の利息を付けるとして、月割なら2万5000円程度、生活費に30万必要と考えても、利息込みで月27万5000円返してもらえば、8年で返済が終わりますね」
「そうなりますが、利息を取られるのですか?」
「まあそうですね、ですが1%で貸すのはべらぼうに低い金利だと思いますよ。確実に返済できる仕事まで斡旋しているのですから。5%や6%貰っても罰は当たりませんよ」
「それはそうですね」
「最悪の状況を想定しても、20頭預ければ60万の粗利になります。今の牧草相場のままだと、90万ですから、返済しながらでも十分な生活が出来るでしょう」
「はい! ありがとうございます」
「待ってください、調教師の先生方との約束があります。僕が売ってもらえる馬の頭数と、空き馬房の数を計算した上でないと、約束は出来ませんよ」
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